
ケープタウン・ナミブ砂漠旅⑧ナミブ砂漠ツアー3日目/ウィントフック帰還
【今回の旅程/2024年9月】準備編はこちらを見てね!
Day1・2 KIX→(SIN→JNB)→CPT(ウォーターフロント観光)→WDH
Day3 ナミブ砂漠ツアー1日目/前半・後半
Day4 ナミブ砂漠ツアー2日目/前半・後半
Day5 ナミブ砂漠ツアー3日目★
Day6 WDH→CPT(ライオンズヘッド)
Day7 喜望峰ツアー
Day8 ヘルマナスくじらツアー
Day9・10 CPT→(JNB→SIN→)KIX
さよならナミブ砂漠
さて、ツアー最終日、ウィントフックに戻る日である。旅程表によると途中の町でアップルパイが食べられるとあった。今日の楽しみはそれだけだ。
テントをたたむ際にはジョニー氏が「サソリがいないかチェックだ」などと物騒なことを言うのでてっきりアフリカンジョークかと思ったのだが、聞くと寒い時期には暖を求めてテントの下でサソリが寝てることがあるらしい。
キャンプサイトをあとにし、来た道をまた戻る。アフリカンマッサージ再びである。
ジョニー氏は来たときよりもニ割増しの時速120キロでぶっ飛ばしまくりである。もはや合法ではないタイプの嗜好品でも摂取してんのかと疑いたくなるほどのキレッぷりだ。なんかもう、行き着くところは目に見えているな…。
そんな折り、おもむろにジョニー氏がサイドミラーを覗き込みながらスピードを落とし、車を脇に停めて言った。
「Guys…パンクだ」
これ以上ない「知ってた」展開である。私たちは大人なので口には出さないが、全員、だから言わんこっちゃない顔で車から降りた。
ジョニー氏はスペアタイアを取り出し、もくもくとタイヤ交換を始める。スペアタイヤの溝がすでにツルツルだったことにまた別の恐怖を感じつつ、我々は荒野でたたずむばかり。時おりバスや四駆車がものすごい砂煙をあげて通り過ぎていく。
静かである。

タイヤ交換後、ジョニー氏は何もなかったように運転を再開し、パンク地点から1キロも行かないところにあるドライブイン兼ホテルのようなところに車は入っていった。どうやらここがアップルパイのポイントであるらしい。リンゴの名産地というわけでもなさそうなこの地でなぜアップルパイなのかは不明だ。
てっきりここで食べていくと思っていたのだが、トイレをすませてバンに戻ると座席の上に各自のアップルパイが置かれていたのである。車内は飲食禁止だと確かツアーの最初に言ってたのに、おそらくパンク修理に時間がかかったせいでは…。
アップルパイは、日本基準で考えると3人前くらいありそうな大きさである。ジョニー氏が何度もこれは世界一のアップルパイだ、日本にはこんなうまいアップルパイはないだろう、さあ食え、うまいだろう?とどえらい圧をかけてきたが、なるほど確かにおいしかった。しかしなんといっても空きっ腹にあまーいアップルパイ in the carである。酔うしかない。
後半はもうとにかく吐き気を抑えるのに必死で、だんだんアップルパイが憎たらしくなったものである(残した)。揺れない大地の上で落ち着いて食したかったなあと、残念であった。
舗装路に出ても明らかにスピードダウンしたジョニー号は14時半ごろ首都ウィントフックに帰ってきた。あの砂漠の何もない場所からたった半日で「こっちの世界」に戻ってきたのにはとても頭がついていかないが、おそらくすぐ慣れるであろう。
メンバーとの別れ、そして解散
一番最初にバンを降りた大学生ズには昨日恵んでもらったお水2リットルボトルのお返しとして、サラの5リットルボトルをお渡しした。決して私が明日早朝にはケープタウンに飛ぶため処分に困ったデカ重ボトルを押し付けたわけではない。決して。
ツアーのおわりにやってくるのがガイドへのチップ問題である。正直ジョニー氏のガイドっぷりに取り立ててほめるべき点はあまりない。むしろクレイジーな運転で我々を恐怖に陥れた罪は重い。
ツアーメイトの間でもチップに対する意見は様々で、金額の多寡だけでなく渡さないという判断の人もいた。しかし、チップが文化として根付いてる国にいるのであれば、渡さないという選択肢はないと私自身は考えるが、これは非常に難しい問題である。我々の国にはそういう文化がないからいつでも見様見真似ですわりの悪い思いをするものだ。
むかし、家族旅行かなにかの際、旅館到着後に母が仲居さんに心付けを渡しているのを見たことがあるが、あれは「いろいろ頼むで」という納得感あるシステム(鼻薬)である。仲居さんの顔がパッと明るくなったのを子ども心に覚えているが、一方のチップはしてもらったことの対価として事後にお渡し、というのはどうも腑に落ちない。ならばなぜ最初から料金に含めておかないのだ。
このようにチップひとつに昔の思い出を引っ張り出すくらい悩んでいることなどつゆ知らず、ジョニー氏は機械的に受け取りアバヨと去っていった。
Aさんとともにカメレオンゲストハウスに戻ってきた。Aさんはここで2泊、私は1泊だけでケープタウンへ向かう。
本日のお部屋はウィントフック初日とは異なり、トイレバス共同の少しグレードの下がる部屋であるが、むしろそう予約した自分よ、でかした、と思った。あの異臭部屋に泊まるのは二度とご免である。一方Aさんはバストイレ付の部屋を抑えているとおっしゃる。ひょっとしたら私が悶え苦しんだあの部屋かも知れない。しかし「部屋は臭い可能性が…」なんて無粋なことはもちろん言えないので、心の中でAさんの安寧を祈っておいた。
さて、荷物をおろしたならば、まずはシャワーである。夢にまで見たホットシャワーだ。共同シャワーにも例の「ナミビアでは水は貴重です・・」の張り紙はあったが、へいへいさいですか、と受け流してアツアツのシャワーを常識の範囲でたっぷり浴びさせていただいた。
続けて、砂をかぶった衣服はもちろん、サンダルに至るまですべて洗濯(手洗い)して、身も心もスッキリである。
新たな日本人バックパッカー登場
宿の中庭に出てみると、これまた湯上がりのAさんと見知らぬ日本人男性がお話しされているところであった。その青年はきのうケープタウンからナミビアにやってきたそうで、これまでの出来事をいろいろと語って聞かせてくれたのだが、ここまで来て砂漠には行かないと言う。
彼は「ツアーとかじゃなくて現地の人のナマの生活を見たいんスよね、自分」などと言うタイプのバックパッカーであった。もちろん宿泊はドミのようである。
最近は限られた時間をいかに効率的に回すかという社会人旅人にしか会う機会がなく、こういう「ヨハネスブルグはマジ空気違うッスね、夜着いたんスけど宿は予約してなかったんでけっこうピンチだったんスけどタクシー運転手が心配して一緒に宿探してくれたりしてマジいい人で」的な旅をする人には久しぶりに出会ったので、とても新鮮で興味深かったが、命は大切にしてほしい。
青年はその後南アフリカ某所で催涙スプレーをかけられ襲われたそうなので、やはりそのスタイルの旅は危険なことを見事に証明していた。しかし強盗からはうまく逃げ物品の被害はなかったとのことで、催涙スプレーはヤバかったッスけど南アの強盗は撃退したッスという武勇伝に落ち着いていたので、これはこれでひとつのストーリーの完成形だと思った。
さて、話の流れでAさんと武勇伝の青年とで宿の近所にあるショッピングモールに行くことになった。さすが現地の人の生活を見る旅をしている青年はたった一日で宿の周辺の地理を完璧に押さえており非常に頼りになった。
途中、マーケットでヒンバ族というナミビアの有名部族が出店しているところを通りかかったのだが、もちろん彼女らを撮影すると料金が発生する(なのでしつこく写真撮れ、と絡まれる)。私は撮影料を払ってまで写真ほしいタイプではないのでそのまま素通りしたが、通りすぎてから隙を見て青年がスマホでヒンバを隠し撮りしたのには少々辟易してしまった。
ショッピングモールのお目当ては、砂漠のツアーメイトCさんから教えてもらっていたbiltong屋である。"biltong"とはジャーキーの親戚みたいなもんで、ビーフやらオリックスやらの干し肉が計り売りされている。これはビールのあてにぴったりなのである。
なお、南アフリカでもビルトンは同様に売っているが、個人的な意見としては、南アの方が上品で、ナミビアのはワイルドさが残っている印象である。

宿への帰り道、夕方とはいえまだ明るい路上で、現地の若者が我々を見かけるなり道路を渡ってきてAさんに金くれと絡みだした。俄然無視して早歩きをするが、そいつはしつこくずっとAさんに付きまとっている。怖くてそちらの方に目はやれないのでどんな風体か不明だが、ホームレスという風ではなかったように思う。ただのチンピラかもしれない。そのうちAさんが小銭を渡したようで、その瞬間ササッと去っていたのだが、これはなかなかの恐怖体験であった。
これまで旅先で金くれとつきまとってくるのはみな子どもかヨレヨレの年寄りだったので、無視しても肉体的な危害を加えられることまでは想像が及ばなかったが、あんなでかい若者がつきまとってくるのはなんと恐ろしいことか。あんなんに殴られでもしたら即入院である。やはりサッと取り出せる場所に多少の現金は持っておくべきかもしれない。その前に一人では絶対に街歩きしてはいけないな、と感じた出来事であった。
ゲームミートを食す
さて、夕食にはこれまたCさんおすすめのビアレストラン”Joe's Beerhouse”にAさんをお誘いして行くことになった。青年はもう本日の夕食を買ってきてしまったとのことで不参加である。

ビアレストランはとにかく大盛況であった。客は見たところ白人100%である。予約をしていなかったため一度は満席だよ!と言われたのだが、なんとかオランダ人グループの相席にねじんこんでもらうことができた。
このレストランで有名なのは、ビールはもちろん、ゲームミートと呼ばれる野生動物のお肉=ジビエ料理とのことである。狩りをgameと呼ぶことから来てるらしい。少々悪趣味な名前だなあと思いつつ、私はクーズー(鯨偶蹄目ウシ科ブッシュバック属に分類される鯨偶蹄類 by Wiki)、スプリングボック、シマウマの3種グリル盛り合わせをチョイスした。Aさんはよりワイルドな5種盛り合わせである。
料理が運ばれてくるまで、Aさんがビクトリアフォールズの空撮動画(ヘリのツアーがある)を見せてくれていたのだが、それに隣のオランダ人グループが食いついてきて、ささやかな日蘭交流が始まったのである。
ほどよくビールも入っているのでけっこう盛り上がったのだが、オランダといえば日本で何が知られてるかという話題において、マックスほにゃららはもちろん知ってるわよね?と聞かれたそのマックス某を私もAさんも知らず、オランダ人らを絶句させるほど驚かせてしまった。マックスだよ、あの!レーシングドライバーの!世界チャンピオンの!と運転ジェスチャー付きで熱弁されたが、ピンとこない。そのうちスマホで顔写真まで出されたが、知らんもんは知らん。オランダ人らは大変悲しげでせっかく盛り上がった日蘭友好ムードに水を差しかねない事態となってしまった。
これはおそらく日本人が例えばイギリス人に「オオタニさんの活躍はもちろんご存じよね?」と自信満々で問うようなものなのだろう。
亀裂をリカバリすべく、知っている限りのオランダ知識を総動員し、さらにミッフィーがいかに日本で愛されているかを情熱的に伝え、なんとか場は和やかに収まったのである。

さて、ゲームミートのお味であるが、スプリングボックが一番柔らかくて美味しく感じ、シマウマは固くて噛めば噛むほどあの筋肉質の肉体が想像され少しつらかった。クーズーはあまり印象に残ってないが、野生の香りは感じた。5種盛りのAさん曰く一番美味なのはオリックスだそうだ。
私は普段、食には大変保守的であり、これまであらゆるご当地食材(エジプトのハトとか南米のクイとか)は避けてきたのだが、今回は自分の殻を破ってみたので、実はそれに一番満足しているのである。中年になるとチャレンジすることって本当になくなるし、そのうちチャレンジの機会自体なくなるのだから。