【禍話リライト】仏のふり

 少々暴力的な話である。


 とある神社に、その場所を遊び場にしていた子供たちがいた。
 その日はたまたま神社の管理をしている人が不在で、その事に気が付いた子供たちは普段より大きな声ではしゃいでは、そこら中を走り回って遊んでいた。
 すると誰かしら人がやって来る気配がして、先ほどまで境内ではしゃぎまわっていた気恥ずかしさから、とっさに神社本殿の裏手に回り込んで隠れる事にした。

 やげて参道をやってきた中年男性は、鈴をじゃらじゃらと鳴らしては熱心に何かを拝み始めた。
 その日は休日だというのに、ネクタイスーツをキッチリと着込んで、大きな瓶入りのお酒を備えて、5分も10分も一生懸命にお祈りをしている。
 裏手に隠れていた子供たちは段々と暇になってきて、かと言って今更飛び出していくわけにもいかず、どうしたものかと顔を見合わせた。

 その時、男性が拝んでいる方向に自分たちがいるという位置関係に気が付いた一人のお調子者が、腕組みをして「うむ!よし!」と願いを聞き届けるような、神様の真似を突然始めた。
 隣にいた子はそれを見て思わず吹き出してしまった。
 何とか声を出さずにはすんだものの、隣でププッとなっているのを見て更に調子に乗ったのか、「うーん?」と首を傾げたりベロベロバーと変な顔をしたりと、余計にふざけて遊び始めた。

 幸いにも拝んでいる男性は裏手の子供たちに気付く様子はなく、15分ほど拝んだ後に帰って行った。
 男性が去った事を確認して裏手から出てきた後、「お前笑わすんじゃねえよ」「それにしても15分も熱心に拝んでいたね」など思い思いの事を言って、その日は解散になった。


 家に帰って早速今日起きた出来事を家族に話すと、お爺さんはニコニコとして聞いていたものの、お婆ちゃんからはこっぴどく叱られることになった。

「あそこは昔からある神様なんだから、そんな事しちゃダメだ!罰が当たるぞ!!」

 普段は温厚過ぎるほど温厚なお婆さんがここまで怒るところは見たことがない。
 もしかして、あの神社には何か恐ろしい曰くや謂れがあるのではないか。
 そう思い一晩中不安を抱えたまま眠り、翌朝どこか体が腫れてるんじゃないか、熱が出てたりしないかと体中を調べたのだが、いたって健康で何ともない。

 なんだよ脅かすなよ婆ちゃん、と話しかけるがお婆さんは朝になってもまだ怒っている。
 その態度にまた少し怖くなり、心配しながら学校に行くと例のお調子者は普通に学校に来ていた。
 授業中に急に熱が出やしないか、あるいは何か変な事になるんじゃないか、そんな事を考えているが何も起きないまま昼休みになった。


 昼休みになってもなお昨日からのお婆さんの態度が引っかかって、外に遊びに行かずに校庭を見ていると、お調子者は昨日の事はすっかり忘れたようでドッジボールで遊んでいる。
 その姿をみて、ここまで来たら流石に何も起きないんじゃないか、そう考えた所で校門の方から男の人が走ってくるのが見えた。

 昨日熱心に拝んでいた男性である。

 え!?と驚く間もなく、その男性がドッジボールで遊ぶ彼を後ろから捕まえて羽交い絞めにした。
 大変だ!と慌てて校庭に降りていくと、やはり周囲は騒然としていて、当の本人は何だ何だ!?とまだ状況が呑み込めずぽかんとしている。

 男性は、彼の腰の辺りに縋り付くような格好で、

○○がまだ死なないんですけど、どうしたらいいですか!!!

 そのような内容を繰り返し叫んでいる。
 ようやく駆けつけた先生達が「ちょっと止めてください!」と引きはがす間も

どうしても死なないんですけど!!普通に生きてるんですけど!!

 そうやってずっと叫び続けていた。
 ちなみに、当のお調子者は前日の事などすっかり忘れており、一体何だったんだあれ…と最後までぽかんとしていた。



出典
禍話アンリミテッド 第十夜 16:55~

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