文芸誌つむぐ(京都芸術大学大学院文芸領域 小説創作ゼミ)

文芸誌「つむぐ」は、文芸評論家の池田雄一先生、作家の藤野可織先生が教員を務める「京都芸術大学大学院文芸領域 小説創作ゼミ」の第1期生有志で結成。言葉を「つむぐ(紡ぐ)」ことで人と人との絆をつくり、文学の可能性を追求したいという思いがある。2024年冬の創刊号を準備中。

文芸誌つむぐ(京都芸術大学大学院文芸領域 小説創作ゼミ)

文芸誌「つむぐ」は、文芸評論家の池田雄一先生、作家の藤野可織先生が教員を務める「京都芸術大学大学院文芸領域 小説創作ゼミ」の第1期生有志で結成。言葉を「つむぐ(紡ぐ)」ことで人と人との絆をつくり、文学の可能性を追求したいという思いがある。2024年冬の創刊号を準備中。

最近の記事

「創刊号」17編の作品をめぐる座談会

「文芸誌つむぐ」創刊号に掲載された17編の作品について、有志メンバーが感想を語り合いました。いずれも「つながってる?」というテーマのもとに書かれた作品で、多様な世界観があります。大学院のゼミの課題と違って、誰もがのびのびと書いているのが印象的でした。座談会の内容にはネタバレの部分も含まれます。あらかじめご了承ください。(5340文字) 座談会出席者:近石和香子(近)、小林麻衣子(小)、平祥(平)、和奏(和)、友姫(友)、矢内原美邦(矢)、キミシマフミタカ(キ) 「ヒマラヤ

    • 創刊号完成! 「文学フリマ」東京&京都出店

      お待たせしました。 お待たせし過ぎたかもしれません。 文芸誌「つむぐ」創刊号、無事に入稿しました。「つながってる?」をテーマに17の短編を収録、232ページです。12月1日に発行予定です。   「文学フリマ東京39」に出店します。 12月1日(日)12:00〜17:00(最終入場16:55) 会場 東京ビッグサイト、西3・4ホール。 ブースは「し-59〜60」。(入口の真正面です) 入場料1000円。   なお「文学フリマ京都9」にも出店します。 1月19日(日)11:00〜

      • 読書|『秋の図書室』 この秋に読むべき3冊❶〜❸

        ❶ 『隣の国の人々と出会う 韓国語と日本語のあいだ』 斎藤真理子著 文・森野水茎 (793字)  コロナ禍に晒されている間、御多分に洩れず部屋で動画を見る時間が増えた。初めて動画配信サイトを契約し、友人の勧める韓国ドラマを見る機会を得た。その時に韓国語の音の響きに驚いた。それまではニュース番組でアナウンサーが発する強い調子の韓国語しか聞いたことがなかったので、俳優の口から語られる表現豊かな音に魅了された。  元々韓国文学は好きで特にハン・ガン氏の小説は読んでいたが、この本

        • 紀行文|小特集『ひみつの旅』❹〜❻

          ❹「モーツァルトに逢いたくて」 文・平祥 (931字)  モーツァルト、といっても、あの有名な天才作曲家のモーツァルトではない。連続テレビ小説『虎に翼』で戦前の法服が話題になったが、私の中で法服といえば英国法廷で着用される伝統的なガウンとモーツァルトみたいなカツラだ。    このモーツァルトな方々に遭遇したくて、ロンドンに行くたびにひそかに立ち寄るところがある。それが、法曹院があるテンプル。  観光スポットでもなんでもない地区だが、ここにはキリストの聖杯やら十字軍やらその周

          紀行文|小特集『ひみつの旅』❶〜❸

          ❶ 「馬で旅する人」 文・森野水茎 (825字)  スイスの古い小さな村を訪れるのが好きだ。イタリアとの国境にあるカスタセーニャ(Castasegna)という村は「栗の里」として有名で、毎年秋には約三週間続けて栗祭りが行われている。なんとローマ人が栗の木を運んで来たらしい。ある夏、有名な“トルタ・ディ・カスターニュ(栗タルト)を食べに村を訪れた。屋外のカフェでスモークした栗を使った上品な味を堪能していると、遠くに二頭の馬が見えた。他の村でもそうだが、何気なく馬がいる。馬が歩

          短編|『蒼天』

          文・阿壇幸之 (1410字)  弥七は空を眺めるのが好きだった。  少しばかり広い額に手を当て、顎を突き出して眺めていた。あいている手は腰の肉を抓むようにして手持無沙汰を紛らわした。その眼差しは、たとえ分厚い雲があったとしても、突き抜けるようであった。弥七の眼には蒼い空、そのものが見えているようだった。私は、膨らんだ祖父の鼻腔を下から見上げるのが好きだった。  私の眼には、空は、何よりも澄んでいるように見えた。言い換えるならば空に敵うようなものはない。そう思えた。これほど

          エッセイ|アリノスコロリ

          文・近石和香子 (1700字)  去年の春、会社の事務所にアリが大量発生した。事務所は2階にあって、窓際の席にアリが列をなしていたから、どうやらアリは外の花壇から上がってきたようだ。あんな小さな身体で(あとで調べてみたら、たぶんヒメアリかサクラアリ)よく壁伝いに2階まで登ってきたものだ。  そういえば、著作権の関係で本文を載せることはできないが、ある大学の英語の長文読解で、「なぜ昆虫は重力を恐れないのか(ここは英文)、本文に即して日本語で説明しなさい」という問題が出たこと

          短編|『オカルト』

          文・キミシマフミタカ (5332字)    オカルトの話になったのは、僕が金縛りになった話をしたからだ。僕と彼女は仕事の打ち上げで、たまたま隣の席に座った。初対面だったけれど、年齢が近いこともあって仲良くなった。僕はデザイナーで、彼女はフリーの雑誌記者である。  僕はその年、ひどい肩痛に悩まされていた。職業柄、PCに向かう時間が多いので、昔から肩こりに悩まされていた。妻にいわせると、いつもすごく不自然な姿勢で画面に向かっているという。仕事をしている間じゅう、肩を怒らせ、背中

          エッセイ|峠を越えてハイになる

          文・友姫 (2127字)    エントリー峠。それは自転車の大会への申し込み時に、越えなければならない道。  募集人数に対して参加希望者が多く、あっという間に定員に達してしまう。そんなエントリー競争の厳しさを、山道の登坂が困難であることにかけ、皮肉を込めて私たちはそう呼んでいる。スタートラインに立つための最初の一歩。  その夜もわたしはパソコンの前に姿勢を正して夫と並び、スタンバイしていた。時計を睨み、受付け開始と同時にキーボードを叩く。名前、住所、電話……。少しの迷いも

          短編連作|『打ち子伝』 ⑵

          文・ハル ハヤシ (4112字) 2 リサ、誘拐される  俺は打ち子、相変わらず人の金でパチンコを打っている。大きなシンジケートの小さなグループのサブリーダー、中間管理職にも満たない組織の歯車だ。今朝、知らないアドレスからショートメールが届いた。あと30分寝られたのに、振動で起こされた。そういうのは無視するのが俺の質(たち)だ。いつもの通り店の前に並んだ、そのときだけが俺が季節を感じるとき。店の中は季節のない騒音だけの世界。そろそろ靴を買い替える必要がありそうだ、寒さが靴

          エッセイ|小さな葛藤 『も』

          文・矢内原美邦 (1749字)  戯曲を書いていると、あんなこともあった、こんなこともあったと、何度もうなずきながら書く。考えてみると、私は忘れるということが一番怖いことのように思って生きてきたのかもしれない。それは幼い頃に目の前で祖母を交通事故で亡くしてしまったことも関わっているんだろう。「亡くなった人のことをいつまでも憶えておくわけにはいかないよ」現場に一緒にいた母は美容室の仕事をしながらお昼は忙しくそうに言うんだけど、夜中になると祖母の写真を見ては「なにもできなかった

          書評|『中上健次短編集』

          文・キミシマフミタカ(2480字)  わりと最近(2023年6月)岩波文庫から発売された短編集だ。初期作品から後期作品まで、(編者の道簱泰三に)選び抜かれた10編がバランスよく収録されている。長編のイメージが強い作家だが、中上文学の物語世界が凝縮された短編作品も魅力的だ。  ここでは、中上文学を論評するのではなく、文体について考察したい。  作家にとって文体の変化は必然なのだろうか。変わる作家、あまり変わらない作家がいる。この短編集は、作家活動の初期から後期までが網羅さ

          エッセイ|I Scream for Ice Cream (Cones)

          文・和奏 (2533字)    アイスクリーム・ショップでアイスを食べるとき、カップを選びますか、それともコーンですか?    わたしは絶対コーンがいい。でもいつからか、コーン派の大人はわりに少数派かもしれないと気がついた。    夏に(いや夏じゃなくても、)出先でアイスを食べるとき、結構な確率でわたしの周りの大人たちはカップを選ぶ。べつに、コーン代を別途支払うお店によく行くからとか、アイスを一度に4スクープも5スクープも食べるからとか、そういう事情があるわけじゃない。それな

          短編連作|『打ち子伝』 ⑴

          文・ハル ハヤシ (4280字) 1 パチンコ店、静まる   俺はパチンコの打ち子。未成年なので本当はパチンコ店には入れない。でも、背が175センチあり、顔をマスクでかくせば誰もわからない。それに最近はコロナを心配してみんなマスクをしているので、ますます安心だ。 「打ち子」というのは、簡単にいうと人の金でパチンコを打つ仕事。俺はそのサブリーダー。店で他の打ち子の監督もしている。  パチンコって知らない人も多いだろう、教えてやろう。サイコロを振って当たりの目が出たら1万

          短編|『湯ヶ島』

          文・キミシマフミタカ (4132字)  湯ヶ島の四つ辻に、笑顔の「井上靖」が立っていた。坊主頭の少年で、絣の着物に帯を締めている。少年「井上靖」は四つ辻の真ん中で、くるくると回り出す。両手を横に広げて、バレエダンサーのように回転し始める。上手なものだ。すごい早さで回転するため、竜巻みたいな風が巻き起こる。落ち葉が浮き上がって、大きな黄色の渦になる。僕らは関心してそれをしばらく眺めた。「しろばんば、しろばんば」と少年「井上靖」は声を上げる。  暮れもおしつまった頃、僕と妻は

          映画評|『ジャックは一体何をした?』

          文・キミシマフミタカ (1119字)  デヴィッド・リンチの新作短編映画である。時間は17分と短いが中身が濃すぎる。フィルムノワールふうの白黒画面。どこかの鉄道の駅、殺風景な取調室らしきところで、容疑者の猿を相手に、刑事役のデヴィッド・リンチが取調べを行っている。何かの容疑があるらしいのだが、何なのかよくわからない。そもそも取調べなのかどうかも定かではない。    会話の噛み合わなさは、もはや神懸かり的だ。それはこんなやり取りだ。 「お前は現在または過去において、共産党の正