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社会に自由と寛容をつくる「ただの人間」から学ぶ 「実現力の鍵」

この記事は、"武蔵野美術大学 大学院造形構想研究科 クリエイティブリーダシップコース"というやたら長い名前の大学院での "クリエイティブリーダーシップ特論I" というこれまた長い名前の授業での学びを紹介する記事のシリーズ第三弾です。

この授業では、クリエイティブとビジネスを活用して実際に活躍されている方々をゲスト講師として、60分講義・30分ディスカッションというセットで学びを得ています。

第三回 (2021年4月26日)は、森一貴さんからお話を伺いました。

自己紹介

記事の本題に入る前に、簡単に自己紹介をさせてください。

私は、社会人として働きながら武蔵野美術大学の大学院に今月2021年4月に入学しました。仕事ではUXデザイナーとして働いており、大学院ではUXデザイナーの仕事に活かせる生きた知識を、体験も通して身に付けたいと思っています。

ゲスト講師のご紹介

森 一貴(Mori Kazuki)
1991年山形県生まれ。東京大学卒。大手コンサルを経て、鯖江市での「ゆるい移住」の取り組みを機に福井県鯖江市移住し、現在も在住。

「社会に自由と寛容をつくる」がコンセプト。フリーのプロジェクトマネージャー/サービスデザイナーとして、人々の「できる」という確信=Capabilityを引き出す営みを探索する。職人に出会いものづくりを知る、福井のものづくりの祭典「RENEW」事務局長。半年間家賃無料でゆるく住んでみる全国連携移住事業「ゆるい移住全国版」プロデューサー。鯖江市にてシェアハウスを運営。
(「タマノモリ」での紹介と当日のご本人からの自己紹介をもとに記載)

ゲスト講師の活動内容

「社会に自由と寛容をつくる」をコンセプトに活動をされるなかで、最初は「選択肢を増やす」ことをしようと心がけておられたようです。

次は「変化のための階段をつくること」。そして「個人が何かを変える能力を持つことを後押しすること」さらには、「ある組織が「個人が何かを変える能力を持つことを後押しする」を後押しすること」をしようと考えられているそうです。

これだけでは、どういうことか理解しにくいと思うので、1つ目の「選択肢を増やす」のところから詳細をご紹介しようと思います。

(1)選択肢を増やす
第一回の「林業アーティスト/足立成亮さん、建築家/陣内雄さん」のお話から学んだ、「新しいことを始めることというのは既存のものを否定することではなく、選択肢を増やすことなのだ」という学びに通じるものがあります。
選択肢を増やすための取り組みの例に「ゆるい移住」があります。半年間家賃無料で、よくある移住制度では定住や起業が前提となっていますが、その前提もなしに「とりあえず住んでみる」という選択肢を提供する取り組みです。

(2)変化のための階段をつくること
これは言い換えると「個人の自由な変化を後押しする」ということです。
取り組みの例としては、生き方見本市HOKURIKUがあります。
これは、多拠点居住者やLGBT、鬱の当事者などさまざまなゲストを集めて、トークをしてもらう企画です。

田舎ではまだまだ認知されていない多様な生き方をする人を招くことで、当事者同士が出会えたり、議論が活発になることを目的としました。
運営はボランティアの方々によるもので、福井にいる「なにかやりたそうだけどまだやっていないひと」に声をかけたそうです。
200人を超える人が参加する企画を実現したことで、「意外と自分たち、なにかできるんだな」といった気持ちを醸成でき、それがきっかけで転職するなど変化の後押しにつながりました。

(3) 個人が何かを変える能力を持つことを後押しする
取り組み例として、「RENEW」があります。もともと2015年にスタートした取り組みで、年に3日間、工房を開放し、来場者は職人さん自らの案内で工房を見学したり、ワークショップに参加できます。

職人の方々は普段、お客様に触れることが少なく、直接自分がつくったものが人を喜ばせているところを見る機会も少なかったそうです。
その機会を「RENEW」を通して得て「まだやれるかもしれない」という気持ちが後押しした結果、まちに暮らす人々自身によって、6年の間にさまざまな企画が行われ、移住や工房・店舗・宿などの新規オープンにもつながりました。

ゆるい移住」も、何かを変えることの後押しにもつながっています。
日本は、新卒ですぐに就職したり、転職の間の期間も短い方がよしとされたりと、「余白」がすくなくなっています。そこで、自分自身で生き方を実験する・生き方を探すための場として地方をリフレーミングしました。
結果、転職をしたり移住をしたりと自分自身で人生を変える後押しとなりました。

こどものやりたいことをともに実現する探索型学習塾「ハルキャンパス」といった取り組みもあるのですが、ここでは割愛します。
『授業から学んだこと』ですこし触れますが、詳しくはこちらをご覧ください。

(4) ある組織が「個人が何かを変える能力を持つことを後押しする」を後押しする
ややこしくなってきましたが、例をご紹介すればわかりやすいと思います。例としては「福井県の政策デザインプロジェクト」などがあります。
「個人が何かを変える能力を持つことを後押し」しようとしている組織への協力です。

これまでは、専門家や権力者が政策や都市をつくって市民に提供するモデルでしたが、これからは、専門家や権力者は人々が社会を変えやすいシステムを構築することが役割であり、市民がほしいものを自分たち自身で生み出していくモデルになることが重要という考えのもと、取り組まれています。

授業から学んだこと

1つめは、プロトタイプ思考です。
さまざまな取り組みをすべて難なく成功させておられるように見え、恐れ慄いた私は、思わず質問をしました。

「ハルキャンパスなどはどのように着想を得たのですか?たとえばハルキャンパスであれば、"福井は学力No.1といわれているが、逆に創造力はすくないと思っていてそこをなんとかしたい"と課題を捉えられたと理解しており、課題の着眼点がすごいと思っているのですが、そのヒントが知りたいです。」と。

ハルキャンパスとは、先ほどもすこしだけ触れましたが、例えばYoutuberになりたいという子がいれば、実際に動画を制作してみるなど、こどものやりたいことをともに実現する探索型学習塾です。

「この鋭すぎる着眼点には、きっと秘密があるのだろう」と期待した質問に対し、返ってきた答えは意外なものでした。

「着想力はない。ハルキャンパスは、教育に課題意識はあって、ずっと考えていた。そこから自然の流れだったとおもう。最初、ロジカルシンキングを教える形でやって、ぜんぜんだめだなとなった。そこからプロトタイプをいっぱいつくって、実践してみて考えた。」ということでした。
ぜんぶさらっと成功されているように見えたのですが、実際はやってみて、うまくいかなくてピボットをしたということだったのです。

2つめは、身銭を切ること。
他の大学院生が「行政のプロジェクトがいくつありましたが、行政の予算や人に依存せず、活動やプロジェクトの継続性(主にリソース)を確保・維持するために工夫されていることはありますでしょうか。」という興味深い質問をしてくれました。

それに対する返事は「そもそもお金がなくてもやりたいっていう気持ちでやっている。RENEWは民間側、自分たちがお金をだしていた。そこに後追いで、行政からお金を出すよといわれた。予算がつかなくてもやるべきと思っている。」というものでした。

最近、『身銭を切れ 「リスクを生きる」人だけが知っている人生の本質』という本を読んだのですが、森さんはまさに「身銭を切る」ことの実践者でした。
自ら身銭を切っているからこそ、その言葉には真実味があり、信頼できます。また、だからこそ「身銭をきってでもやりたい」という信念のもとに行動され、数々の取り組みを実現されているのだと思いました。

3つ目は、ただの人間であること。
これも他の大学院生が「県庁にデザインを持ち込んだときに反対はあったのでしょうか?もしあった場合はどのように突破していったかご教示いただきたいです。ちなみに自分は今制度と常識に縛られまくっている大企業で働いているのですが、どうすれば組織を変革させられるか悩んでおります、、」という興味深い質問をしてくれました。

それに対する返答の一部として、「人の前でただの人間でいることが大事。社会人モードで相対すると、相手も社会人モードできてしまう。判断してしまう。でも相手とも人間として話をしたい」とおっしゃっていました。

このことについては、森さん自身がNoteに書かれておられます。
詳しくはぜひ、こちらの記事を読んでいただきたいのですが、一部引用させていただきます。

肩書や属性を先に知ってしまったら、それを期待してしまう。そういう「自分が持っている属性タグと、自分自身とのズレ」みたいなものに悩んでいる。今の社会って、そんな人がたくさんいるんじゃないでしょか。

だから僕は、僕自身が、誰かの前でなるべく「ただの人間」でいるようにしたい。
そしていま、そういう「ただの人間でいる」という振る舞いが、実は「人間関係」において、ものすごく重要なんじゃないかと感じてます。
ただの人間の前で、ついに誰かは、肩書ベースで振る舞うことをやめることができる。ああ、コミュニケーションって、なんかこんな感じでよかったんだっけなあ〜、なんて、息をつくことができる。

今後の活動につなげたいこと

今後、UXデザイナーとして働いていく上で今回の学びから活かしていきたいと思っていることは3つあります。

1つ目は、やはりプロトタイプ思考。
私は、もともとマーケティングリサーチャーだったこともあり、基本的に丁寧にリサーチをして、インサイトを得て、モノやサービスにつなげるということが大事だと思っているし、得意です。

しかし、プロトタイプ思考ももちろん大切にするべきであり、実現にむけて大きな鍵となる考え方です。共存できないものではもちろんないので、プロトタイプ思考も常に心がけます。

2つ目は、身銭を切ること。
ここでいう「身銭を切る」とは、金銭的な意味に限らず、自分の時間だったり、名声や仕事だったり大事なものをリスクにさらすという意味なのですが、UXデザイナーとしても、プロジェクトがうまくいかなかったときに、クライアントの方々だけにリスクがあるようではいけないと思っています。プロジェクト1つ1つの成功に、当事者として、身銭を切って関わっていようと思います。

3つ目は、もうお分かりですよね。「ただの人間」でいることです。
もともとあまり肩書きなどは気にしないのですが、自分自身の肩書きや経歴を伝えたときに相手がどう感じるのか、どういう人だと思うのかも気をつけなければならないなと学びました。また、UXデザイナーとして働く上ではクライアントの方々で一緒にチームとして働く方に、肩書きや経歴が「すごい」と言われる方もおられます。しかし、そんな人も「ただの人間」と認識してチームとして動くのが必要だと感じています。

また長くなりすぎました。
次回は、アートキュレーター/鈴木 潤子さんがゲストです!楽しみです!

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