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やばい、まじやばい! 自分が一体何者かわからなくなった 2,168 文字 

やばい、まじこれはやばい!
何がやばいって、自分が一体何者なのかよくわからなくなった。
頭がおかしくなりそうだ。

最初に異変に気付いたのは、俺の眼の前に座っているくたびれた女が俺の妻だということにふと違和感を感じた時だった。

あれ? 俺は独身なのになんで家に女がいるんだ?
俺は動揺を悟られないように言った。
「ところで・・・、あなたは誰なんですか?」
女は疲れた顔で言った。
「お父さん、何バカなこと言ってんの。そんなこといいから、早くお風呂入って。」

そんなことって一体何を言ってるんだ。
知らない女が目の前にいることが「そんなこと」程度で済む話じゃないだろう?
おかしいな。俺は独り身のはずなんだが・・・
訳がわからない。

とりあえず家を出て、行きつけの小料理屋「花の里」に行き、心を落ち着かせることにした。
いつも行ってるはずなのに、妙なことに「花の里」がどこにあるのか思い出せまなかった・・・ 冷や汗が背中をつたった。

仕方なく知らない女が女房気取りをしている家に戻った。

朝、目が覚めたら、やっぱり知らない女が隣の布団で寝ていた。
「いったい誰なんでしょうね。この人は。困ったものですねぇ。」

女を起こさないように着替え、警視庁に登庁した・・・ら、中に入れなかった。
守衛から「見学はやってなから」って冷たく言われた。
「いや、私は特命係の杉下ですが」って名乗ったのに、「はい、はい、はい」って言われてお終いだった。

訳がわからない。
とりあえず日比谷公園まで歩いて、公園内のレストランに入った。
ここは落ち着く。
いつも飲んでるダージリンとアールグレイのブレンドを頼んだら、うちはそんなのないって言われた。
まったくダメな店だ。紅茶のことが何もわかってない。
ふとテレビを見るとドラマをやっていた。

そういや・・・ そういや・・・ 俺は検事だったんだ。 
日比谷公園のレストランを出て、俺は被疑者がアリバイを主張しているクルーザーを見に行こうと思った。
あそこにきっと何か手がかりがあるはずだ。
また雨宮が勝手な事をするなってまた言うんだろうな。
うるさい事務官だ。
ぎりぎりまで俺は諦めないんだよ。

そしたら携帯に電話が入った。多分、雨宮だ。
どうせまた「久利生さん、いったいどこにいるんですか?」だろう。
メンドイな。
で、胸のポケットから携帯を出そうとしたら、鳴っていたのは小さなテレビみたいなやつだった。

なんだ、これ?
電話に出たくても、ボタンが何もついてない。表面がツルツルだ。
え? 何これ?
ぶっちゃけ、よくわかんないんだけど・・・。

でも、なんかすげーな、これ。 
通販で買ったのかな・・・

そうだ・・・思いだした。
これって、私が発明したやつじゃないか。

どうして私は日本にいるんだ?
 
私は迷わず日比谷公園から帝国ホテルへと向かった。
帝国ホテルは日本での私の常宿だ。
とりあえず自分の部屋に戻って落ち着こう。

途中、日比谷の東京ミッドタウンに寄って、黒のタートルネック、ジーンズ、グレーのNew balanceを買って着替えた。

帝国ホテルに着くと、馴染のある日本のメーカーが株主総会をやっていた。
そうか、私はゲストとして呼ばれていたのか。なるほど。
会場の入口にいた係員がびっくりした顔で「部長、どこ行ってたんですか? それにその格好はどうしたんですか?」って言われた。
何を言ってるんだ。こいつは。私はいつもこのスタイルだ。

私は「ノープロブレム!」と言ってそいつを押しのけ中に入った。
社長とおぼしき老人が壇上で経営状況のプレゼンをしていた。
実にへたくそすぎだ。見せ方がなってない。それにあまりに退屈すぎる。
私は最前列まで行き、壇上に一気に駆け上がった。
壇上の老人は、私を見ると、メガネの奥の小さな目をいっぱいに開け、アワアワなんか言っている。

安心したまえ、私がプレゼンの手本を見せてやろう。

スポットライトを浴びる。
私は語りだす。
スタンフォードの卒業式でスピーチができるとはなんて光栄なんだ。

I am honored to be with you today at your commencement from one of the finest universities in the world.(本日は、世界でも有数の優れた大学の卒業式に皆さんとご一緒できることを光栄に思います)

そこまで話したところで、私は係員に取り囲まれ、押さえこまれ、そして強制的に会場から退場させられた。

「吉田くん、君の処分については後ほど伝える。当面は自宅謹慎だ!」
常務取締役と書かれたネームプレートを下げた小さなしなびたアジア人の男が私にそう言った。
私はちょっと下品だったがそいつに向かって「ファック・ユー!」と言い中指を立てた。スタンフォードも地に落ちたものだ。

会場を叩き出された私は途方に暮れた。
なぜなら・・・そこは日本だったからだ。
どうしたことだ。訳がわからない。

街はアジア人で溢れ、頭上で巨大なデジタルサイネージがいくつも輝いていた。まるでブレードランナーの世界だ。

そうか・・・俺は逃げたレプリカント「ネクサス6型」を追っていたのか。
いや・・・ 俺がブレードランナーから追われていたのかもしれない。

どっちなんだ? 
どっちでもないのか?

頭の中がぐるぐる回りだした。
俺は自分が一体何者なのかよくわからなくなった。

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マジバイ
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