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声掛かり待ち依存の就活・転職活動の落とし穴──レコメンド時代に必要なキャリアの“主体性”
アベノミクス以降、エンジニアバブル下ではITエンジニアの数を採用することに注力する企業が増加しました。そしてエンジニアバブル後の現在では、いたずらに採用人数を確保する企業は減少しています。
求人はあるものの採用ハードルが高いので転職に難航するようになりました。苦戦する候補者の方に見られる共通した背景として、就活や転職における誰かによる企業のレコメンド文化に慣れ過ぎてしまっていることがあると考えています。下記のnoteでも少し触れましたが、今回はそれを掘り下げてお話します。
採用チャネルの多様化と、プッシュ型就活・転職の一般化
2015年からのアベノミクスに伴い、就職氷河期が終わり、エンジニアバブルが始まりました。これに伴い、就活や転職活動のチャネルも大幅に拡大しました。いくつか代表的なものをピックアップします。
拡大し続けた人材紹介
中途人材紹介から始まり、2010年前後には第二新卒まで対象が拡大していきました。
もちろん候補者、企業の双方のマッチングを高めるように介在する人材紹介会社や担当者も居る一方で、「行動量を高めて数を捌く」タイプも数多く存在します。
数を捌く方向に振り切っていくと、業界知識が薄いウブな候補者に対し、決定がしやすかったり人材紹介フィーが高い企業に寄せていく傾向が強いです。
担当者の言うことを聞いて転職が決まるうちはまだ良いのですが、候補者が年を重ねたり、職歴を重ねたりして「決まりにくい人材」になっていくと相手にされなくなります。
スカウト媒体のブーム(2014年頃のダイレクトリクルーティングブーム)
本来スカウトはヘッドハンターなどにより現職で目覚ましい活躍をしている人に声をかけるものでした。プレスリリースなどで露出した人たちを中心に名簿を作り、メール、手紙、電話などで声掛けをするというものです。
2014年頃から始まったのがダイレクトリクルーティングのブームです。現在も多数存在するスカウト媒体ですが、従来であればリスト化されていない人をピックアップして口説くものから、自主的にデータベースに登録した人に対して企業が口説くというものになりました。
スカウト媒体が広がっていった結果、特別なヘッドハンティングからキャズム越えし、マッチングサービスに近い開けた存在へと変化していきました。
スカウト媒体の特徴としては、自社のことを認知していないような人たちに対して「うちと話しませんか?」とナンパすることにあります。そのためカジュアル面談にて企業紹介、事業紹介をすることが求められます。
各社スカウト媒体については企業に応募する機能もありますが、あくまで補助的な位置づけです。しっかりと企業を調べて応募するのではなく、受動的な「ナンパ待ち」を促進していきました。
これには注意が必要です。需要のあるスキルセットであったり、若くて職歴が綺麗だったりすると大量のスカウトが届きます。しかしそこからズレるとスカウトは激減します。あるスカウト媒体ではカスタマーサクセス担当者が「スカウト返信率を高めるために40代、50代の人へのスカウトを増やしましょう」と呼び掛けて居たりするほどです。
新卒採用におけるスカウト媒体の登場(2010年代中盤〜)
現在では新卒でもスカウト媒体は存在しています。
研究活動に一定のアウトプットがあり、採用企業が求める人物像と合致している場合は有効です。受動的な「ナンパ待ち」も可能になっています。
その一方で特に専門性がない状態の就活生もおり、プロフィールが白かったり、サークルを頑張りました、みたいな内容の人も居られ、頭を抱えます。
それでも昨今のスカウト媒体では中途も含めて生成AIによるスカウト文作成も広がっていることから、採用企業は「無」の状態で送信できます。候補者が何者でなくても、内定が出るかは不明ですが声はかかる状態になっています。
新卒採用における1on1/逆求人イベントの始まり(2010年代中盤〜)
1on1/逆求人イベントは、一般的に一つの会場に学生が20-40名集まり、企業もまた10-20社程度集まります。
よくある流れとしては下記のようなものになります。
事前の候補者情報展開
現地集合
企業紹介
候補者自己紹介
候補者、企業共に面談希望相手の書き出し
時間割が組まれ8-12ターンでの面談
【学生】取り組んでいること、やりたいことのプレゼン
【企業】改めての自社紹介
企業から学生に対し、カジュアル面談を誘う
懇親会
企業から学生に対する声掛け
基本的に婚活パーティーです。候補者目線では、学生時代に主張できるもの(エンジニアの場合は実装物)があると有名企業からの声掛けも多く、ハーレム状態になれます。
中には企業から義理で声が掛かっている程度にも関わらず、「とても求められている」と勘違いするケースも見られます。口説かれたと思うことで希望が持ててしまうため、内定が無いにも関わらず、振り返りなしに同じ姿勢で就活を続けてしまう方も居られます。
これは良いのか悪いのか分からないところですが、新卒1-2年目であっても、就活の経験から著しく「カジュアル面談慣れ」しているケースも多く見られるようになりました。企業を適当にあしらう能力が身についていたりします。
新卒学生向けハッカソン(2010年代中盤〜)
類似の事象として学生対象のハッカソンもあります。厳しめのフィードバックをする企業がある一方で、風評悪化に繋がることを懸念してダメ出しを躊躇し、当たり障りなく終えてしまう企業もあります。候補者にとっては勘違いしやすいポイントでもあります。
リファラル採用のブーム(2020年頃〜)
新卒・中途ともにリファラル採用が活況です。エンジニアバブル下では人材紹介やスカウト媒体、そしてそれを後押しするRPOにお金を積むというのが王道でした。現在はキラキラとしたスタートアップでもリファラル採用の割合を誇るような節もあるほどに比重を占めています。うまくいく企業では4割、非常にうまく行く企業では7割ほどを占めます。
こちらも声掛けという点ではスカウトに似たようなところがあります。他社の友人・知人から求人について声が掛かったり、転職の相談をした際に案内が貰えるような状況を維持しなければ、やがて声が掛からなくなります。
世間は中高年に厳しい 令和の35歳エンジニア転職限界説
仮に需要があり続け、それに対して希望年収が声掛け企業と見合っていたり、リファラルネットワークを構築し続けられていれば継続して声が掛かる可能性があります。しかしそうでない場合、年齢を重ねていくと厳しくなります。
現在、採用市況感を見ていると、年齢に対する期待値が明らかになりつつあります。
新卒
ITエンジニアのような専門職であっても、自社にマッチする人物像であれば業務未経験でも歓迎(手厚く研修される)
27歳
第二新卒にカウントされなくなり、未経験歓迎枠から外れ始める
30歳
言われたことをこなすだけではなく、自立して動けるかどうか
退職理由が他責だと合格が遠のく(急にオトナ扱いされる)
35歳
リーダー経験が欲しい
40歳
何かしらのマネージメントの経験が欲しい
エンジニアバブルが際立った際、CX(Candidate Experience 候補者体験)が非常に盛り上がりました。これは採用企業が欲しい人物像に対し、自社の印象を向上させるための施策です。しかしその欲しい人物像からズレた候補者には適用されなくなりました。
声がかかるうちは華なのですが、年齢を重ねていたり、スキルセットが求人票に対して芯を食っていない状況になってくると、急に売り手市場から買い手市場に変わります。
企業からの「うちに応募しませんか?」というナンパ待ちの姿勢から、急に志望理由を抱いて応募しなければならなくなります。この変化に対し、あまりにエンジニアバブルが長く、CXが重んじられた期間が長かったため、ついていけない方が多く見られます。
特に35歳のハードルで躓く方が増えてきました。2025年現在の35歳の世代はエンジニアバブル(2015年-2022年)の初期に初めての転職が掛かっています。エンジニアバブルの終焉と共に35歳のハードルが目の間に立ちはだかり、転職活動に苦戦する方が見受けられ、「令和の35歳転職限界説」を感じる人たちが登場し始めています。
YOORサロンについて資料・動画公開です。
— 久松剛 レンタルEM (@makaibito) October 7, 2024
エンジニアバブル下で払拭されたかのように見えるエンジニア35歳転職限界説。
しかしここに来て一部の人において再度転職難に繋がっています。
その背景と対策についてお話しました。
令和の35歳エンジニア転職限界説 https://t.co/j7D714qfYN#YOOR
無理に今、転職する必要はありません。いつか転職するその日に備え、転職市場の変化を理解し、これまでのキャリア選択を自分の言葉で、自責で表現していかなければなりません。
あわせて人材業を頼らずとも声が掛かるような横のつながり、リファラルネットワークを意識して構築していくことが必要です。
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