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04 - お姫様だったチョコ・1

「魂の記憶?」


突然の言葉に驚きながら、涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔で、私は呟きました。


まだ微動だにせず私のことを見つめ続けるチョコに、メグがいじけて「私もここにいるんですけど、チョコさん?」と声をかけてみます。それでもチョコは、私から視線を外さずにじっと座り込んでいました。


ぼーっとした不思議な心地よさに浸りながら、ふと
「ありがとうね、チョコ」という言葉が私の口をついて出ました。


するとチョコは気が済んだのか、フイと立ち上がってウォフウォフとつゆみおばちゃんの元へ歩み寄りました。「どうしたの、チョコ?」と不思議そうにおばちゃんが頭を撫でると、嬉しそうに体を預けながら、ペロペロとおばちゃんの顔を舐めました。


おばちゃんがお茶を淹れている間に、私たちはダイニングに場所を移しました。チョコは千華さんの周りをぐるぐると周り、「アタシ、この人がアタシの言葉がわかるって、知ってるんだから!」と言わんばかりに、千華さんに向かってウォウウォウと吠えました。


そんなチョコに、千華さんは少し身を屈めて「ちょっと待ってね。ちゃんと話しを聞くからね」と言葉をかけました。私たちは、これから一体どんな話が飛び出てくるのかと期待に胸を膨らませながら、熱い眼差しを千華さんとチョコに向けました。


千華さんはお茶を淹れてくれたおばちゃんにお礼を言って、改めて姿勢を正してチョコの顔を覗き込みました。黙って2〜3秒そうしていたかと思うと、突如、口を開いてこう言いました。


「ああ、チョコちゃん、過去生で毒殺されています。」


「毒殺??」


突然の穏やかでない言葉に、一同ギョッとして千華さんとチョコを見ました。


「前世で、チョコちゃんはお姫様だったことがあるようです。女王様になることを予定していたお姫様だったのですけど、即位されたら困るっていうのを理由に毒殺されてます。」


それを聞いた途端、つゆみおばちゃんが小さく叫びました。
「なんてこと。。。!」


私はその時、(犬の世界にもお姫様とか女王様っていう身分制度があるの??随分と知識レベルの高いワンコの世界ね!)と面食らっていました。そんな私に構うことなく、千華さんは視線をチョコに戻しながら、続けました。


「なので、信頼している限られた人からしか、食べません。他の人からもらう食事には、何が入っているかわからないから。」


おばちゃんは、ハッと息を呑んで言いました。
「だから、だからなの?私から以外は決してご飯を食べようとしないのは。公園に行っても、おやつをくれる人がいても決してこの子、食べないの。」


「そうですね。毒が入ってたら困るから。その時も、普段は見かけない給仕係に出された食事を食べて、亡くなっています。」


「なんてこと!しかもこの子、私が手でご飯をあげないと食べないの。お皿からは直接食べないのよ」と驚いたおばちゃんが言いました。


「お皿に盛られたご飯は、誰が用意したかわからないし、何が入っているかもわからないから。最後の食事でそうやって用意されたご飯を食べて、一人ぼっちで死んじゃっているので」


そう淡々と続ける千華さんを、チョコは「やっとわかってくれたのね」とでも言うように、満足そうに見上げていました。


つゆみおばちゃんの家には、息子のヒロくんが一緒に住んでいます。おばちゃんが忙しい時にはヒロくんがチョコのご飯を用意してみるのですが、それには決して口をつけないのでした。


「だから、一人になるのも怖いんです。誰かが立ち上がっただけでも、『一人にしないで!』って怖くなって吠えちゃう。周りにいる人がいきなり動くと、『どこに行くの?』と不安になるんですね。」


そう言われたおばちゃんは驚いて、
「そうなの!お客さんが帰ろうとすると、必ず吠えるのよ。そういうことだったのね。。。ひょっとして、お散歩に行きたがらないのも関係あるのかしら?お散歩中も、他の犬に滅多に触らせないのよ。」と聞き返しました。


「そうですね。チョコちゃんは自分のことを犬と思っていませんから。基本的にお姫様ですから、『気安く触ってくれるな!』と常に思っています。前世で高貴な生まれだったワンちゃんが、お散歩を嫌がることはよくあるんですよ。繋がれるのを嫌がります。どっちかというと、手綱をとる側だったから。」


とニコニコしながら次々とチョコの秘密を教えてくれる千華さんに、皆んなはただ、あっけにとられていました。


黙って話を聴きながら、だんだんと私も(これは犬の世界の話じゃないぞ)ということがわかってきました。(でもそうすると、チョコが人間として生きていた過去があるってこと?)と更に疑問は増すばかりでした。


つづく。

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