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【ショートショート】憧れの一軒家
今年で50歳、かなり周りに遅れを取ったが遂に念願の一軒家を手にした。
「おめでとう、あなた……。これで少しは生活が楽になるのね」
22歳の時に結婚した妻には、ここまでかなりの迷惑をかけた。
当時はお金も無く、働いては税金に持ってかれる日々。
思い返せばあの時代から、日本の経済は資本の分散化が進んだのであった。
2040年代半ば、日本の生産年齢人口減少がピークを迎えた。加速する地方都市の崩壊に伴い、国から出されたのはとある施策だった。
『一家族十戸建て政策』
世帯主に対し、国は10の市町村に属する住民票を分割し、その対価として10の戸建て住宅を渡す制度が出来た。
表向きにはリモートワーク社会が定常化した働き方、また過密する都市一極集中の解消。居住地にこだわらず、日本各地に自身の住居があることによる、新しい生活スタイルの確立であった。
しかし現実問題として、住民税・固定資産税など一人当たりの各種税金も軒並み増幅し、働けど働けど生活が苦しい、国民総貧困化を招いたとの見方もある。
ある時は過熱した不動産が、今や負動産となってしまったのだ。
そのような背景もあり、世間では割り当てられた住居を国に償還し、少ない住居を持つということが、理想の生活だとされた。
そうして私も約30年、こつこつ資金を貯めてようやく9軒の住居を手放すことができた。
これで念願の一軒家を手にすることが出来た。