【禍話リライト】残っていた記録
酒の席で、「元カノへの未練」というテーマで盛り上がっていた時の話。
ある一人が、
「俺が付き合ってた子は、かわいいし、気も利くし、話も面白いし、頭もいいし、いい子だったんだけど………変な子だったんだよね…」
そう切り出した。
「今のところ全く悪い所ないけど……
ああ、分かった、料理が下手で砂糖と塩を間違えるとかだろ?」
「いや、料理も上手くて、素朴なおふくろの味とでも言うか、外食するよりその子の料理食べたくなる感じ」
「何にも悪いことないじゃん!」
「いやー……それがね、色々拾ってくるんだよ」
聞けば、道端に捨ててある、まだ使えそうな家具などを持って帰ってくるという事がよくあったのだそうだ。
「別にいいんじゃない?そりゃ例えば、雨に濡れて使いようがない物を拾ってくるとかなら、そりゃヤベーけどさ。まだ使えるものならリサイクルって事でいいんじゃない?」
「でもね、一回だけパソコンを拾ってきて……」
「パソコンは………確かにあんまり拾ってくる事は、ないかなあ。そもそも捨てられてる時点で壊れてるもんね」
「そうなんだよ。しかもそれが原因で怖い体験しちゃって…」
怖い話ではなく元カノへの未練の話を聞きたかったのだが、どうしても話したそうだったので詳しく聞くことにした。
*********
体験者の名前を仮にAさんとしよう。件の彼女さんとは、Aさんが大学生の頃に付き合っていたそうだ。
ある日、Aさんがバイト終わりに彼女さんの家に遊びに行ったところ、見慣れぬノートパソコンが閉じて置いてある。
「どうしたのこれ?」
「パソコンが捨ててあったから拾った」
「え!?拾ったって…昨日ぐらいに雨降ってたよね、もう濡れて電源が馬鹿になってるんじゃないの?」
試しにAさんが電源を入れてみると、予想に反して電源が入ったのだそうだ。
「あれ?電源付くねえ…」
「ね、付くでしょ?ちょっと見てみたんだけど、ソフトとかちゃんと入ってるんだよ」
「ソフトって何?」
「ほら、ワードとか、エクセルとか、そう言うのが色々」
「へえ、じゃあ何で捨てたんだろうね?容量がいっぱいになって凄く動作が重いとかかな?」
「いや、流石にそこまではわかんない。それよりも何か作ってあげるわ」
そう言って彼女さんは料理を作りに、台所に立った。
「ああ、ありがとう。簡単な物でいいよ」
彼女さんに声を掛けながらノートパソコンを触ってみると、フォルダの中に作成日の新しい文書が残っていた。
「このノートパソコン、中に何かのファイルが残ってるよ?」
「私はまだ中身見てないんだけどね。捨てた人が消し忘れたのか、なんか残ってるんだよね」
適当にクリックしてみると、文書が開いて中の文章が読めた。
なるほど、前の所有者は女性だったのか。
Aさんはメモを読み始めた。メモはかなり詳細で、何月何日にどこに行ったというような彼氏との思い出が、事細かく長々と書かれていた。
しばらく読み飛ばしていくと、
そのような記述がAさんの目に留まった。
これはちょっと、ストーカーというやつでは…そう思いながらそのまま続きを読んでみると。
だいぶ悪化してるじゃないか…
不穏なものを感じながら続く文章を読むと、「彼のことは諦めた、私はどうやら病んでいたらしい」といった内容が続いていたため、Aさんは最初は安堵したのだが。
そのような内容が、かなり詳細に書かれていた。
妄想だとしても嫌な気分になったAさんは、そのまま文書ごと消してしまったそうだ。
「どんなのが残ってたの?」
台所から彼女さんが声をかけてきた。
せっかく自分のために料理を作ってくれている人には、とても言えるような内容ではない。
「なんかねえ……まあ、日記みたいなもの、かな?人の日記だからさ、消した方がいいよね、これ」
「ああ、そう?じゃあそうだね」
「うん……」
ノートパソコンの電源も落とし、それでもなお気分が悪かったため、できる限り自分から遠い位置にノートパソコンを移動させた。
「それでさあ、何だったっけ?」
先ほどから、Aさんと何かの会話が続いていたかのような調子で、彼女さんが話しかけてきた。
Aさんの認識では、先ほどまでの会話は日記があってそれを消す消さないの話であって、内容の話は全くしていない。
「何何?なんだったっけって、俺たち何か話してたっけ?」
「えっと、殴るんだったっけ?刺すんだったっけ?」
「……急に何言ってんの!?」
「なんでもない」
そのまま何事もなくパスタをゆで始めた彼女が、Aさんは急に怖くなったという。
その日こそ彼女の作ったパスタを食べ終えたAさんだったが、その日以降も度々「怖い事」を急に言い出すことがあったため、彼女さんとは別れてしまったそうだ。
出典
シン・禍話 第七夜 1:05:52~
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