【禍話リライト】自殺者と友達と私
この話、お化けの話だったのか、それとも人間が怖いヒトコワだったのか。一体何があったのか、今でも良く分らないんです。
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私が学生だった頃に住んでいたマンションでの話です。
そのマンションは友達の叔母さんが管理人をしていまして、その伝手で私もその友達も、結構な割引価格で借りることが出来たんです。私は5階、友達は2階を借りていました。そしてそのまま、卒業して就職してからもずっと、同じマンションに住み続けていました。
就職して何年か経った、ある年の金曜日の事です。
その日は会社の飲み会がありまして、普段そういった飲み会は一次会で帰る事が多いんですが、この時は思いのほか楽しくて、珍しく二次会まで残ることになりました。その上かなりのハイペースで飲んでしまいまして、この分だと翌日までギリギリ記憶が残っているかな?というぐらいの酩酊具合で、家に帰りました。
ようやくマンションに帰り着いて、いつものようにエレベーターを呼ぼうとしたんですが。何となくなんですけど、このままエレベーターを呼んだとしも、階層ボタンちゃんと押せないかもしれない、そんな変な考えが浮かびまして。
まあ完全に酔っぱらった人間の支離滅裂な思考なんですよね。
ただ、このままエレベータのボタン押せないなら、それなら外階段を登るしかないなと、そんな考えになって、外階段を登って5階の自室に戻りました。
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翌日の土曜日、昼過ぎぐらいですかね。
完全な二日酔い状態で、頭がとても痛くて、一階の自動販売機で何か飲み物を買おうと、エレベータで下まで降りました。ついでに外まで行って薬局で二日酔いの薬でも買ってくるか、とか何とか考えていると、たまたま2階に住む友達とばったり出くわしました。
「よぉ!昨夜は大変だったな!」
「え?何かあったの?」
「知らない?ほら、3階で騒ぎがあったじゃん」
「いやあ…昨日は飲み会で、深夜遅くに酔っぱらって帰ったから、全然知らないんだけど」
「あー……じゃあお前が帰った時間には全部終わってたかもしれないな。3階で人が死んでたんだよ」
「えっ!?」
「俺らみたいに、大学生から社会人になるまでずっと長い間住んでたっていう人だったんだけど、なんか急に連絡取れなくなって音信不通になってたらしくて。心配した友達が夜中に様子を見に来て、それがきっかけで死んでるのが見つかって、結構な騒動になったんだよ。ただ、確かにお前が帰ってきたっていう時間帯だと、粗方すでに終わってたのかな?でも本当に大騒ぎだったんだぞ?」
「あー、全然分かんなかったし、知らなかったな…」
「それでさ、うちのマンションのエレベーターって結構狭いじゃない?だから、運び出す時に外階段経由で担架下ろしたんだけど……その時の写真あるけど見る?」
「いや、それはいいよ。怖いから」
「大丈夫白い布が覆い被さってるし、遠目ではっきりとは写ってないから」
「いや、そういう事じゃないから」
そんな話を聞かされて、嫌な気分というかモヤモヤした気分になった訳で。どうせ明日も休みだからと、その日の夜も結構飲んでそのまま寝ました。
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週が明けた月曜の朝に、マンションの入り口で管理人さんとばったり出くわしました。
「ああどうも、おはようございます。そういえば金曜日の夜、大変だったみたいですね」
「そうなのよ、大変だったのよ、本当に!
あ、そうそう!あのね、これ住民の皆さん全員に手紙出そうと思ってた事なんですけど、いい機会だし、直接お伝えした方がいいかもしれないわね。その3階の亡くなられた方なんですけどね、どうも会社を辞めてから、自暴自棄になってちょっとおかしくなってたそうなのよ。
ほら、貴方は知ってると思うんだけど、うちのマンションの監視カメラって、実はハリボテなのよ。だから細かい所がちょっとよく分からないんだけれど、どうも亡くなられる数時間前に、マンション内をあちこちウロウロしてたらしくてね。
もし……その……『変なもの』が、ドアのポストの中だとかに見かけたら、すぐに報告して欲しいのよね」
わざわざこういう話をするという事は、それはつまり誰かの家のポストに「変なもの」が入っていたって事ですよね。
話を聞いてすぐにそうピンと来たんですが、その場で管理人さんにどうこう言う気は流石になくて、そのまま別れて出社しました。ただまあ、この日は仕事がほとんど手につかなくて、定時後すぐに帰って真っ先に自室のポストの中を確認しました。
幸いにもポストの中は空っぽで、思わず胸をなでおろしました。
考えてみれば件の自殺者が出た部屋は3階で、私の住んでいた5階とは微妙に階が離れているんで、多分ここまでは上って来なかったのかなと。そんな風に考えてたせいか少し気分を変えたくなって、コンビニに買い出しにでも行こうかと下に降りたら、また1階で友達とばったり出くわしました。
「いや実は今朝管理人さんから話を聞いてねぇ。今日一日中自分の部屋のポストに『変なもの』が入ってやしないかって、ドキドキしてたよ」
「ああ……あれはなあ……
その人、3階で亡くなったんだけど、当然下の2階に住んでる人っているわけじゃない?もちろん俺じゃないよ?俺じゃない別の人なんだけど、その下の部屋の住人のポストに手紙が入ってて、
『ご迷惑をおかけします。どうしても、そちらも見つめる感じになります』
という様な内容が書かれてたらしいんだよ。つまり、首を吊ったら真下を見る格好になるわけだな」
「うわあ気持ち悪い。そんな事わざわざ言わなくていいのに……」
「まあなあ、言われたら余計に気になるよなぁ。多分あの人引っ越すんじゃないかな、細身の感じの人なんだけど、かなりショック受けてたみたいだし。それで、そんな事があったから、一応マンション内の全住人に通知しておいたほうが、ってなったみたい」
「うわあ、嫌だねえ…」
友達から詳しい話を聞かされてますます嫌な気持ちにはなったんですが、先ほど言った通り私が住んでいた階と自殺が起きた階は結構離れていたので。これが上下の階の住人だったというならともかく、その時は特に引っ越す気も起きませんでした。
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それからまたしばらくして、その週の金曜日の事です。
仕事を終えて家に帰ついた所で何となく小腹がすいてきて、コンビニにでも行くかといつものようにエレベータに乗りました。例の事件以降、エレベータに乗っていると、気にしないようにしていてもどうしても気になってしまって、自然と目線が3階の廊下の方を見てしまってたんですね。
その日も、3階を通過する時に無意識に視線が廊下の奥に向きました。
目線の先、3階のどこかの部屋のドアが、大きく開いていました。
この日は家に帰るのが遅く、確か10時か11時かそこらの結構夜遅い時間帯だったんですが、そんな時間に部屋のドアを開けっぱなしにする意味が分からないですよね?しかも、開いたドアからは一切の光が漏れていなくて、室内が真っ暗な状態でドアを開けているという、より不可解な状況で、1階にエレベータがついた後も無性にその部屋の事が気になってきました。
ただ、すぐにでも確かめに行きたい気持ちとは別に、やはり怖いなっていうのもあって、2階に住む友達に事情を説明したショートメッセージを送ったら、すぐにやって来てくれました。
「ドア開いてたの?マジで?」
2人して3階に登って確認すると、開いていたのはやはり例の部屋のドアでした。
「あれ、おかしいな?鍵はちゃんと叔母ちゃん…いや管理人がちゃんと鍵を掛けて管理してるはずなんだけどなあ…」
そう首を捻る友達と一緒に、部屋の中を覗いてみました。
部屋の構造は私の住んでたそれとはちょっと違っていて、覗き込んだ部屋にはロフトが付いていました。それを見ていると、成程、このロフトのこの辺りに紐をかけたのかな…とかそういう具体的な想像が浮かんできてしまって。その所為かは分からないんですが、何故か急に気持ちが悪くなってきました。
いえ、そういう怖い!って感じではなかったんですよね。怖くはないし、よくわからないんだけど、妙に背中がゾワゾワくるような感じと言いますか…
その感覚がどうしても耐えられなくなって、思わず部屋から転がり出ました。一緒にいた友達も、「どうした?顔が真っ青だけど大丈夫か?」と聞いてきてくれてたんですが、どうにも説明のしようがなくて。
「とりあえず、明日叔母さんにこの部屋の事は伝えておくから。このままにしていても、多分誰も中に入らないだろうし」
「ああ、そうだな。分かった」
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その場で友達と分かれた後、気分を変えようとコンビニでお酒を買ってきて、部屋で一気にあおりました。
自分では割とお酒は飲める方だと思っていて、まだこのくらいなら大丈夫という感覚はあったのですが。精神的なものでしょうかね、すぐにコトンと寝入ってしまいました。
夢の中で、ちょうど今寝ているはずの自分の部屋に居ました。寝入る前と違って部屋の中は真っ暗で、私が誰かと話をしているんです。相手は俯いていて誰だか分からなかったんですが、
「まあまあ、とりあえず各方面に義理を果たすというか、謝っておいた方がいいんじゃないの?」
若干投げやりな感じで、相手にそう言っていました。何か悩み事を相談されたのだけど、良く分らないから適当に返事しておこう、そういう感じでしたね。
「実行に移すのなら、人に迷惑がかかるような事なら、各方面に謝っておけば義理は立つんじゃないの?」
相手の顔は真っ暗で誰だか分からないし、その隣にもまた別の誰かが居て、慰めるように背中をさすってるんです。段々暗がりに目が慣れてきて、相手の顔もちょっと顔を上げてこちらの方を向いたんですが、それでも誰だかわからなくて。
ただ、横に居た奴はその時点で分かったんですよ。
2階に住んでる友達です。
そのくらいの頃にようやく今自分は夢の中にいるという意識が出てきて、
何で自分は真っ暗な中でこんな話をしているんだ?
自分は何を言っているんだ?
こいつは誰だ?
それらの疑問が頭の中で何か一つの答えに結びつきそうになった瞬間に目が覚めました。ちょうどショートメッセージの着信音が鳴っていて、多分それで目が覚めたんだと思います。
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起きたら体中汗びっしょりでした。いえ、この時も特に怖いって感じではなかったんです。ただ、怖くはないのに、脇とか背中とか顔とかに、冷や汗のようなものがびっしょりで。
タオルで体を拭きながら、こんな時間にいったい誰だろうとメッセージを確認したら、2階の友達でした。
頭の中で色々な事が繋がって、必死になって一人で否定していました。
そんな嘘だ!違う違う!だいたい金曜日は飲み会でマンションには居なかったわけだし、その前は…
その前は分からないな…
それまで、家の中で一人で飲む事はあったんですが、そうすると結構飲み過ぎてしまうという事も一度や二度ならずあったんです。そういう時に何かあったとして、覚えているか全く自信がなかったんですが…
でも見も知らない相手なんですよ?
絶対に関係のない相手だ、そう必死に否定していた自分の頭の中に、急に男性の名前がフルネームで思い浮かびました。
全く知らない名前です。
頑張って頭から振り払おうと思っても、一度頭に浮かんだら中々離れてくれなくて。流石に怖くなってきて、とにかくシャワーでも浴びて気分を切り替えよう、もしかしたらまだ夢半分で頭も働いていないのかもしれない。
そう考えてタオルを取りに引き出しを開けたんですが、やはり動揺していたらしくて、間違えて重要書類を纏めて仕舞ってあった別の引き出しを開けていました。しかも変に勢いあまって、引き出しの中が全部床にぶち撒けてしまう始末で、ああもう何やってんだと。
慌てて拾い直していると、引き出しの一番底にくしゃくしゃの紙が入っていて、重要な書類だけ入れてあったはずなのに何だろうと広げてみました。
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……例の「変なもの」の件、管理人さんに言われてポストを確認したのが月曜日の夜なんですよ。つまりその前の、例えば土曜日や金曜日は確認してないはず、なんです。
ただ悪いことに、両日とも思いっきり酒を飲んで記憶をなくすような形で寝入っていたんで……本当にポストに何も入ってなかったのか、無意識に中を確認していなかったか、良く分らないんです。
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くしゃくしゃのメモ紙を広げると、そこには、つい先ほど頭に浮かんだ名前が書かれていました。筆跡は全く見覚えのないもので、名前の下には、
そう書かれていました。
これはもうダメだと、すぐにシンクでこのメモ紙を燃やしてから捨てて、とにかく2階に行こうと部屋を出ました。さっきメッセージを送ってきた友達なら、何か知っているはずだろうと思って。
本当にたまたまなんですけど。
普段はお互いの部屋に行き来する仲だったんですが、例の事件の日からその日までの1週間、本当にたまたま、友達の部屋まで行ってなかったんです。やり取りもメッセージでやってましたしね。
そう言えば、なんであいつの部屋に行かなかったんだろう?
そんな事が急に気になったんですが、あまり深く考える前に部屋についたんで、ノックしようとした所で玄関のドア全体が目に入って。
玄関ポストの所に、何重にもガムテープが貼ってありました。それも、かなり最近貼ったかのように真新しいものでした。
それ見たらまた怖くなってきて。
だって、どう考えても思い当たる事があるって事じゃないですか、それ。
ノックすることも出来ず、そのままきびすを返して部屋に戻りました。
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その日から、急にあいつとは連絡が取れなくなって、電話しても出ない、メッセージ送ったら「忙しいからごめん」とぼんやりとした答えしか返ってこない。もう何もかもが怖くなったんで、すぐにマンションから引っ越しました。
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それで、どうしても気になってる事が、一つだけあるんです。
この一件、私が背中を押してしまったんでしょうかね、それとも違うんですかね?
それとも…これは妄想に近いんですけど…
あいつが管理人の親戚だからというのをいいことに、どこかで合鍵を入手してきて…
例えば、ですよ?本当に考えたくないんですけど…
あいつが貰ったメモを、私が深酒して寝入っている時とか、あるいは帰りが遅くなった時とかに、部屋に入り込んで仕込めたって事も考えられるんです。
もう色々信じられなくなってしまって、自分が原因だったら怖いし、仮にあいつがそんな事をやっていたとしたらそれも怖いし。色々怖くなってしまったんで、あいつとはもう音信不通になったんですけど。
どうしても気にはなるんですが、本当はどうだったかを確認するつもりは全くないです。
これもある意味、怪談、ですよね?
出典
禍話インフィニティ 第十二夜 猟奇人vs怪談手帖未満vs忌魅恐怖NEO未満 38:46~