北海道上川町に住み込むデザインリサーチャーの話
Goodpatchのデザインリサーチャーをしている米田と申します。
この投稿はGoodpatch Design Advent Calendar 2023の7日目の投稿です。他の記事もぜひ読んでみてください!
私は普段デザインリサーチャーとして主に探索型と呼ばれるリサーチを担当しています。
その中の一つのクライアントワークとして、北海道上川町役場とのお仕事をさせていただいています。総務省の地域活性化起業人制度という枠組みを活用させていただいており、2022年10月から本格開始し、2022年12月に移住して住み込みでのリサーチを始めました。
この投稿では、上川町での取り組みについて紹介させていただければと思います。
1. 北海道上川町の紹介
北海道上川町は、北海道のまんなかあたり。旭川空港から車で1時間ほどの場所にある町です。
町の半分は大雪山国立公園の中にあり、お昼休みに山に入ってこぎつねと出会ったり、石狩川のほとりでサンドイッチを食べたり出来るような自然がいっぱいの町です。
まちばと呼ばれる私も住んでいる駅前エリアから車で30分ほど行くと層雲峡という温泉街もあります!思い立った時に車でサクッと国立公園にも温泉にもいけて贅沢に感じます。
人口は約3200人。歩いていると、知り合いに会えて手を振りあえたり、町のお店の方々とも友達になれるようなそんな距離感の町です。地域おこし協力隊制度などを活用した上川町へ移住しての新しい働き方をつくっていく「カミカワークプロジェクト」を実施していることで、カミカワークプロジェクトを通じた移住者やそういった人材との関わりで移住してきた人たちもたくさん町に住まれています。
上川町の人たちとの出会いは私にとってかけがえのないもので、全員紹介したいところです。
また、上川町を通じて、上川町に住んでいない人との新しい出会いもたくさんありました。背景として、上川町は越境型官民共創の取組みを行っていて、たくさんの企業と連携していることがあります。例えば、株式会社コロンビアスポーツウェアジャパンとの取り組みではコンセプトショップとカフェスペース「Black Mountain Coffee by Columbia」があったり、NewsPicks Creationsとは共創コミュニティ「KAMIKAWA GX LAB」をつくっていたりします。
そういった会社の方々とも上川町を通じて知り合いました。このような企業連携を可能にしているのは、役場職員の三谷さんが町長に直談判して実現した上川町東京事務所が要因の一つです。
「カミカワークプロジェクト」・越境型官民共創の取組みを始め様々な新しい取り組みを行なっている上川町役場・地域魅力創造課の高野さんや小知井さん、清光さん、池端さん・・・みなさんも紹介したいですが、これもまたの機会に!
2. 総務省・地域活性化起業人の紹介
冒頭でも記載しましたが、総務省の地域活性化起業人制度を活用させていただいています。地域活性化起業人は、「三大都市圏に所在する企業等の社員が、そのノウハウや知見を活かし、 一定期間、地方自治体において、地域独自の魅力や価値の向上、地域経済の活性化、安心・安全 につながる業務に従事することで、地方自治体と企業が協力して、地方圏へのひとの流れを創出できるよう、総務省として必要な支援を行う取組」です。
上川町では私以外にも現在、2名の起業人がいるのですが、2人とも仲良しで、取り組めることがあれば一緒に仕事をしたり、一緒に飲みながら話したりもしています。
3. これまでの上川町とGoodpatchのいきさつ
よく、「どういう流れで上川町と一緒にやることになったの?」と質問をいただくので、これまでのいきさつをまとめてみました。
2022年6月:始まりは「何かご一緒できることありますかね?」というご相談
最初の依頼は、「何かご一緒できることありますかね?」というご相談で、そこに対して「まずは行かないとわかんないし、デザイン研修を実施しますか!」という話になったそうです。この時点では私はまだ入っておらず、後ほどご紹介する当時Goodpatch社員だった吉本さんが話を進めてくださっていました。
そんな流れで、役場職員の方へのデザイン研修が実現し、吉本さんの1dayワークショップと私が計画しての1dayインタビューを実施して、そこからの気づきをご共有しました。
2022年10月:取り組み開始
6月のデザイン研修でのインタビューの気づきから一緒にできることがありそうと感じていたことと、個人としても上川町のことがすでに大好きになっており、取り組みが始まればよいなと思っていました。上川町役場の皆さんと吉本さんと検討した結果、ぜひリサーチプロジェクトとしてやりましょう!ということになりました。
2022年12月:社員移住
前述した起業人制度には規定の日数は役場で働くことという規定はあるのですが、必ずしも移住する必要はありません。ただ、上川町の魅力に惹かれ、また住み込んでのリサーチの方が質があがると確信していたので、移住をすることを決めました。
この話をすると「許してくれるGoodpatchがすごいね!」と言われます。Goodpatchにいるとその環境が当たり前になってしまうのですが、恵まれた環境にいるのだなと思います。
2023年8月:「未来共創パートナーシップ協定」を締結
上川町とGoodpatchとの関わりで言うと、2023年8月に「未来共創パートナーシップ協定」を締結しました。
4. 一緒に進めてきた吉本さんの紹介
ここからリサーチ内容と取り組み内容をご紹介できればと思うのですが、その前に。
前述の通り、上川町との取り組みは、当時Goodpatch社員だった吉本健太さんと進めてきました。吉本さんは、独立してKAMISORI WORXの代表を務めていますが、現在も上川町との取り組みには関わってくださっており、これからも頼れる吉本さんと一緒に進んでいきたいなと思っています。
5. リサーチ内容
リサーチ内容は今回は概要だけ。また改めて詳しくご紹介できればと思います。
町民の方への住み込みリサーチ
上川町の魅力と課題を理解するため、移住してきた方々も含め町民の皆さんにインタビューや一緒に働いたり食事をとったりといった時間を過ごす中でのリサーチをさせていただきました。
移住のきっかけにつながった鍵は何なのか、町への関わり方別に異なるのか、町の方々の不安と町に感じる魅力は何なのか。
そういったことを深掘り、後述する取り組みにつなげていきました。
Goodpatch若手社員3名による1ヶ月ワーケーション検証
また、リサーチの中で可能性として見えてきた上川町へのワーケーションの価値を検証するため、Goodpatchの社員であるじゃけさん、こゆきさん、Umeshitaさんに上川町で実際に1ヶ月暮らしてもらい、日々日記をつけてもらうこと、彼らへの密着動画を撮っていただくことを行いました。
役場職員の方々も含めた窓口リサーチ
今後のDX推進につなげるため、「上川町役場の価値」を町民視点・役場視点の両方から探るリサーチを行いました。
6. これまで生まれた取り組み
こういったリサーチや取り組む中での人との出会いから生まれた取り組みを紹介させてください。
中学生・高校生へのワークショップ
インフィニティ国際学園中等部・上川高校へのデザインおよびリサーチについての講義やワークショップを行わせていただきました。
上川町役場職員のみなさんに向けた研修
役場職員のみなさんに向け、「上川町役場の価値を踏まえたDX構想」をテーマに、サービスデザインにおけるデザインプロセスおよびアイディエーションについての研修も行わせていただきました。
広報「かみかわ」リニューアル
上川町の住民のみなさん向けの役場からの広報誌である「かみかわ」のリニューアルを行いました。(2023年12月現在、第二弾リニューアルも進行中です。)
広報誌とは何を目的にするべきなのか、何につながるものにしたいのかを、町民のみなさんからの声を土台として、起業人である越中谷翔子さん、そして役場広報メンバーと一緒に考えて言語化し、そのコンセプトをもとに広報誌の内容を変更しました。
上川町内支え合いプロジェクト「もちもちかみか輪」
上川町社会福祉協議会のみなさんと一緒に、上川町内での支え合いの輪がいまよりも自由に広がることを目指すプロジェクトとして、上川町内支え合い部「もちもちかみか輪」をつくっていく活動をしています。
この活動は、上川町に1ヶ月ワーケーション検証をしてくれたメンバーの1人でもあるこゆきさんと一緒に行っています。
人材開発型ワーケーション事業の開始
上川町のコミュニティを活用した人材開発型ワーケーション事業を開始しました。上川町の魅力の1つである、自分の想い・内発的動機(=Why)を原動力に自ら動き、自ら問いを立ててリードできる人が多いことを活かした事業として進めているものです。
研修内容は、上川町に複数日滞在し、町民と対話し仕事を実体験する「弟子入り」プログラム。他者・自己との対話を通して他者と自らのWhyを理解することで、Whyを原動力に自ら動ける人材になることを目的としています。
第一回は丸井グループのみなさんへの研修を行いました。
Goodpatchと丸井グループとは、共同でジョイントベンチャー株式会社Muture(ミューチュア)を設立し、DX推進を戦略および戦術面から支援しているつながりもあることを背景に、Goodpatchから執行役員としてMutureに参画した莇 大介さんの協力もあり、実施につながりました。研修終了後に参加者に実施されたアンケートを一部ご紹介すると、下記のような感想をいただいており、実施して本当に良かったと感じました。
● 私は、組織や環境などに貢献したいという気持ちが、前進し続けるためのモチベーションになっているため、さまざまな方の「Why」に触れられたことで、モチベーションリソースは人それぞれだと気付かされました。 このような自分の前提とは違った価値観に触れた時の疑問や違和感は自身の考え方や価値観の棚卸しをする機会になると思います
7. 派生して生まれた取り組み
「未来共創パートナーシップ協定」調印式デザイン
上川町との調印式では、Honoka Hiraoさんがデザインを担当くださいました。記者会見用のパネルも上川町写真展も特産品のPOPも素敵で、調印式に参加してくださった方々がみんな足を止めて見入ってくれていました。
北海道上川町の高校生に向けたデザインワークショップ
2022年にGoodpatchに入社した、Umeshitaさん・sugasoさん・haruさんの3人が、ワークショップを行ってくれました。企業を巡りながら、さまざまな仕事を知って未来への選択肢を増やす上川町の取り組み「ミライエンジン」の一環で、夏休みを利用して東京を訪れた高校生8人へのワークショップです。高校生にもサポートで参加してくれていた大学生の皆さんにも好評でした。
ふるさと納税のはちみつのリブランディング
蓼科養蜂が提供するもともと売れ筋の商品の「はちみつ」について、どうすればさらに人気が出るか、どうすればもっと上川町のことを知ってもらえるか、パッケージのリデザインを中心に商品体験の向上を目指した取り組みです。パッケージ、すごく素敵になりました。
8. 一個人として感じていること
上川町に住むようになり、町に良いことを起こせたらなと日々思っています。ただ、自分を振り返った時に、むしろ上川町からいただいたもの、上川町と関わったことでの自分の変化に気づきます。上川町に関わったことで自分の得た価値や気づきの一部をご紹介します。
上川町に移住でき、町民として関われたことの貴重さと重要さ
上川町との関わり方として、「町民として関われたこと」がとても貴重な機会であり、また自分にとって重要だったと感じています。
町の人の顔が見える距離感の中で、「この町ですこしでも良いことを起こすために、自分は何ができるんだろう」と日々考えられたことがとても貴重であり、また、研修事業の基にもなった「自分がやりたいことだから、自分で動く」人の魅力に触れ、自分もそんな人でありたいと改めて思えたことが重要な経験でした。
場の関わり方の多様性への寛容さ
一つ目の気づきに「町民として関われたことの貴重さ・重要さ」を書きましたが、一方で上川町の人々が、さまざまな関わり方の人に寛容であることは、上川町という場の居心地をよくすることや面白い人が集まり面白いことが起こっていくことのプラスの要因だと思っています。
上川町に住んではいないけれど上川町との取り組みに主体的に関わる人たち、上川町の知り合いに会いに訪れる人たち、いろんな人の自分にとって居心地の良い関わり方を歓迎してくれる町だと感じています。
「仕事」と「やりたいこと・やっていてワクワクすること」の紐づき
まだまだ上川町でやりたいことがたくさんあって、いろいろと企んでいるのですが、自分がワクワクすること、面白いなと思えることを仕事に紐づけてできることってすごく幸せだなと感じます。私はリサーチが好きで、デザインリサーチャーとして働けていることがまず幸せものだなと思うのですが、上川町での取り組みを通して、仕事とワクワクすることの紐付きを強く感じました。打ち合わせをしていても「これ、ワクワクするね」とか「これ面白くない?」「これ実現したいね」という会話がよくあります。これはすごいことだなと思いますし、この感覚は忘れたくないなと思います。デザインリサーチャーとして働く中で、一緒に進むクライアントさんとももっと仕事とワクワクすることの紐付きを感じながら進めたらなと思います。
上川町の人の魅力の部分、一人一人の紹介、リサーチの詳細や、リサーチャーとしての気づきや学びなど、まだまだ書きたいのですが、すでに5000字を超えてしまっているので、この投稿はここで締めようと思います。
リサーチカンファレンス登壇の詳細記事も書きたかったりいろいろと溜め込んでいて焦っていますが、ひとつずつ言葉にしていこうと思います。