やばい、まじやばい! 群馬に首都が移転する 2,772文字
やばい、まじやばい!
何がやばいって、さっき国会で群馬県への首都移転が決定した!
群馬県のマスコットキャラクター“ぐんまちゃん”が誇らしげに国会(当面は県議会ホールを使うそうだ)上空にはためき、登院する議員たちを高崎だるまが出迎える日が来ることになるなんて、夢にも思わなかったよ。
群馬県が国の”租税”経済特区となったのが今から15年前。
最初は、あくまで実証実験という話だった。
全国の生産量の85%を占める群馬のこんにゃく産業の保護・育成・強化を目的に、こんにゃくの生産、流通、販売に関わる全ての法人、個人を対象に、様々な免税を含む優遇措置というのが実施された。
その結果、こんにゃくの県内消費が飛躍的に伸びただけじゃなく、価格競争力を増した群馬産こんにゃくは、たった1年で全国シェアを97%まで急拡大させた。
そして、こんにゃくの生産量・出荷量の増加に連動して、こんにゃく関連産業での雇用も急速に拡大。こんにゃく芋生産農家なんか、長年の課題だった後継者問題がほぼ解消してしまった。
更に、驚くべきことに、こんにゃく関連での税収も大幅アップとなった。
このことから、この優遇税制制度(通称”ぐんまー方式”)は、県内のあらゆる産業、個人へ適用が拡大されることになった。
(次は高崎だるま関連か下仁田ねぎ関連、もしくはその両方と、順次適用を拡大していく予定だったんだけど、勢いとは怖いもので、こんにゃくの成功で一気に拡大することになった。)
今や群馬では、消費税、住民税、固定資産税、相続税、贈与税、不動産取得税、酒税、ガソリン税(揮発油税と地方揮発油税)、印紙税、自動車税、自動車重量税、たばこ税、ゴルフ場利用税、入湯税は全て廃止。法人税は5%に減免、ただし資本金1億円以下の法人で、法人所得が年1000万円以下なら免税だ。
もちろん、こんにゃく産業以外への適用拡大(つまり包括的かつ大幅な減税の実施)には、プライマリーバランス黒字化を金科玉条とする財務省やその財務省とつながりのある政治家たちは猛反発した。
でも、群馬出身の本山首相が「国民に群馬での減税実施の信を問う!」と言って、衆院をいきなり強行解散、大勝利を収めたことで、何も言わなくなった。
国民は群馬での減税の成功が全国に拡大することをすごく期待していたから、勝利は当然の結果だった。
(詳細な経緯は、ウィキにある「ペヤング解散」を見てくれ。)
で、群馬で何が起こったか。
県内経済の猛烈な活性化と他県からの法人、住民の大量流入が始まった。
消費については、県民だけではなく、群馬はなんでも安いということで、他県からも、海外からも買い客、観光客が殺到。あらゆるモノがバカ売れし、観光地はどこも人であふれた。
特に自動車と住宅の売れ行きはすさまじいものがあった。
スバルは地元産業ということもあったし、価格競争力が増したこともあって、県下のスバル車のシェアは90%を超えた。
群馬では消費税がかからないということで県外から群馬のディーラーに買いに来る人も多かった。
その結果、スバルは全国シェアでホンダを抜いて、トヨタに次ぐ第二位メーカーとなった。関東圏にやたら強いスバルを指して、「東のスバル、西のトヨタ」なんて言うやつもいる。
住宅も、県外からの大量の住民流入と相まってバカ売れした。
宅地開発ラッシュが始まり、群馬の平野部の様相は一変した。
郊外では宅地がどこまでも広がり、高崎、前橋といった都市部では、高さ200メートルを超える超高層マンションが林立した。
それでも住宅供給はぜんぜん追いつかない状態だ。
高崎市と前橋市と伊勢崎市はもはや一体化して、この10年で人口1000万人を超える超大型都市へと変貌しているし、みどり市と桐生市が一体化した県東地域は200万人、太田市と舘林市が一体化した県南地域は500万人を抱える大都市となっている。
(JR東海はリニアを群馬県内を経由して品川に向かうルートに急遽変更した。今、停車駅を前橋にするか高崎にするかですっげーもめている。)
今や群馬県全体の人口は2300万人を超えている。
これからも企業の本社機能や生産工場の群馬移転が続くだろうし、小売業や飲食業の進出も止まらないだろう。群馬での職を求める人の流入も止まりそうもない。
出生率もどんどん上がってるので(今、2.83だけど、もう何年かすれば3.0を超えて来るそうだ)、2045年には県の人口は3500万人を超えるはずだ。
そうなると日本の人口の40%強が群馬県に集中することになるそうだ。
財務省が懸念していた歳入減もまったくの杞憂に終わった。
法人税が5%とはいえ、県下の産業はどれも高度成長に入っているので、税収自体は以前よりもはるかに増えている。減税効果が確実に消費に回っているので、群馬の経済成長は当分続くだろう。
さらに、租税回避を目的に設立される海外法人の登記手数料もバカにならない。(群馬が北関東のドバイと呼ばれるのはそのせいだ。)
県が県内企業を対象に投資したリターンもすごいことになっている。
「ぐんまー方式」がいまだに他県に広がらないのは、減税に対する強烈な反対勢力がいるから。既得権益を手放したくないやつがまだいっぱいいるってことだ。
でも、この前の総選挙で、「ぐんまー方式」導入を公約にした「改革政党ぐんまー」(略称ぐんまー)が大躍進して野党第一党になったから、反対勢力が抵抗していられるのも時間の問題だと思う。
今回の首都移転だって、根強い反対派がいたけど、ぐんまーが自民と手を組んで無理くり実現させたようなもんだからな。
遅々として進まない自県の税制変更に、いっそ群馬県の行政区域になってしまおうなんて無茶な事を言い出している市町村もたくさん出てきている。
その数は軽く50は超えている。ひょっとするともう70は超えているかもしれない。(今、13の市町村で、群馬への帰属移転の是非を問う住民投票の準備が実際に進んでいるという話だ。)
帰属変更には法的な制約は何もないみたいだから、各県が「ぐんまー方式」を導入する形で進むのではなくて、群馬県の飛び地が全国のあちこちにできていくことになるのかもしれない。
長年「海なし県」のレッテルを貼られて悔しい思いをしてきた群馬県民としては、埼玉、栃木、山梨を出し抜いて「海あり県」となる大チャンスなので、飛び地は大歓迎だ。
元高校球児の俺としては、全国各地に群馬の飛び地ができたら、群馬県大会が事実上の全国大会になるってのも、ちょっと嬉しい。
母校(毎年、準決勝ぐらいまでは確実に行く強豪校だ)が、県大会で全国の強豪校と戦えるなんて考えただけで胸アツだ。選手たちもきっとそうだろう。
え? その場合、決勝戦はどこでやるのかって?
そんなの、群馬の高校球児の聖地、高崎市民球場に決まってんだろ。