12 - 新たな扉・1
チョコと初めて会うことになったあの日、私は沢山の贈り物のような言葉をチョコと千華さんから受け取りました。でもあまりにも自分の常識や理解を超えた内容に、数日は思考も体も固まってしまったようでした。自分が感じたものを頼りに、受け取った言葉を整理していくのには、ある程度の時間を要しました。
でも実際に目の当たりにした、あの時のチョコの真摯な目と、彼女の真っ直ぐな私への想いは、事実として、今の私のリアルな記憶として、すぐさま私の心の中に深く刻み込みまれました。同時に、私の意思とは関係なく、勝手にこみ上げてきた感情や涙も一緒に。
きっと、私達は過去のどこかで、本当に一緒に長い時を過ごしたのでしょう。そう思えるだけの確たる何かが、私の気持ちの奥底に芽生えていました。また、過去から現在、未来へと引き継がれていく『魂の記憶』に気付かされてから、少しずつ、私の意識にも変化が起きていきました。
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当初は、今生以外の記憶が無いことを残念に思っていました。もし、本当に宇宙にいたことがあるならば、折角の豊富な経験や知識を、少しでも覚えていたらいいのに、と。でも、記憶に残るのは良い経験ばかりではないのかもしれません。あまたある、辛く悲しい出来事も覚えているのだとしたら。。。やっぱり全てを忘れて、過去を引きずらないからこそ、今生の自分を思い切り、なんの先入観もなく楽しむことができる。必要だったからこそ、人間は全てを忘れて生まれてきているのかな?と思うようになりました。
日々の暮らしでも、変化は現れていました。例えば、早朝ににぎやかにさえずる小鳥たちや、芝生の上で食事を求めて走り回るリス、公園を嬉しそうに散歩をする犬たち。また青空の下、楽しそうにお喋りに興じる人たちなど、そのひとつひとつの存在を目にするにつけ、私たちは、全ては過去から未来へと流れる命の連鎖の一部なのだと思うようになっていました。
ひょっとすると身近にいる人や動物は、過去に一緒に時間を過ごしたことのある存在かもしれない。もしかすると、来世でまた一緒に時を紡ぐことになるのかもしれない。そう考えるだけで、道端に植っている大きな樹木や、公園のゴミ箱の周りを走り回るネズミにすら、なんだか妙な親しみを感じるようになりました。
また、今までは友人や家族、ペットとの別れが、特に死というものが、私にとってはとても恐ろしく、忌むべきものでした。その人との関係が終わってしまう、断たれてしまうと想像することは、身が縮こまるほどに怖いものでした。でも、もしかすると次の人生でもまた、逢えるかもしれない。自分で選ぶことができるならば、逢いたいと願えば、きっとまた出逢える。そう思えるだけで、やみくもに恐れていた死を、別れを、少しだけ身近に捉えることができるようになりました。
そして。。。何より、チョコのような存在がいてくれること。遥か遠い昔から、私を知る仲間がいる。時を超えて、空間を超えて、生き物としての種別さえも超えて、引き寄せられる存在がいる。そのことを知った時、私はそこに深い愛情と、揺るぎのない安心感を感じることができました。無性に懐かしくて、満たされるこの感覚。それは、チョコの瞳を見つめた時に感じたものと、同じものでした。この奇跡に思いを馳せる度に、溢れ出す想いと涙で、私はいつでも幸せな気持ちに浸ることができるのです。
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私は幼い頃から、人付き合いが少し苦手なところがありました。周りの空気を読むのが下手だったこともあり、いつも大勢よりも特定の親しい友達と一緒にいることを好みました。ついつい限られた環境にまとまりがちだった私でしたが、父親の仕事の関係で国を跨いで各地を転々としながら過ごした十代は、おかげで世界の広さを認識することができました。中学校3校、高校3校に通った経験は、人との付き合い方や自分のあり方を学ぶ、良い機会となりました。
でもその反面、どこに居ても、なんとなく馴染み切れない、ちょっとした疎外感を感じることも増えていきました。パズルのピースが合いそうで、微妙に合わずにはめられないような、そんな感じが常に私につきまとっていました。
周囲の勧めで、家電デザイナーとして企業で働き始めてからも、その傾向は無くなるどころか顕著になり、朝パチリと目覚めた瞬間から、明確な違和感として感じるようになっていきました。それでも日々の出来事に忙殺され、それが何なのかと、きちんと向き合うことはしませんでした。毎日混雑する電車に揺られながら、会社までの道のりをゆらゆらと進む雑踏に身を任せながら、何年も(生きるってなんだろう?私ってなんだろう?)とぼんやり考える毎日を過ごしていました。
そんな時、導かれるようにして出会った友人と、アメリカのセドナを旅する機会がありました。大自然の中で自分を見つめ直し、今という時を認識できた時、自分の未来は自分で選ぼう、そう決めたはずでした。
それまでの環境から自分を解放するために心機一転退職し、婚活を経て今の旦那さんに出会い、日本を飛び出すようにしてNYに移り住みました。新鮮な気持ちで新しい環境にチャレンジするのは楽しく、なんとなく寂しかった心も満たされて、穏やかな日々が続くように思えました。
つづく。