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【WALK】#9

僕は映画館にいた。

これは、何の映画だ?

見覚えがある。あぁ、あの映画だ。

僕の人生を変えた、大ヒット映画。

あ、ほら、あれ、僕なんだよ。

セリフが沢山あって覚えきれないし、演劇の演技と、映像の演技が違い過ぎて、毎日撮影に行きたくないって泣いていたんだ。

そう、あの時のハルキ君みたいに。

ふと、横を見ると、ハルキ君がいる。

「あれ?どうしてここに?」

「ユウヤ、君は僕の友達なんかじゃない。」

「え?」

激しい頭痛が僕を襲った。

ふらふらと倒れそうになると、女の子が駆け寄ってくる。

「・・・だれ?・・・ユキ?」


ハッと目が覚めた。

・・・ここは?

「あら、起きた?」

保健室の山川先生だ。

あぁ、ここは学校の保健室か。

「僕はいったい・・・。」

「浜辺さんが連れてきてくれたのよ。」

「浜辺さん・・・?」

僕の寝ている隣のベッドに、ユキが眠っていた。

山川先生は、僕のことを起こして、聴診器で胸の鼓動を聞く。

「うん、大丈夫ね。」

と、微笑み、ユキの方を見る。

「この子、激しい運動しちゃいけないのに、あなたの助けを呼びにここまで走ってきたのよ。ただの貧血だから大丈夫って言ったら、安心して寝ちゃったわ。今は大丈夫だけど、この子にとっては命がけだったのよ。」

「本当に大丈夫なんですか?」

「ええ、今のところは問題ないわ。」

「・・・どうして、動いちゃいけないんですか?」

「あら、聞いていないのね?・・・この子、肥大型心筋症なの。」

「肥大型心筋症?」

「簡単に言うと、心臓の下にある心筋が、大きく膨れ上がってしまう病気ね。」

「はあ。」

「心臓に負担をかけると、本当に危ない病気なの。」

「そうなんですか・・・。」

「それに、一種のパニック障害も患っていて・・・。」

「パニック障害?」

そう聞いた瞬間、ユキが起き上がった。

「おはよう、ユキ。」

山川先生は、そう言って、話すのをやめた。

「あ!ユウヤ!起きたの!?よかったぁ、本当に心配したんだよ。」

「ごめん、ありがとう。」

「よし、じゃあ先生はお仕事があるから席を外すわね。」

と、立ち上がり、僕の耳元に顔を寄せた。

「男になりなさい。」

「へ?」

先生はいたずらに微笑んで、「あんまり遅くならないようにね。」と、言って部屋から出て行ってしまった。

ユキが僕の顔をじっと見ている。

「・・・な、何?」

「顔赤いから。」


「だからそんなんじゃないって!」

先をすたすたと歩くユキを追いかける。

「だって、先生がユウヤ君に耳打ちした瞬間顔真っ赤にしてたもん。いやらしい。」

「何言ってるんだよ・・・ほら、あんまり早く歩くと、身体に良くないんじゃ・・・。」

ユキは立ち止まり、ユウヤをムッとした顔で見る。

「・・・本当に先生は口が軽いんだから。」

「大丈夫なの?」

「心配してくれているんだ。」

と、ニヤッと笑う。

「だから、授業にも参加していないの?」

「うーん、まあそうかな。」

「・・・そうなんだ。」

「そんなに心配なら、一緒に演劇やろ?」

「いやだから僕は・・・。」

と、言いかけた時、ユキは僕の手を引っ張って、家の中に入ろうとした。

「ちょ、ちょっと待って、ここは?」

「ん?私の家!だからユウヤも帰らなかったんでしょ?」

「え、そんなつもりじゃ・・・。」

本当に強引な女の子だ。

無理やり引っ張られて、ユキの家に入った。

女の子の家に入るのは初めてで、なんだかそわそわした。

「・・・お邪魔します。」

僕の家よりもはるかに大きいリビングには、大きなソファーと、テレビが置いてあった。

「はい、座って!何か飲む?」

「あ、うん。」

「麦茶とオレンジジュースあるけど。」

「麦茶で。」

ユキは、なんだか楽しそうにキッチンに向かっていった。

「誰もいないの?」

「うん、いないよ!いつ帰ってくるかもわからない。」

「そうなんだ、何している人なの?」

ユキが麦茶の入ったコップを二つ持って戻ってきた。

「うーん、また今度話すよ。」

「・・・。」

「でさ、さっそく、”天才”の続きを考えたいんだけど!」

「だから僕は・・・。」

「嫌だなんて言わせないよ!私の秘密を知った罰ゲーム。」

えへへと笑うユキ。

「そんな・・・。」

ため息交じりに窓の方を見ると、水槽が置いてあった。そこにはなんやら見覚えのある生き物が・・・。

「え!亀飼っているの?」

と、水槽を覗き込んだ。

「え?もしかしてユウヤも?」

「うん。」

「亀っていいよね。本当にマイペースで、我が道を行くって感じがしてさ!」

「そうなんだよね!僕も大好きなんだ。うちの子はトキって言うんだ。この子の名前は?」

「かめぞう。」

「かめぞうって・・・。」

と、笑おうとしたが、何か聞き覚えのある名前に体が固まってしまった。

「私ね、ユウヤの大ファンだったんだ。」

「・・・どうゆうこと?」

「あのクリスマスの公演会。同い年で、こんなにも輝いている人がいるんだって、びっくりしたのを覚えている。・・・それで、私もあんな風に輝きたいって、その劇団のオーディション受けたの!」

「え?」

「それでね、合格したの!ただ、もうその子はいなかったけどね。只でさえ雲の上の存在だったのに、あっという間に更に遠くに行っちゃった。」

「・・・。」

「あたしね、この高校生活にかけてたの!自分の弱さを克服して、怖かったけど、もう一度あの舞台に立ってみたかった。でも全然ダメ。一人じゃどうしようもできないし、人に話しかけようとすると、体の震えが止まらない。」

「君に一体何が・・・?」

「でもね!」

ユキが言葉を遮る。目には涙が溢れていた。

「そんな時に、昔憧れた、あの天才がいたの!しかも同じ学校に!・・・彼は毎日一人で、誰も近づけない雰囲気を出して、屋上で眠るの。昔と変わらないオーラがあった。」

ユキは、僕の手を、両手でぎゅっと握りしめた。

「お願い!一緒にやろう?ユウヤに何があったかは知っている!あの時嫌というほどニュースで見た。でも、この出会えた奇跡は、私たちの人生の大きな転機だよ!」

僕は、ユキの思いに、ただただ圧倒されてしまった。

気づいたら、僕からも涙が零れ落ち、彼女を抱きしめていた。


<続く>

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