令和4年司法試験商法再現答案
設問1
Dは甲社に対し、339条2項により賠償請求するか、350条により賠償請求することが考えらえる
1 339条構成
同条の趣旨は、会社の役員解任の自由と、役員の職務報酬への期待との調和を図るべく会社の特別責任を定めた点にあるから、専ら「正当な理由」の有無が問題であり、会社側の故意過失は問われない。
まず、本件ではDとAらの意見が対立していたという事情があるが、これは「正当な理由」足りえない。役員は会社利益のために率直な意見交換をする必要があり真に自らの意見を発現するべき立場にあるところ、意見対立自体を「正当な理由」と認めると、前述の職務を真に果たせなくなるからである。次にAは取締役に緊張感を持たせたいという理由で定款変更を行っている。これが「正当な理由」と言えるか。役員の立場は様々な権限を有し権力を有する。一般的に権力は腐敗するから、長めの任期を短くして入れ替わりの可能性を生じさせ役員の緊張感を保つことは、健全な会社運営の観点から合理性を有する。よってこれは「正当な理由」に当たる。問題は真に緊張感を保つという理由があるか否かである。確かに、定款変更はAの緊張感を保ちたいとの提案から行われてはいる。しかし、この定款変更はDとAらの意見対立の時期と重なっておりD排除のために行われたと言い得ること、甲社株式の80%はABCが有しており、たとえ任期を1年としたところでABCらは再任し続けることが可能であり、これでは緊張感を保つという目的に資さないこと、現にD以外の役員は全員が再任していること等からすると、客観的外部的に見て今回の定款変更が役員の緊張感維持目的にあると評価することはできない。以上より、本件では「正当な理由」がない。
Dとしては損害額として、残任期10年から既に経過した2年を引いた分の報酬相当額である3840万円を主張する。しかし前述の339条趣旨に照らし、報酬への合理的期待が認められる範囲でのみ賠償は認められるべきである。本件では、Dは、Aから乙社出身役員が慣例上4年で退任していることを聴いたうえで「61歳まで勤められた方が安定した収入を得られるので引き受ける」と答えており、57歳からの4年間の任期で役員を引き受けることを前提としている。そうすると甲社とD間の役員契約における合理的意思は、任期4年とする点にあったと言え、Dは4年分の報酬額についてしか合理的期待を有していなかった。以上を踏まえると、任期4年から経過済みの2年を引いた報酬相当額である960万円が損害額として認められる。
2 350条構成(何となく複数構成が求められてるのかなあと思って書いた)
甲社代表取締役Aの職務として、当初のDとの役員契約を遵守し合理的理由なく変更してはならない義務があったと言えれば、代表者の行為により損害が生じたとして、Dは甲社に賠償請求しうる。そして、社外取締役(2条15号)とは、当該会社と一定の独立性を持ち会社の監督機能を強化する意義を有するから、社外取締役との間で締結する役員契約については、この意義を果たすために当初の契約を遵守し合理的事情無く変更してはならない義務を代表者は負うと考える。もっとも、本件のDは、甲社と一定の独立性を持つものの、乙社出身というだけであって社外取締役には当たららない(混乱して書いちゃった)。よってAに前述の職務は観念できず、この構成では賠償請求できない。
設問2
Jは、戊社代表取締役Gの甲社に対する賠償責任について代表訴訟を提起している(847条1項、423条1項)。423条責任の要件は、①役員等(Gはこれに当たる)の任務懈怠②損害の発生③①と②の因果関係④役員の責めに帰すべき事由(428条1項参照)である。
1
任務懈怠とは、善管注意義務(330条、民644条)・忠実義務(355条)違反及び具体的な法令定款違反を指す。一般に、事業譲渡においては対象事業の譲受によって当該会社に大きな財産的影響が生じるから、当該譲り受けが会社の利益になるか否かを事前に調査し適切な事業譲渡を行えるように、代表取締役は契約締結に先立ってデューディリジェンス(答案ではデューデリジェンスって誤字って書いた気がする)を行うべき義務を負っていると解するべきである。本件でGはDDを行っていないため、善管注意義務違反があると思える。
もっとも、本件では、Gは親会社甲を含めたグループ全体の利益のためにDDを行わないで事業譲渡しているとも言える。親会社の利益はひいては子会社戊社の利益にもなり得る可能性があり複雑な利益配慮を要するとともに、事業譲渡自体が対象となる事業の価値の見極め等において経営的視点からの専門的判断を要する。このような場合に常に任務懈怠責任を認めると、役員の経営を委縮させ、会社利益にならない。したがって、適切な前提事実に基づいて、一般的取締役が行う判断として合理的な判断であれば、任務懈怠とは認められない(経営判断原則)。
本件では、戊社の60%株主である甲社から事業譲渡が実現しなければ甲社の事業に大きな影響が及ぶので迅速に進めて欲しい旨要望があり、これを踏まえて乙社代表Fも交渉がまとまらなければ別の譲渡先を探すか、法的整理も検討する旨述べており、戊社を含めたグールプにおいて緊急に事業譲渡を行うべき要請があったともいえる。しかし、戊社の銀行出身役員Hは、知り合いの銀行員から乙との事業譲渡を行う場合にはDDを行った方が良い旨回答を得ており、その旨をGに指摘しているから、Gとしては本件でDDが特に重要であることを認識する契機を得ていた。また、Gは、Aから「実現しなければ再任はない」と脅迫的言動を受けており、FもAの意向を知って戊社に働きかけていることからすれば、Gが脅されていることを認識していたといえる。そして自身の地位に関する脅迫的言動を受けていれば適切な判断過程が歪められるのであるから、本件事情の下ではGが判断の前提としていた情報に合理性はなかったと評価するべきである。以上を踏まえると本件では経営判断原則の適用は無く、Gに任務懈怠が認められる。
戊社は、DDがされないまま本件事業譲渡契約を4000万で締結しており、戊社に4000万の損害が生じていると言い得る。もっとも、本件では、仮にDDを行っていたとしても本件事業譲渡を確実に行わなかったとまでは言えず、Gの任務懈怠と4000万の損害との間に法的因果関係を認め得るか疑問がある。本件で確実なのは、仮にDDを実施していれば、対価は1000万以下となるはずだったという点のみであるから、Gの任務懈怠と因果関係を有するのは、その差額である3000万相当に限定されると考える。
またGには責めに帰すべき事由もある(何か書いたけど内容思い出せず)。
以上より、Gは戊社に対して3000万の賠償責任を負う。
設問3
1 23条の2第1項による請求
戊社は本件事業譲渡の対価を簿価4000万の半額である2000万としており詐害的事業譲渡に当たるのではないか。「債権者を害する」とは、債務超過時に行われる譲渡し会社の責任財産減少行為を指す。本件事業譲渡の当時、乙社は資産6000、負債4000であり、ここに事業譲渡対価2000が加わるのであるから、乙社は債務超過にもならないし責任財産を減少させることもない。よって本件事業譲渡は「債権者を害する」行為ではなく、23条の2第1項請求は認められない。
2 22条1項請求
戊社は登録商標Pを続用しているが乙社の「商号」を続用しているわけではないので、同条直接適用はない。ただ同条の趣旨は、外形的にみて営業主体の類似性がある場合には、債権者は譲受会社に債務が承継されたと信頼するから、かかる信頼を保護する点にある。よって外形的客観的に戊社が乙社の事業を譲り受けたと誤認しうると評価できる場合には類推適用できる。
確かに、乙社は、商標Pを使用した製品を製造して卸売りするだけであり、消費者に直接販売した事はないし、戊社は関西でスーパーマーケットを営みこれまで乙の製品を扱ったこともないから、戊社が乙社の事業を譲受けたとの誤認は生じようがないとも思える。しかし、商標Pはブランドとして確立しており、消費者からは乙を示すものとして受け入れられていた。そして戊社は「Pが新たに生まれ変わり当店で扱うことになりました」と宣伝しそこにはPも掲載されていたから、積極的にPが戊社のものになったとアピールしている。加えて戊社が扱う日用品の60%は従来乙社がPを使用して販売していた商品と同じものだった。以上を踏まえると、外形・客観的に見て戊社が乙社の事業を全面的に譲受けたとの誤認を生じさせる。よって同条を類推でき、丁の請求は認められる。
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