【禍話リライト】おかえりください
こっくりさんの怖い話を集めているというKくんが聞き集めてきた、「こっくりさんに囚われてる人」の話。
最初にそういう前振りを聞いた時は、てっきり学生の時から今に至るまで「降霊術としてのこっくりさん」を遊んでいるという事かと思って聞くと、そうではないという。
「違うんですよ、『お化けの方のこっくりさん』に囚われてるんです」
こっくりさんの名前はもう聞かなくなって久しいが、似たような儀式/遊びは名前を変えて細々とオカルト本や占い本に受け継がれていると聞く。
ならば、そういう経緯で知った子の身に何か起きたのだろうとKくんに言うと、そういう事でもないのだという。
「最初のこっくりさんブームの時の話だそうです」
最初のこっくりさんブームと言えば、1970年ごろと言われている。
当時こっくりさんをやっていた人と言ったら、今は相当なお年を召されていると考えていい。
ならば、当時ヒステリーか何かを引き起こしてしまい、精神科にかかって今も入院や通院を余儀なくされているのかと言うと、これも違うとKくんは三度否定した。
「そう言う事でもないんです。とにかく話を聞いてもらえますか?」
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Aさんという人の親戚の伯母さんに、こっくりさんの事を引き摺っている人が居るのだそうだ。
Aさんの年齢を加味してその伯母さんと言うと、恐らく第一次ブームの頃の体験だろう。
その世代の人が未だにこっくりさんを引き摺っているという事は…という点から類推して、Kくんも最初は先に上げたような、精神科への通院と言った事を思い浮かべたそうだ。
「そうじゃないんです。本人はピンピンしているんですよ」
「……?えーっとそれはどういう……?」
「時々言うんです」
夏などにテレビで怖い話の番組を見た時などに、「昔こっくりさんですごい怖い事を言われた」という話をするのだそうだ。
そこまでの事なら、単に昔の体験談を何かの機に思い出して語っているという方がしっくりくる。
少なくとも、これを指して「こっくりさんを今も引き摺っている」とは言わないだろう。
Kくんはやんわりとそう指摘した。
「違うんですよKさん。その伯母さんね、そういう時期にはいつもうなされてるんです。『おかえりくださいおかえりください…』って」
伯母さんがこっくりさんの体験談を語った日に必ずうなされるという訳ではなく、恐らくは当時伯母さんがこっくりさんをやったであろう時期に、1週間だけそういう事が起きるのだそうだ。
夜寝ていると急に寝息がぷつっと途絶え、『おかえりくださいおかえりください…』とうなされ始める。
一緒の部屋で寝ていた旦那さんもすっかり怯え切っており、「寝言が五月蠅いから…」とか適当な理由を付けて、違う部屋で寝ているという。
Aさんは一度だけ、伯母さんの家に泊まって本当かどうか確かめて見たことがあるそうだ。
夜に起きだして飲み物を取りに行く時に、伯母の部屋から何か聞こえてくる。
「おかえりくださいおかえりくださいおかえりください…」
あの話って本当だったんだ…Aさんが驚いていると
「おかえりくださいおかえりくださいおかえりください………まだかな?」
『おかえりください』だけでなく誰かに問いかける声まで聞こえたため、慌てて自分の寝床に戻ったそうだ。
Aさんによると、伯母さんが当時こっくりさんをやったのは、たったの一回だけだったという。
その一回で「何か怖い事」を言われ、必死になって帰ってもらおうとしてもなかなか帰ってはくれず、無理やり返してその時は終わった。
それから一週間だけ、もう一度こっくりさんを降ろそうと頑張ってはみたものの、十円玉はうんともすんとも動かず、そのまま辞めてしまった。
もしかしたら、そのこっくりさんが来なかった一週間の時からずっと、「おかえりください…」とうなされているのかもしれない。
出典
禍話フロムビヨンド 第一夜 14:57~
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