08 - 涙の再会・1
あれは、もう20年以上も前のことです。「今日、ユニークな友達ができたよ。面白い人だから、きっと真由も気にいるよ。」と言う父が、紹介してくれた人がいました。その人はロンといって、その時に仕事で日本を訪れていたアメリカ人でした。父の勤める会社を訪ねたロンが、たまたま父を見かけて声をかけてきたそうです。話をしてみると、摩訶不思議な話をたくさん聞かせてくれるので、二人はあっという間に意気投合してしまいました。父はいい友人ができた、と喜びながら、私と母がロンと会えるように算段をつけてくれました。
約束の日、私たちは二人でロンが泊まっている赤坂のホテルを訪ねました。時間になってもロンは現れず、代わりにフロントに電話がかかってきました。名前を呼ばれてカウンターに立つと、渡された受話器の向こうからゆっくりと話す、低い声が聞こえてきました。
「はじめまして、君が真由だね。もうちょっと時間がかかるから、30分後に部屋を訪ねておいで」そういって電話は切れました。
私たちはロビーで半刻時間をつぶして、改めてエレベーターに乗り込み、上の階へと向かいました。教えてもらった部屋番号の呼び鈴を押すと、ガチャリと開いたドアの隙間から、私の横幅の4、5倍くらいはありそうな大きな体の、まるで絵に描いたサンタさんのような男性がこちらを覗いていました。
すると驚いたことに、その彼の目を見た瞬間、私はまるで雷に打たれたかのようになって、顔を真っ赤にしながら声もなく泣き出してしまったのです。挨拶も自己紹介もまだ済んでいないうちから、ホテルの廊下でしゃくりあげる私に、母はとても驚いていました。
「どうしたの?どうしたの?」
オロオロする母を尻目に、ドアを大きく開けて、その大きな体をユサユサとゆすりながらロンが私を引き寄せました。
「そうだったね、懐かしいね。元気だったかい?君を覚えているよ。
僕たちはその昔、同じ時を過ごした仲間だったんだよ」
そう言って私を優しく抱きしめながら、よしよしと背中を撫でました。
私はとにかく驚いて、初めて会ったこの大きな人のその言葉と、訳も分からず泣いている自分と、心臓がギュウっと絞られたように切なく、でもとても暖かい気持ちに満たされているこの状況に、全く思考が追いつきませんでした。
(昔?昔っていつ?どこかで会っているのかしら?)
と頭の中はクエスチョンマークだらけのまま、いい年をして人前で泣いている自分が、急に気恥ずかしくなりました。それでも、ふかふかしたロンの大きな体が心地よく、その暖かさが懐かしく、また泣けてしまうのでした。
その後ロンは、母とまだグスグスと鼻をすする私を部屋に招き入れて、大きな体をベッドに沈ませながら、過去生で自分たちは一緒に過ごしたことがあるんだよ、と私に教えてくれました。詳しく語ることはなく、でも何か、とても大きなプロジェクトを一緒に遂行していた、大切な仲間だったんだよ、とだけ言いました。
当時、ロンはアメリカを中心に活動していた、サイキッカーと呼ばれる人でした。様々な人が悩みや、将来のこと、家族のこと、仕事のことを相談しに、彼を訪ねていました。その中には、日本やアメリカの映画やテレビなどで見たことのある人たちも沢山いました。彼は、相談に来る人の過去や未来を映像や言葉で感じることのできる、不思議な能力を持っていたのです。
つづく。