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やばい、まじやばい! 俺の息子が”生まれ変わり”に指名された! 

やばい、まじやばい!
何がやばいって、俺の息子の祐介だよ。
なんと祐介がマラン教最高指導者ダマイ・マラン14世の生まれ変わりに指名されてしまった。

俺がそれを知ったのは、かみさんとささやかな晩酌をしながら、テレビのニューズ番組をぼんやり見ていた時だった。祐介はかみさんの横で眠ってた。

5年前に亡くなったマラン教最高指導者ダマイ・マラン14世の生まれ変わりの居所がついに判明したって話だった。

マラン教ってのは、その最高指導者が血筋で決まるのではなく、最高指導者本人の生まれ変わりが跡を継ぐ・・・という輪廻設定になっている。だから、最高指導者が亡くなると、どこかに産まれおちた生まれ変わり探しが始まるというのがお約束だ。

で、その最高指導者の生まれ変わりが、どうも日本にいることがわかったという話だった。

そしたら、”生まれ変わりの位置情報”を後継者発見委員会からテレビ局が独占入手したとかで、Googleアースの画面がテレビで映された。
今の時代、位置情報さえわかればGoogleアースでどんな所に住んでか特定できちゃうんだな。

で、どんどんズームするわけよ。

へぇー、日本なんだ。
え?関東なの? ・・・ って東京じゃん。 
へーー 府中あたりだよね・・・これ。 
って、これ稲城市じゃね? ・・・ って、中央公園じゃん。
めちゃ近所じゃん。

って、夫婦で大盛りあがりだった。そこまでは。

で、めちゃアップになって映し出されたのが、赤茶けた屋根の2階建ての家。

えっ?え?えーっ! これってうちの屋根じゃね? 

思わずかみさんと顔を見合わせたよ。
どう見てもうちの屋根。
駐車場に白のN-BOXまで止まってる。俺の愛車だ。

えーーーっ、これうちじゃね?
生まれ変わりがここにいる?
・・・ってことは祐介ってことか? えーーーっ!

寝息を立てている祐介を見ながら絶句してたら、俺のスマホがいきなり鳴った。
超びびった。

「もしもし、そちら鳥海さん?」

「はい、そうですが・・・」

「内閣官房の吉井と申します。手違いで機密情報がテレビ局に漏れました。先ほどお宅が全国に公開されてしまいました。申し訳ありません。」

「ちょっ、それどういうことですか?」

「詳細は後ほど・・・。とにかく今は勝手口側から早く逃げて・・・」

と言われたところで、リビングの窓ガラスがバーンと音を立てて吹き飛んだ。
突然の事で俺もかみさんも驚き過ぎて腰を抜かした。 
え? 何? 爆発? って思ったら、ダーーーーーンと音がして今度はテレビが吹っ飛んだ。
それでようやくわかった。誰かに銃で狙われてると。
リビングに飾っていた皿やら花瓶やら記念写真やらが次々に銃弾で粉々になっていった。
こりゃ、このままここにいたら死ぬなと思った。

俺は傍らで眠っている祐介を小脇に抱え、かみさんは防災頭巾を被って、はいつくばってリビングをなんとか脱出。銃弾が降り注ぐ中、飛び散るガラス片を浴びながら、なんとか勝手口を抜けて駐車場に出た。
駐車場に俺のN-BOXは無く、でっかい黒のアルファードがサイドドアを開けて止まっていた。

「先程電話した内閣官房の吉井です。早く乗って!」
そう言ってアルファードの中から小柄だが眼光の鋭い中年男性が手招きをした。
このままここに残れば確実に死ぬと思ってたから、俺達は迷うこと無くアルファードの後部座席に飛び乗った。

日本国政府を後ろ盾にした俺達の逃亡の旅が始まった瞬間だった。
そしてその旅はマラン教を反政府勢力であり危険な分離主義者とみなす国が存続する限り終わりがないものだった。

この5年で俺達は何度も名前を変え、身分を変え、国籍を変え、国内外のホテル、名前も知らない国の領事館などを転々として身の安全を図った。
それでも銃撃戦の中を逃げる事3回、滞在したホテルに爆弾をしかけられた事5回、食事に毒を守られたことは数えきれない。
その都度、内閣官房の吉井さんとその部下達のネットワークに助けられた。

祐介が普通の学校へ行くなんて夢のまた夢だ。
友達もできないだろう。
そのかわりネットを通じてマラン教の高僧達が入れ替わり立ち替わり祐介に英才教育を施してくれている。
語学、宗教哲学、数学、物理、美術史などだが、そもそもサンスクリット語で講義がされるので俺達にはチンプンカンプンだ。

祐介はニコニコしながら高僧達の講義を聞いている。
祐介がわかってるのか、わかってないのかよくわからない。

ただ最近なんとなく祐介の身体の周囲がほんのり光りだしたような気がする。

祐介は本当に生まれ変わりなのかもしれない。


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マジバイ
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