Acadexit:学術→非研究職のビジネスへの転身方法3選と当人・企業双方の心構えと待遇
上記記事は局所的に長きにわたって読まれているようです。どうやらアカデミア(学術)からビジネスに転身することをAcadexitと呼ぶ風潮があるそうです。とある方のTwitterリスト「Acadexit」に入れて頂いて知りました。
そうこうしている間にWEB岩波さんに「アカデミアを離れてみたら」という特集が組まれていました。呼ばれていませんが他の方のAcadexit事情がうかがえることを楽しみにしています。近いうちに私のも書きますが、第一回の牧野博士の場合は非常に円滑な例だと捉えています。3年前のデータサイエンティスト職というのが実にちょうど良いです。今はデータサイエンティストも量産されているので、同じ路線を辿ろうとすると難易度は違うということを添えつつ、本題に戻ります。
今回の新型コロナウイルスの影響で景気は低迷していくのは自明と思われますが、非常にまずいなと思うのが政府の支出が多いことです。私の居た研究グループがまさにそうだったのですが、独立行政法人の予算を当てにしていたら311の震災復興の影響で予算が尽き、解散する流れになりました。今回も同じことは起きうるのでAcadexitの着陸方法についてお話したいと思います。
今回お話しするAcadexitは日系企業を想定してお話します。ここ数年の好景気時には渡米・渡中する形で羽ばたいていく博士取得者も多く、「博士取得後に高収入を提示される」ケースが見られ良い時代になったと思っていたのですが、2020年4月末現在ではそうも言って居られませんし、いつから働けるかも分かりません。また、研究費がすっぱり打ち切られたりすると生存が第一なので国内民間企業(非研究職)にさっさと就活するのが良策でしょう。もちろん国内で働ける外資系は応募してよいと思います。
日本国内に存在する新卒一括採用、年功序列、終身雇用、定期人事異動については上記をご覧ください。
大学という学術のバベルの塔を学士卒業・修士修了し、新卒として第一階層からスタートするのがメインストリームです。一部、理系人材を重用する企業では多少賃金が上乗せされます。また、2012年前後からゲーム系ベンチャー会社を中心にプログラミング能力が高い新卒向けにエキスパートコースを設けたりしていますが、徐々にその動きは拡がっています。
これを博士取得者に適応してみると何が起きるかを見ていきましょう。まず青線。これはよくテニュアに乗った教授方が主張される流れです。「民間は歩み寄りなさい」というコメントをTwitterなどで見たことはありませんか。
欧米のジョブ型採用では、従来のギルド制度の大体として大学が位置付けされ、その卒業生が資格取得相当の能力があるとして受け入れられています。日本型メンバーシップ採用では地頭が重視され、その後の経験年数=能力として捉えられます。年次で昇級していく伝統的なパターンもあれば、メンバーで一定の成果を収めてからリーダー→マネージャー→…と昇格していく場合もあります。
つまりスライドしていくのであればその職種における能力、もしくは能力にリーダーシップ・マネージメントを倍加されていると判断された場合はうまく行きますが、どちらも学術からスライドするには相当なハードルでしょう。
次に赤線。ただでさえ学術のバベルの塔から降りるのにメンバーからスタートするというのは納得し難いものです。私も案内に従って新卒と一緒に会社説明会に参加し、隣の修士生に「失礼ですが・・・おいくつですか?」と聞かれたりしました。ビジネス側の採用担当からすると「新卒として扱ってよいのか中途として経験を認めてよいのか、未経験だと思ってよいのか何かよくわからない人」が博士であり研究職です。
ただ「だから(赤線は)駄目な選択肢だ」と思うのは早計です。比較していただきたいのですが、例えメンバーからのスタートであっても学術の時より給与が高いケースは多いです。実は私はこのルートのメンバースタートでした。博士課程のときの額面と比較すると上昇しましたし、有期ではない正社員待遇という点を考えても相当な改善でした。
一般的な日本企業では「ビジネスでやっていけるのだろうか」というところが博士採用で不安視される一つなので、何年かビジネスでロンダリングして改めて専門分野と組み合わせた転職をするという戦略もアリだと考えています。
続いて特別待遇のケースです。最近ではGAFAへの人材流出を懸念した大手企業でも見られる施策です。
このケースで難しいのは既存社員とのバランスでしょう。経験年数=能力という文化のところにポッと出のポジションが出てくることになります。特殊な技能であってもプロダクトに反映させるためには既存社員の協力も必要です。このマネージメントは実に難しいと思います。
また、学術とビジネスのターゲットとする環境の差も考慮しなければなりません。情報系でAndroidアプリを研究の一環で作成している人で考えてみます。学術であれば想定した環境下において想定した動作をすればゴールになります。これがビジネスであれば期待されるアプリは様々な意思決定に基づいた複雑な仕様ですし、機種依存もあれば、OSバージョンも違い、ユーザーの環境も使い方も千差万別ということになります。研究の専門性をそのままビジネスに持ち込めることはまず無いでしょう。
正社員ではなく業務委託として迎えるという方法もありますが、うまく行かなかった場合の救いをどこに求めるのかというモデルケースがあまりないのが二の足を踏むところです。ただ、よくよく考えてみるとテニュアに乗るまでのキャリアは有期の業務委託みたいなものなので、点々とできるだけのフットワークや繋がりがある自信があれば大したハードルではない人も居るでしょう。
3つめは既に一部の企業では実現されていますが、他職種と独立した専門職コースがある企業を選ぶということです。リーダーシップやマネージメントはさておき、純粋に専門性で評価されるというものです。
一見問題がなさそうですが、この方法は日経大手企業ではあまりなく、ベンチャーが多いため人材側が業界研究や企業研究をせねばなりません。以前とある国立大学の教授とお話をする機会があったのですが「本校の卒業生としては何はともあれ大きなところに行って欲しい。楽天はスタートアップ。」という仰っておられ、ここ数年急成長中の企業は全く興味を持って居られませんでした。なんという天界人。この姿勢は非常にマッチングが難しいです。Acadexitを目指す皆さんはフラットな視点で業界研究・企業研究をする姿勢から始めるのが最重要です。
かくいう私も当時は企業に対するイメージがないところからスタートしたため随分と苦戦しました。このあたりの顛末は近いうちに書きますが、(私が就職を決められた手法でもある)転職を中心とする人材紹介会社に行ってみるというのをオススメします。博士や研究職はこれまでお話してきたようにビジネス側の採用担当からすると難しい存在です。博士が先に入社していて居ればイメージもつきますが表面に出てこない情報でもあります。企業や業界に明るい専門家に相談することで、自力で業界研究・企業研究する時間を大幅に短縮することができるでしょう。
厳しい時代ではありますが、まずは生存することが先決です。前回と同じまとめではありますが、 私でよろしければ相談にのります。人生を諦める前にDMでもしてください。
追記:私のAcadexit経験。