解雇規制緩和と年末調整廃止の影響について①解雇規制【総裁選】※サラリーマン必読
こんにちは、まじこじまです。
今回は小泉進次郎氏・河野太郎氏が発言した「解雇規制緩和」と「年末調整廃止」について私が思うことをお伝えします。
いっぺんに両方の話題を扱うと盛りだくさんなので、本記事で解雇規制について、明日の記事で年末調整について話します。
人事系のコンサルタントを名乗って活動しているからには、無反応ではいられないなと。これは非常に大きな影響の出る話で、第一声としては
「ほんまにそんなことできるんかいな」
というところです。「聖域なき規制改革」といって小泉進次郎氏が発言していますが、ちょっと暴政感が強い…お父さんの小泉純一郎氏が進めた「聖域なき改革」の「聖域」は官から民へ、という意味合いが強く、官公庁が独占していた官営の事業を民間事業者に渡していくというものだったので、郵政民営化など国民のメリットも大きいものがありました。
が、今回「聖域」と言っているのは官公庁等の自らの膿を出すというものではなく、そもそも労働者の権利を守るための部分だったので…メリットももちろん考えられるのですが、「労働者の聖域」を政府が侵害するような構図であるという気がしてなりません。
しかし個人的には解雇規制の緩和自体は賛成です。
ただ懸念が…ますます格差拡大するんじゃないのと思う。
日本の"解雇"の現状について
解雇に関する基礎知識(法律や解雇の種類)
今回の「解雇規制」の発端は、一部の経済界からは緩和を求める声があったのですが、その理由として正社員の解雇についてハードルが非常に高く、実質的に「役に立たない社員でも解雇できない」という状態にあることが労働市場に歪みを生じさせているという問題があります。
関連する法律とその影響
この規定の下で、企業は労働者を正当な理由なくして解雇することはできません。
影響:企業が労働者を解雇する際には、正当な理由が必要です。これは解雇の乱用を防ぐための措置であり、労働者にとっては雇用の安定性が保たれる要素となります。
影響:企業は労働者を解雇する際に、単に経営上の都合や労働者の能力不足だけではなく、客観的かつ合理的な理由を示す必要があります。これにより、労働者の不当な解雇を防ぎ、雇用の安定性を高めています。
影響:突然の解雇に対する労働者の保護が強化されています。解雇予告がなければ、労働者は次の職を見つけるための時間や資金的な余裕を持てないため、この規定により解雇された場合の急激な生活不安が軽減されます。
これらの法律の実際の作用が労働者保護に傾いていることの裏付けとして、多くの解雇に関する訴訟において、裁判所は「解雇は最終的手段であるべき」という立場をとっており、解雇の正当性が問われる場合があります。
例えば、裁判では「解雇」を行う前に、会社の中で別の部署に配置転換してそれでもダメだったのか?業務量を調整したり、指示を改善してもダメなのか?等、ありとあらゆる手を尽くした上での解雇でなければ認められないという姿勢が強いんですね。
(…部署移動とか、業務量の調整とか、絶対周りの人にシワ寄せが来るやつですよね、というのが実際働いている人の意見だと思いますが)
日本企業における「解雇」の種類
ひとくちに解雇と言っても種類があるので、以下の表にまとめました。
先に簡単に特徴を補足しておくと…
普通解雇➤先に上げた法律の影響で、判例からも労働者に有利な判決(企業の主張が合理的ではない)と認められることが多く、簡単に行使できない。失業手当は、会社都合で解雇されたと判断されればすぐに支給される。
懲戒解雇➤最も重い処分だけあって、退職後も色々と不利になる場合が多いです。
具体的には「離職票」に「懲戒解雇」と明記されてしまうことが多く、転職エージェントや転職先から離職票の提出を求められた場合に懲戒処分を受けたことが伝わってしまう可能性があります。※転職に際して離職票は特に不要な場合も多いので必ずしも不利にはならない
また、失業手当の給付の際に「労働者側の理由」で解雇されたという判断がされるまで、90日間の給付制限が付くことが多いです。(失業手当がすぐに貰えない)
最大のペナルティは退職金が貰えないことだと思います。40年務め上げても、ちょっとしたはずみで部下に暴力を振るったり、横領などの悪事に手を染めてしまった場合には高齢にして路頭に迷うこともあるでしょう。自業自得ではありますが、高齢になるほど感情のコントロールが難しくなるというのは脳科学的にも裏付けされています。自分は大丈夫、自分は正しいという思い込みは常に疑う習慣が必要ですね。
雇止め➤こちらは、契約社員や派遣社員、僕のようなフリーランス契約において関連するもので、厳密には「解雇」ではないのですが、実態としては「解雇」に近いものがあります。もともと半年ごとに契約を更新するという取り決めがされていた「契約社員」だったとしても、「5年以上働いていた」場合や「3回以上有期契約が更新されていた」場合などは、長期の雇用が暗黙のうちに了解されていたと裁判で判断されたりします。
もし、不当な雇止めと判断された場合は企業が雇用の継続や損害賠償の支払い等の責任を負わなければなりません。
また、雇止めの場合は失業手当がスグに給付されることが多いです。
解雇の現状についてのまとめ
一言で言えば、「職務規定違反」や「犯罪行為」をしない限りは、めったなことでは企業が労働者を一方的に解雇することはできないように労働者の権利が守られているというのが日本の現状です。
解雇規制緩和の影響
今回主に争点となるであろう箇所は、「普通解雇」と「整理解雇」の規制の緩和になるだろうとされています。
なぜかというと、この2つは企業側にとって不利すぎる要件だからです。
普通解雇の現状
「能力不足」「勤務態度不良」は、基準が主観によってしまうので労働者の権利が今まで守られてきましたが、みなさんの周りにもいませんか?
万年成果を出せない営業マンで、どう考えても給料以上の粗利を稼いでるとは思えない人とか
50歳くらいで出世コースから外れて全然仕事しないけど、会社に意地でもしがみついてるタイプの人とか
ミスしまくりで取引先や関連部署に上司が何度も謝罪に行ってるのに、全然改善されない人とか
30分に1回はタバコ吸いに行ってて、勤務時間の6割くらい喫煙室にいる人とか
他の人と同じ仕事を振られているのに、毎日夜9時10時までダラダラ会社にいて残業代貰ってる人とか
僕は最初に入った会社で、空出張を繰り返して「静岡の会議の日は名古屋で用事がある」と言い、「名古屋で会議の日は静岡にいる」と言って会議の言づてを全て僕任せにし、取引先から「準備しないなら商談に来るな!」と怒られたのを「出禁になった」とセルフ解釈し、「自主出入り禁止」となり卸店に全てを任せて仕事を放棄していたにもかかわらず普通に仕事をしているフリをするトンデモ先輩と同じ取引先をタッグで任されてブチ切れしたことがあります。※その後ずっとネチネチあることないことを吹聴された
ただ、空出張や取引先に行かずに殆ど仕事をしていなかったことがバレても、「怒られる」だけで解雇にはならない。その先輩は今でも会社にしがみついてます。
これでも、会社は「解雇」できないのです。人はラクな方に流されやすい生き物なので、一度「これくらい手を抜いても毎月給料は貰える」と思ってしまったら、手を抜き続ける方がメリットがでかいので、手を抜き続けます。
会社というのは利潤を追求するのが目的のはずなのですが、「仕事ができない人のライフライン」として機能してしまっている、という問題があり、能力のない社員や勤務態度の悪い社員を養うために、優秀な社員が成果を出すという構図になってしまっています。(そして、同じ給与で働く…)もちろん、こうした社員でも成果を上げられるように努力・指導するのがマネジメントですが、構造自体に問題があることは間違いありません。
普通解雇緩和の影響
解雇が緩和されれば、企業の経営としては健全な資本主義経営が実現できるかと思います。足手まといになっている人財を解雇し、その分優秀な従業員に回す報酬を多くすることができ、事業の推進もより円滑になります。
従業員にとっては、「成果を出さなければ解雇されるかもしれない」というプレッシャーが生まれるので、より頑張って働くし、自己研鑽も自発的に行うことでしょう。
好循環が生まれれば
愚鈍な人材が淘汰される➤優秀な人材が切磋琢磨し成果を上げる➤事業が拡大する➤優秀な人材の報酬額が上がる
という結果が生まれます。
一方で従業員にとっては解雇のリスクが増えるわけですから、「プレッシャー」を超えて「ストレス・不安」も生まれてしまいますし、解雇が濫用されるようになれば、そこには本当に不当な解雇も生まれかねません。恐怖政治的なやり方で解雇をちらつかせて従業員を働かせる企業が出てくるかもしれませんし、「能力不足」や「勤務態度不良」というのが本当に客観的な判断に基づくものなのか疑問の残る「解雇」が生まれかねません。
また、格差も広がると思います。
小泉氏や河野氏は「人材の流動性を生む」といいますが、それは
待遇や勢いのある企業に空きポストが出やすくなるので優秀な人材がそこに入る
ということに繋がります。「今」の時点で大企業のような待遇を出せないベンチャーや中小企業にとっては、優秀な人材が流出しやすくなるということ。逆に、優秀な人材が集まってくる有名企業、高待遇企業から「無能な人材」が放出されるということ。
今まで怠けていた人も、一生懸命働かないといけなくなるわけですから、全体としての日本のレベルは上がるかもしれませんが、劇薬すぎてついていけない人が脱落したのをどうするか…影響は大きいなと思います。自然淘汰と言ってしまえばそれまでですが…
整理解雇の現状
整理解雇は、経済的理由に基づく人員削減のために行われる解雇ですが、現行の「整理解雇の四要件」は非常に厳しく設定されています。
特に「解雇回避のための努力義務」や「合理的な解雇対象の選定基準」に関して、企業の判断が認められるには相当な努力義務があり、ハードルが高いのです。
そもそも整理解雇(リストラ)を行わなければいけない時点で会社の経営は逼迫した状況にあるのに、1人当たり年間数百万のコストが放っておいても発生する「ヒト」を容易に切れないというのは相当厳しい状況です。
また、私のような「人事・BPR系コンサルタント」として働いている身からすると発生する問題が「ITツールを使って自動化し、業務の効率化を図った先にもともとその作業をしていた従業員に何をさせるか」というもの。
今は「人手不足」という問題があるので、そもそも現状の足りていない人員でも業務が回せるように、残業が削減されるようにという視点でコンサルに入ることが多いのですが、大規模な業務のコンサルを行う場合はどうしても行き場のなくなる人をどうするか問題がついてまわったりします。
もちろん、整理解雇(リストラ)はもっと逼迫した状況での「人件費削減」です。固定費として1人あたり数百万のコストがかかるわけですから、雇うときも慎重になるし、切るときには経営への効果が大きいのが「人」です。
これが今よりもハードルが下がるなら、「生き残れる企業」が増えるというメリットがあるでしょう。年間で6000~8000くらいの企業が倒産しているわけですから、人件費カットによって立て直せる企業が増えるのは経済的にはメリットがあるかと思います。
ただ、切られる方は職を失うわけなので…
さいごに
僕が個人的には「賛成」としたのはひとえに「給料が上がり易くなる」世の中になるからです。
・簡単にクビにできないから、雇うときに慎重になる
・もしかしたら、無能な人材だったときでも雇用し続けなきゃいけないから、給与は低く設定せざるを得ない
・役に立たない社員の人件費分も、優秀な人材が稼いで支える必要がある
これが、解雇規制が強すぎるが故の企業経営にとって生まれている歪みです。
「使ってみてダメだったら解雇すればいいや」ができる方が、企業にとっては好条件でオファーを出し易いです。
給料を月100万あげたとしても、ダメだったら6カ月で解雇すれば600万円しかかからないけど
今は正社員で雇用したら最大で40年間面倒を見なければ行けないから、初任給は20万円スタートね、となってしまうので。
フリーランスの報酬が高いのも、結局は「試してみてダメだったら契約終了できるから」というリスクヘッジができるから。
正社員には報酬額を下げる以外のリスクヘッジができません。
なので、優秀な人、やる気がある人にとっては良い社会になるけど
日本ってそこまでやる気がない人も沢山いるからどうかなぁ…
あとは、企業側の権利が強くなりすぎると、「使い捨て」感覚で人財をぞんざいに扱う企業も増えちゃうと思います。
というのが私の感想でした。
今日はここまで
明日は年末調整についてです。
👇参考になったという方はぜひ「スキ」とフォローをお願い致します。
この記事が参加している募集
私の発信内容がお役に立てたのであれば、大変嬉しく思います。 サポート頂いた費用は私個人の活動だけでなく、より沢山の人にサービスが提供できるように有効活用させて頂きます!