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寅さんと下町の太陽

『男はつらいよ』1969年

「男はつらいよ」の第一作。
改めて観て思ったこと。それは同監督の『下町の太陽』(1963)ととても似ているということ。
「下町の太陽」は妹さくらを演じる倍賞千恵子の映画デビュー作で、下町の石鹸工場で務める町子が付き合っている毛利の上昇志向になんかしっくりこないけど、自分に情熱的に惚れ込んでいる鉄鋼場工員の良介にもつれなくするという話。
良介をひろし。毛利をさくらの見合い相手に置き換えると、そのまま同じ方程式だけど、どちらも解けない方程式に天才山田洋次監督は寅さんという変数をぶち込んだのが当作「男はつらいよ」だな、と思った。

一生汗まみれで働く決意をしている人と、とそこから上昇し「うまくやろう」とする人。そこはやがて分断され引き裂かれて行く日本社会の分岐点で、そのどちらにも疑問を持ち身動きできないでいる町子、そしてさくら。

社会構造の変化、システムの固定化をぶち壊すのが寅さんで、彼はシステムの外にいる「ヤクザな兄貴」であり、市場に立つ香具師であり神の直属の僕で、神言葉を伝える者だ。
だから本質をつく。

「惚れてるんだろ?だったらそれでいいじゃないか。」

『男はつらいよ』シリーズヒットの中でさくらはしだいに家庭的で兄思いの慈母の役割をになっていくが、この第一作では、社会の亀裂に悩む一人の女性として描かれていたと思う。

結論としては、『男はつらいよ』は『女はつらいよ』の物語であり、主役は寅さんではなく、車さくらだってこと。

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