博報堂初の新規事業開発組織「ミライの事業室」室長に学ぶ「これからの時代に求められるリーダーシップ」とは何か
この記事は、"武蔵野美術大学 大学院造形構想研究科 クリエイティブリーダシップコース"というやたら長い名前の大学院での "クリエイティブリーダーシップ特論I" というこれまた長い名前の授業での学びを紹介する記事のシリーズ第13弾です。
この授業では、クリエイティブとビジネスを活用して実際に活躍されている方々をゲスト講師として、60分講義・30分ディスカッションというセットで学びを得ています。
第13回 (2021年10月4日)は、吉澤到さんからお話を伺いました。
自己紹介
記事の本題に入る前に、簡単に自己紹介をさせてください。
私は、社会人として働きながら武蔵野美術大学の大学院に今月2021年4月に入学しました。仕事ではUXデザイナーとして働いており、大学院ではUXデザイナーの仕事に活かせる生きた知識を、体験も通して身に付けたいと思っています。
ゲスト講師のご紹介
吉澤到(ITARU YOSHIZAWA)
株式会社博報堂 ミライの事業室 室長/ クリエイティブディレクター
東京大学文学部社会学専修課程卒業。ロンドン・ビジネス・スクール博士(MSc)。1996年博報堂入社。コピーライター、クリエイティブディレクターとして20年以上に渡り国内外の大手企業のマーケティング戦略、ブランディング、ビジョン策定などに従事。その後海外留学、ブランド・イノベーションデザイン局 局長代理を経て、2019年4月、博報堂初の新規事業開発組織「ミライの事務室」室長に就任。クリエイティブグローススタジオ「TEKO」メンバー。
著書に「イノベーションデザイン〜博報堂流、未来の事業のつくり方」
(授業での自己紹介スライドを参考に記載)
ゲスト講師の活動内容
授業から学んだこと
■「経営とは、霧の中で大海に向かって舵を取るようなもの」
ロンドン・ビジネス・スクール(LBS)には、吉澤さんが42歳の時に、人生初の海外留学として入学されました。動機は経営者の頭の中をもっと知りたい、というものだったそうです。
LBSは、世界トップスクールの1つで、MBA世界ランキング2位のスクールです。平均年齢が40代。CEO経験者、石油王の御曹司など実社会で実践をしてきた人が改めて学びを得るためのスクールです。
吉澤さんによると「経営とは、霧の中で大海に向かって舵を取るようなもの」だそうです。
例えば、授業の中で、Honda(A)とHonda(B)というケーススタディがあります。それぞれ、コンサルティング会社がHondaの経営を分析してケースにしている例ですが、Honda(A)とHonda(B)では全くHondaの見え方が変わってきます。
Honda(A)では、成果までの道のりが戦略的に無駄なく行われているようにみえています。一方で、Honda(B)のケースでは、いろいろと寄り道や無駄な寄り道もありながらも、最終的に成果へと結びついています。
実態に近いのは明らかにHonda(B)のケースです。
このケースをLBSはMBA批判として紹介します。「あなたたちはビジネススクールにきたけれども、ケーススタディに騙されてはいけない」と、ビジネススクール批判から授業が始まったそうです。
MBA批判を行う理由は、エンロン事件やリーマンショックなどの反省からだそうで、欧米のビジネススクールは現在、計数管理のハードスキルから、組織行動学やリーダーシップ論などソフトスキルを重視するようになっているそうです。これは、市場変化の激しい現代において、従来の経営管理手法ではイノベーションが生み出せないこと、ミレニアム世代やZ世代の台頭、ステークホルダー資本主義の浸透も背景にしています。
ビジネススクールの教授も、今や経済学やファイナンスの教授よりも心理学者の方が多いそうです。
ビジネススクールが、ビジネススクール批判から入り、経営の実態にそった、そして社会の変化にともない変化していっているところにとても面白さを感じました。
■ 経営に必要な力は哲学、算数、心理学
ではその経営に必要な力とは。吉澤さんは3つあると教えてくれました。
それは、哲学、算数、心理学です。
・哲学:
どう生きるか、価値観、倫理観、真・善・美
・算数:
マクロ経済、ファイナンス、アカウンティング、計数管理、ROI、 KPI
・心理学:
組織行動論、モチベーション、意思決定バイアス、組織文化、ナッジ
何をよしとするのか。それがしっかりと経営者の中になければ、儲かればよいとか、株主至上主義でいこうとかそういうことにつながります。自分として、社会をどう変えていきたいのかが求められます。
■ 「協力と相互依存」による価値の創造と「3つの開放」
さらに、社会全体の変化を考えた時、リーダーシップ像が見えてきます。
「協力と相互依存」による価値の創造へ
プラネタリー・バウンダリーとはヨルゲン・ランダース博士による「地球の健康状態」をわかりやすく示したシミュレーションです。
ここでは「気候変動」、「生物圏の一体性」、「土地利用変化」、「生物地球化学的循環」については、人間が安全に活動できる境界を越えるレベルに達していると指摘されています。
これまで、相手の領土を奪いシェアを伸ばすような経営が行われてきましたが、成長が一定の枠を超えてしまうと地球が壊れてしまう。だから、一定の枠の中で繁栄を目指す時代へ変わってきたと言われています。
成長が「市場の独占」による価値の獲得から、「協力と相互依存」による価値の創造へとパラダイムシフトしたとも言えます。
システムリーダーの時代
また、ピーター・センゲ(Peter Senge)、ハル・ハミルトン(Hal Hamilton)、ジョン・カニア (John Kania)は、著書『システムリーダーシップの夜明け』において、これからは「システムリーダー」の存在が必要だと解いています。
社会を変化させるには、1つの解決策では実現できず、複雑なシステム全体を変革させる必要があります。問題に関わる多くの人々に「自分ごと」として変革に取り組み、協働するように導く「システムリーダー」が必要とされているのです。
では、システムリーダーに必要なものは何か。それは3つの「開放」です。
・思考を開く:前提を再検討する
・心を開く:自分の弱さを見せ、違いに本当の意味で傾聴し合う
・意志を開く:すでに決まっている目標や課題を手放し、本当に必要なことや実現できることに目を向ける
相互依存
上記、成長のパラダイムシフトでも紹介しましたが、これからのリーダーには相互依存の考え方が必要です。
ブッダは、「自分も相互につながり、影響し合うエコシステムの一部であると気づく」こと。また、「他社への共感と謙虚さをもち、変化を創造的に受け入れる」ことを相互依存として説いているそうです。
この考え方は、これからのリーダーに求められるに一致します。
今後の活動につなげたいこと
UXデザイナーとして働く中で、プロジェクトの目標が短期売上にならないようにすることは、サービスデザインの観点でも心がけていますが、成長のパラダイムシフトを考えた上でも、今後KPIの置き方を含めどのような成長を目指すのかを一緒に丁寧に考えていく必要があると再認識しました。
システムリーダーに必要な3つの「開放」についても、実践していきたいと思います。