機動警察パトレイバー2 the Movie 2
音響関係交々
絵作りの現場が佳境に入る、丁度その頃。我らがカントクは嬉々として音響・音楽の制作現場へと乗り込んで行ったのであります。…が、その楽しいはずの音響現場では、問題が続発していたのでありました。(絵の方もだけどね)
中でもキャスティングの妙(謎)は、当時轟々たる論議を巻き起こしたりもしたので、御記憶のオールドファンの方も居られることと思う。
何せ、メインキャスト以外はほぼ全員が素人さんで、声優経験が皆無どころか当節流行りのタレントですらなく、その場に居ただけのスタッフのおっさんまで使っているのだ。(注1)
問題は他にも数々あったのだが、個人的に印象深かったことがひとつ。本作では前作以上に重要な役回りの御存知特車二課第一小隊長、南雲しのぶさんの中の人が、カントクとモメたのだ。それまで「ヨシコさん(はぁと)」などと親しげだったカントクも、彼女の余りの役作りの真摯さと本作に求める芝居の方向性のズレから、中々折り合いが着かなかったのだ。時間が解決して、現在ではまた良い関係性を取り戻せてはいるが、以来数年間は全く交流がなかった位だ。(注2)
それらの問題の一部は、後年のサウンドリニューアル版制作の切っ掛けにこそなってはいなくとも、前作にも増して積極的に取り組む動機になっているだろうことは、想像に難くないだろう。前作と違って素材も残っていたので、より良い形でリニューアルされていると思う。
飛躍のとき
前作に続いて本作もまた、30年を経てなお根強い人気を誇る名作だが、制作現場の会社的には更に重要な意味を持っている。ビジネス的に大きく踏み出すきっかけになった作品でもあるのだ。
それは、この作品で初めてそれまでの下請け、孫請けのみの自転車操業からステップアップし、製作者の一員として出資、権利の一部を獲得できたからだ。これが当時としてはなかなかに画期的で、新興弱小企業だったI.Gにとって『衣付きのせいさく』に名を連ねるのは、非常にハードルが高いことだった。(注3)
近年は現場の重要性も認知度の向上と共に重要視され、徐々にではあるが待遇も改善されつつある。だがもしこの時の関係各社の理解と英断が無かったら、業界全体の体質改善は大幅に遅れていたのではないかとさえ思う。
日本のアニメ史、業界史に於いて、などと言うと大袈裟かもしれないが、少なくとも当時の劣悪な環境の現場でもがいていた我々にとっての本作は、ある意味象徴的な作品なのだ。
みつ
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注1:オリジナル音声版のこと。何と冒頭シーンの「発砲は許可できない!」云々とか、編集のK須氏の声だし…他にも某テレビ局アナとか、脇役は畑違いの人ばかりで、素人耳にも違和感ありありだった。映像のクオリティに対して、キャスティングの余りのアレさは、公開当時話題の的だった。詳細は伏せるが、他のセクションとは違って人手不足によるものではない、とだけ言っておく。
注2:2001年の『ミニパト』の制作時には元の「ヨシコさん(はぁと)」に戻っていたが、もしもこの時の確執が無かったら、本作に続く某別作品のキャスティングも変わっていたのかもしれない。当時、アニメで女傑役と言えば、先ずこのヨシコさんが第一人者だったので、『少佐』の中の人が別の声優さんに決まった時には、一寸驚いた。
注3:下請法などが整備されるより以前のこととて、末端の現場に対する風当たりは強く、「生かさず殺さずの農民に録を分け与えるようなもの」などと陰口を叩かれたりもした。別会社の設立やら社名の変更やらと、会社が色々激変、激動した時代でもあったが、この作品への関わり方がその後の業界事情を一変させたと言っても過言ではない。