【禍話リライト】台所の非常口

 鈴木さんが幼少期の頃、よく遊んでいた友達がいた。その友達の家は普通の二階建ての家で、そこにお父さん、お母さん、お姉ちゃんと一緒に住んでいる、傍目には至って平均的な家族だったそうだ。

 そんな普通の家には一つだけ、奇妙な事があった。台所のガラス戸に「非常口」と書かてれいた事があったのだそうだ。高さは子供の背丈ぐらいの位置で、「非常口」という字を知ったばかりの子供が、マジックペンでいたずら書きをしたような字だったらしい。

 この家にはこんな悪戯しそうな子居ないのにな、そう思いながらも、最初は深く気にすることもなく、この時は友達にも何も言わなかったそうだ。


 別の日に鈴木さんが遊びに行った日の事。また台所のガラス戸に「非常口」と書かれているのを見つけた。前回の文字を消した上にもう一度書いたような形跡が残っており、それを見た鈴木さんは、親戚の子がこの家にたまに遊びに来て、その度に悪戯書きしてるのかな?そう思ったそうだ。

 そういう事ならば、「また台所に落書きがされているよ」と友達にちゃんと教えてあげた方がいいかもしれない。

 部屋に戻って、台所になにか落書きがされていたと教えると、友達は血相を変えて飛び出して、ごしごしと非常口の文字を消している。

 何もそこまで必死になって消さなくても…それとも落書きが個人的に嫌いなのかな?

 不思議に思っている鈴木さんを尻目に、友達はお母さんを呼んで二人で必死になって消し続けている。

 この様子だと、この落書きを書いた人がいったい誰なのか、恐らくは心当たりがあるのだろう。鈴木さんは詳しい話を聞きたかったそうなのだが、二人の挙動があまりにも不審すぎて、結局聞けなかったそうだ。


 鈴木さんがまた別の日に遊びに行った日。今までの事もあって、鈴木さんがこの家に遊びに来た時は、台所の方をまずチェックするのが習慣になっていた。

 今日は特に書いてないみたいだ。

 そう確認して、2階の友達の部屋に向かった。

 友達と遊んでいた途中で、鈴木さんはトイレに行きたくなった。この家のトイレは1階にしかなく、階段を降りてトイレを借りようとした所で、ふと台所の方を見た。

 あれ、今度は書いてある……?

 友達の家に来てから1時間弱。今この時間には、家の中には友達とお母さんの二人しかいなかったはず。不思議に思った鈴木さんは、部屋に戻ってゲームに熱中する友達に、

「また『非常口』みたいなのが書かれてたけど、子供とか遊びに来てるの?」

 そう伝えるや否や友達は血相を変え、

「お母さーん!!!」

 そう叫んで部屋を飛び出して台所に向かっていったという。


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「そういう、ただ気持ち悪いというだけの記憶なんですけど……」

 ここまで話してくれた鈴木さんは、この時になって初めて何かに気が付いた、そういう表情を見せた。

「そういえば、そいつの家って結構みんなの溜まり場というか、色んな奴が遊びに行っていたんですけど。非常口って書かれるのって、必ず俺一人が単独で遊びに行った時でしたね。これって何か関係あるのかな?」

「うーん…まあ関係あるんじゃないですかね…?」

 答えにくい問いかけには曖昧に答えて、更に詳しい事情を聞くことにした。

「それで、その人の家はどうなったんですか?」

「えっとですね、そいつ、俺が高校に上がった時ぐらいに家族全員亡くなっちゃって」

「何で!?」

「それは分かんないですよ、高校違ったし。家族全員が一緒に亡くなったんで、多分事故とかじゃないですか?」

 そう淡々と答える鈴木さんの事が、途端に怖くなった。



出典
シン・禍話 第十夜 1:17:30~

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