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ケープタウン・ナミブ砂漠旅⑨ライオンズヘッドで若さを失ったことを知る


【今回の旅程/2024年9月】準備編はこちらを見てね!
Day1・2 KIX→(SIN→JNB)→CPTウォーターフロント観光→WDH
Day3 ナミブ砂漠ツアー1日目/前半後半
Day4 ナミブ砂漠ツアー2日目/前半後半
Day5 ナミブ砂漠ツアー3日目
Day6 WDH→CPT(ライオンズヘッド)★
Day7 喜望峰ツアー
Day8 ヘルマナスくじらツアー
Day9・10 CPT→(JNB→SIN→)KIX



ケープタウンへ

ナミビアには悪いが砂漠が終わればもう用はないので、ウィントフックに一泊しただけで翌朝さっさとケープタウンへ向かう。
迎えが来るのは6時、チェックアウトのためレセプションに行くと、なんと砂漠のツアーメイトAさんが待っていてくれたのである。
朝起きるのはいつも早いから、などと言って旅立ちを見送ってくれる、これぞ大人のお作法。いつかどこかで再会するその日までお元気で、とお別れした。
空港へ向かう車内から見た日の出はそれは見事であった。大地を赤く染めながら大きな太陽が昇っていく様は、見ているだけで生きる力を与えてくれそうだ。

アフリカの大地から昇る太陽

飛行機は来たときのそれよりもさらに小型で、1-2列の配置である。ずっと窓の下を眺めていると、ナミブ砂漠の上空辺りを通過したようで、一面の赤い大地がうねっているのがよく見えた。まるでブラジルのレンソイスの赤いバージョンのようで(レンソイス行ったことないど)、とても美しく目が離せなかったのでこの路線では窓側がオススメである。

こうしてケープタウン空港には無事に着いたのだが、入国の列がUSJのハリー・ポッターぐらい延びており、なんとパスポートにハンコを押されるまで一時間半もかかったのである。
こんな愛想もクソもないところで90分待ちの列に並ぶなど苦行でしかないが、かといってほな今日はやめとくわという訳にもいかず、ひたすら耐えた。翌日の同便でケープタウン入りしたAさんも同様に長時間かかったそうなので、正午頃は到着便が重なる時間帯なのであろう、要注意である。

ハズレウーバー

ようやく入国し、今回は迷うことなくサッとウーバー乗り場に移動してホテルへ向かうが、本日の運転手は見事なハズレであった。
どこから来たのかと聞くから世間話でも始まるのかと思いきや、「日本では米ドルとユーロ、どっちを使うのだ」というとんちんかんな問いから始まり、あの手この手で金をせびろうとするのだ。やれ、世界の紙幣を集めているやら、ワイフが喜ぶやら、お前も紙幣を提供しろとあけすけにのたまったのちには日本円を持ってないならユーロでもドルでもいいぞとか言い出す始末で、オイ設定忘れとるぞ、と突っ込みたくなった。
途中からめんどくさくなって英語ワカリマセンで無視していたが、そいつもなかなか厚かましく、おりる際にはチップを払う方法を教えてやると私のスマホを取ろうとしたので、あとでやっとくからと死守すると、Do it! と捨てぜりふを残し去っていった。お前はナイキか。

ところで予約したホテルはダウンタウン(南アではCBD, Central Business District と呼ぶらしい)にある。治安上どうしたもんかと悩んだが、やはり効率を重視する社会人旅人にとって立地は重要なので、苦渋の決断であった。
こうしてウーバーでCBDにあるホテルに向かっていたルートにおいて、明らかに激ヤバな地域が出現したのである。
そこはどうやら地球の歩き方でも「とくに治安が悪いエリア」とされている駅周辺だったのだが、確かにその一画は完全に他とは雰囲気が異なり、アフリカ初心者は怖すぎて視線を窓の外に移すこともできなかった。
不用意に目があったら襲われるんではないか、車から引きずり出されるんではないか、一瞬でそこまでの恐怖を与える空気だったのだ。窓の外を見ていないのに、殺伐とか殺気とか、とにかく殺の字が溢れる魔界がすぐ隣に広がっていることを肌で感じる。とにかく早く通りすぎてくれと祈るばかりであった。

ライオンズヘッドに登る

さて、無事にホテルに着いたのものの、予定ではお昼ぐらいの到着のはずだったところ、もう2時を過ぎている。今日はライオンズヘッドハイキングを予定していたのだが、今から出かけて明るいうちに帰ってこれるのだろうか。
春の南アの日の入り時間はそんなに早くないはずだし、ライオンズヘッドの登りおりは3時間程度だと砂漠ツアーの女子大生たちも言っていた。ギリ間に合うか…しかし、明るい時間帯でさえ気が抜けないのに、薄暗い山で一人になったら…。さっきの魔界の恐怖が脳裏に張り付いて離れず、とにかく気が重い。こんなにわくわくしないお出かけがかつてあっただろうか。薄暗くなってきたら途中で引き返すぐらいでなければ。

リュックに必要な荷物だけを詰め込んで、ウーバーでライオンズヘッドに向かった。登山道の入り口で下ろしてもらったのだが、町からはもちろんずいぶん離れている。これ、帰りに都合よくウーバー捕まるのだろうか…。心配なことがまた増える。
準備運動のアキレス腱伸ばしもそこそこに、いそいそと登り始める。下ってくる人にはちらほら会うが、抜かしたり抜かされたりするはずの「登っている人」には一切会わない。みなもう降りる時間なのだ。そしておそろしく人気がない。だ、大丈夫なのかな。強盗が潜んでたりしないのだろうか…。

気が気でない登山道

それでもだんだん高度が上がっていくにつれ視界が開け、すばらしい絶景が広がり目を奪われる。西南にテーブルマウンテン、その裏手の高級住宅地と続く海が北側の景色で、東側にはケープタウンの街と遠くに海が見える。こんな絶景はなかなかない。登山道の脇には春の花が咲き乱れており、そこでも目を楽しませてくれるのだ。

南側・ケープタウン中心地
テーブルマウンテンは雲の中
テーブルマウンテンの裏側には高級住宅地
北側のシグナルヒル側

ライオンズヘッドは、途中までは頂上を中心として時計回りにぐるぐる回って登っていくタイプの登山道である。
本日、登山口からすでに風は強かったのだが、だんだん冗談じゃないほどさらに強くなってきた。ぐるぐる回りながら登るので、向かい風で前に進めない場面と岩が風避けになる凪のパート、フォローにのってこけそうになる時がかわりばんこにやってくるのだ。とてもつらい。
そのうち登山道がいつの間にか崖になっていた。気づけば小岩をひぃひぃよじ登っているのだ。なんだこれは…ハイキングってこんなんか…?
もはやルートはひとりずつしか通れない仕様になり、たまーにおりてくる若者たちと道を譲りあうのだが、その度にもうちょっとだよ!がんばれ!などと励まされつつなんとかここまで進んできたのだが、今私の目の前に現れたのは、岩にぶっ刺さった金属製の梯子である。
!?
 これを…昇れというの?

平地で風がなければ何ってことない梯子だが…

しかもその脇には'AT OWN RISK うんたらかんたら’と書かれたサインが掲げられている。内容はつまり「この梯子とか利用して登るんはぜーんぶアンタが勝手にすることで何が起きても知りまへんで。緊急電話番号はこちら」という警告文である(なおこの看板はこのあと何度も出てくる)。

泣きそうになりながらひんやりとした金属製梯子に手をかけ、根性をひねり出す。
こえーよおおーーおおおおりゃああー!!
何せ風が、本当にすごいのである。又三郎のどっどどどどうどを越えている。冗談ではなく、本当に小さい子どもならぶっ飛ばされるに違いない。関空の橋にタンカーがぶつかった台風22号並みの恐怖だ。関西人以外は伝わりづらいが、これは風に対する最大級の恐怖なのである。

そんな爆風のなか進むが、この岩場にはさらに第二の梯子のみならず、チェーンやステープルまでが登場するのである。これは何の罰なんでしょう?風雲たけし城?
足場はひとつひとつがでかい岩で、梯子など以外の場面でも、両手をついて登る必要がある。そして周囲は相変わらずの人気のなさである。登りきったとして、頂上または帰り道に強盗が待ち構えているのでは…。(さっき覗いた魔界の恐怖がだいぶ効いている)

そして、第三の梯子を昇りきったところで私の心は折れた。
頂上までは、あとたった10メートルほどだ。それでもこの風のなかをこれ以上進むことは、私にはできない。どうしようもなく、風にあおられ足を踏み外し頭をかちわる想像が頭から離れないのである。そして誰にも見つけられず明日の朝ハイキング客によって日本人旅行者Aさんの遺体が発見されました… ~ケープタウンは市内全域に外務省による危険情報が出されていますがAさんは一人で現地を訪れており… ~(ネット)自己責任!自己責任!BBA乙www……
これは勇気ある撤退である。チキンと呼んでくださって結構。しかし、やらぬ後悔よりやった結果が重篤すぎる場合もあるはずだ。
こうして私はわずかあと10メートルの地点で登頂をあきらめ、来た道を戻った。AT OWN RISKの看板が果たした役割は大きいといえる。

あと10mが遠かった…

下る途中、何組かの登る人たちと出会い、そのたびやっぱり引き返してもう一度登ろうかな、と何度も何度も迷うほど後ろ髪を引かれたものである。
しかし、生きている限りもう一度ここに来るチャンスはあるはずだ。体力のあるうちに、今度はもっと風の弱い日に挑戦するのだ。

姿を現したテーブルマウンテン

こうして、失意のうちに登山口まで戻り、ウーバーを呼んだところ、一瞬で迎えの車がマッチした。どうやら駐車場で待機していたようだ。ありがたい。そしてこの運転手はいい人であった。頂上まで登れなかったんだよトホホと落ち込む私をまた来ればいいさと慰めてくれたうえに、なぜかやたら日本はいい国だ…立派な歴史や文化があり、人々も素晴らしい…などとほめてくれたので、底を突いていた私のパワーゲージはかなり回復したのであった。

CBDミニ散策

無事にホテルまで送ってもらったあと、夕食の調達のために周辺を少し歩いてみた。かばんはもちろん、スマホもホテルにおいてきて、キャッシュカードだけチャック付きのポケットに入れた両手フリースタイルである。
「ロングストリート」が一番のメイン通りらしいが、社会人や学生と思われる人々のあいまに、??という方々がちらほらとおられる気がする。先ほど覗き見た魔界の殺気ほどではないが、それでも雰囲気はまったく、まーったく良くない。地球の歩き方には「ケープタウンの中心部を歩いてみよう」という見出しがあったが、そんなポップな提案して大丈夫かいなと心配になるほどのまがまがしさである。怖いよう。
ところどころオシャレな民芸品を扱うインテリアショップがあり、ウインドウショッピングも楽しいが、だんだん日が傾いてきたので今日のところはお買い物はなしだ。

夕食は、南アのチェーン店Nando´sにてお持ち帰りをすることにした。ペリペリチキンという料理が有名とのことだが、メニューにごはん付きのチキンがあったのでそれを注文したところファストフード店のはずなのに恐ろしく時間がかかり、暮れゆく窓の外を見つめながら内心めちゃくちゃ焦りまくるハメになった(このあたりのハラハラ感は『アイ・アム・レジェンド』でウィル・スミスが罠にかかってしまったあの場面レベルと思っていただきたい)。

おいしかったがアボカドのソースが強烈にすっぱくてその印象しか残っていない




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