創作 研修
研修タイトル
「効率的な降霊術実践編」
はじめに
儀式は以降画面に表示される手順に沿って行うこと
最後まで必ず実施すること
儀式の最中、直接第三者に見られたり配信やチャット等で中継を行わないこと
手順に必要なものはこの後説明するが、必ず儀式開始前に用意しておくこと
お手洗いによる離席等によって、長時間画面から目を離さないこと
本儀式は研修中のみ有効となる
上記に反した行動をとった場合、どのような現象が起こったとしても、当方は責任を負いません。
決して手順に逸れた行動はせず、正しい手順を実施することを心がけてください。
それでは、短い間にはなりますがお付き合いいただければと存じます。
…
画面には意味深な画像や奇妙なビープ音の様なものが流れている。
恐らく儀式の手順を示しているのだろうが、解読する事はできない。
…
ここまでのご静聴有り難うございました。
最後に本研修につきまして、一点訂正が御座います。
本研修は「効率的な降霊術実践編」と銘を打っておりましたが、正しくは「術者が死者の魂に乗っ取られる儀式」となっております。
お詫びして訂正すると同時に、あなたの肉体を頂けることを深く感謝致します。
再三にはなりますが、本日は誠にありがとう御座いました。
以上が友人のパソコンに残された録画ファイルの内容だ。
夕方頃、面白い研修が始まったと言う文言とともに、真っ黒な写真がチャットで送られてきた。
たまたま友人宅の近くにいたこともあり、意味不明なチャットを茶化してやろうと家を訪ねた。
ドアの前に辿り着き、チャイムを押したものの反応がない。
チャットに返信しても既読がつかず、少し苛立ち始めたところでドアが若干開いていることに気がついた。
何度も尋ねたことがあったため、何も考えずドアを開けた。
電気がついていないためか、辺りは真っ暗で全く見えないので、玄関にある明かりのスイッチを押すが反応がない。
電気が切れているのかと思い、スマホのライトを頼りに廊下を歩く。
部屋のドアを開けると、パソコンの明かりだけがついており、友人は椅子に座っていた。
近づいて正面から覗き込むと、友人は椅子にもたれかかって寝ていた。
研修中に何やってんだと思いつつ画面を見ると、「ありがとう御座いました」と表示されている。
あのチャットが送られてから30分も経っていないにも関わらず、終わってしまったのか?
真偽を確かめようと、友人を起こそうとするが、全く起きる様子がない。
ふと気がつくと、息をしている様子もない。
まさか…
そう思いつつ手首の脈を確認したところ、脈が止まっていた。
その後、警察と消防を呼び、警察からは殺人を疑われもしたが、外傷のない心停止だったため早々に解放された。
友人の親族から、付き合いの長かった自分に端末内のデータの整理を頼まれ、上記の様な録画ファイルを見つけたのだ。
友人はこの手のオカルトコンテンツが好きで、創作小説や動画、ゲームプレイを日常的にしていた。
「俺は霊感なんてないから、霊的現象なんて信じてはいない。だからこそ楽しいし遭遇してみたい」と友人は言っていたが、まさか画面を鵜呑みにして実施してしまったのだろうか?
あれから幾日が過ぎた頃、友人が息を吹き返したと風の噂で聞いた。
嬉しくなり早速チャットをしたものの、返答もなく既読も付かなかった。
家を訪ねても居留守を使われ、最初から知り合いですらなかったかの様な扱いをされてしまった。
再度訪ねた頃には、友人が住んでいた一室は空き家になっていた。
彼の行動は、傍目から見ると人が変わってしまった様に見えたが、それを確かめる術はもうない。