ケープタウン・ナミブ砂漠旅⑤ナミブ砂漠ツアー1日目/サンセットはどこに
【今回の旅程/2024年9月】準備編はこちらを見てね!
Day1・2 KIX→(SIN→JNB)→CPT(ウォーターフロント観光)→WDH
Day3 ナミブ砂漠ツアー1日目/前半・後半★
Day4 ナミブ砂漠ツアー2日目
Day5 ナミブ砂漠ツアー3日目
Day6 WDH→CPT(ライオンズヘッド)
Day7 喜望峰ツアー
Day8 ヘルマナスくじらツアー
Day9・10 CPT→(JNB→SIN→)KIX
ナミブ砂漠に触れる
17時、サンセットを見るため車で出発する。ツアー初のアクティビティであり、つまりついにナミブ砂漠とご対面なのである。
キャンプサイトのゲートを出てからそれほど遠くまで来たような印象もないうちに砂丘が現れた。風紋がくっきりとついていて、車から遠く見るだけでも、とても粒子が細かそうなのが伝わる。なんと美しい。
ガイドのジョニー氏は砂丘の前に私たちを降ろし、日が沈んだらすぐに真っ暗になるから必ず早めに下まで降りなさい、数ヵ月前に韓国人が約束を守らず見つかったのは夜中の二時だった、などと怖いことを言い残し、夕飯の支度のためにキャンプサイトに戻っていった。
こうして約2時間、我々に砂漠時間が与えられたのである。
恐る恐る、みなで砂漠に取り掛かる。登り始めて約20メートルでこいつはだいぶヤベェぞ、ということに気づいた。きっついのである!砂が細かすぎで踏ん張れないのだ。先に行く人の足跡を少しでも外すと足がずぶりと沈み、次にその足を上げるのにはさらなるパワーが必要になる。うまく進めない。
さらにどうやら私は靴のチョイスを誤ったようだ。スニーカーはすぐ砂が入ってくるからダメだという情報を見て、ならばいっそサンダルでどうだ、KEENなら穴も空いてるし砂が入ってもすぐ出てくだろう!と安直に考えたのだが、サンダルの中はもちろん、すぐに靴下の中も砂でパンパンになって歩きにくいことこの上なかった。せめて靴下を履いていなければ歩きやすさという点ではマシなのだが、爪はボロボロ、かかとガッサガサになるので女子にはおすすめしない。
大学生たちは、それは軽やかにヒラリサラリとこの砂丘をすすんで行き、すぐに姿が見えなくなった。我々中年チームはというと、そんなフレッシュな若さを眩しく感じつつ、ゼェゼェ、ヒィヒィ言いながら休憩をはさみまくってなんとかかんとか進んでいく。こ、これはどこまで行くのが正解なんでしょう?
太陽の沈む方角には壁のような砂丘が立ちはだかっているのである。今のところずっと砂丘の東側を上っているので、ここからは太陽の沈む先が見えないのである。つまり、サンセットを見るためにはこの砂山の頂上まで上って西側をのぞむ必要があるのだ。
ある程度の高さまで来ると、かなり風が強く吹いており、じっとしていると徐々に足元が砂に埋まっていくのがわかる。砂って恐ろしいんだな、と安部公房の『砂の女』を読んだときに感じたことを、なんとなく思い出した。
大学生たちは少し離れた人気のないところでひたすらスマホで自分達の撮影をしまくっている。彼女らの写真への執念は目を見張るものがある。
それにしても素晴らしい景色だ。見渡す限り人工物はなにもなく、砂と、大地と、遠くに岩山が見えるばかり。ナミビアという国名は、地元部族の言葉で「何もない」からきていると何かに書いてあったが、そう言いたくなるのも頷ける景色だ。
けっこうな高さまで来たはずだが、まだ西側には砂丘が立ちはだかっている。せっかくここまで来たのだから、と同世代と思われる仮にCさんとなんとかサンセットをモノにしようと上を目指すが(他の中年ズはここで脱落)、いつまでたっても頂上にはたどり着かないのである。
お互い励まし合いながら進むが、「この丘を越えたらきっと頂上が…見えんな!」「あそこに見える山こそ頂上…まだ先あるんかい!」の繰り返しである。どんなに登っても登っても砂丘は永遠に続き、一向に陽が沈む側が見えないのだ。
結局、イイ線までいったのだがサンセットを見るには時間的に厳しいだろうと判断し(ジョニー氏の脅しが効いている)、途中で断念した。先を行っていたCさんから「まだまだ続きそうですね、もう戻りましょうか」と言われたときは正直ホッとして食い気味で「そうしましょう!」と答えてしまった。サンセットを眺めながら飲むためにコッソリ持ってきていたビールはただの重石となって肩にずっしり食い込んだが仕方ない。
下る際、他の中年ズと無事再会するも、大学生が見当たらない。とっくに先に下りているのだろう、ぐらいに考える私に対し、Bさんは心配だからちょっと見てくるよ、とわざわざ大回りをして下山されていた。人としてのレベルの違いを感じた瞬間である。
砂漠の夕暮れはボリュームのつまみをひねったように明るさがなくなり、ジョニー氏の言うとおりにあっという間に真っ暗になった。明るすぎる月をみて、明日が十五夜であることを思い出す。
キャンプ飯と旅人の語らいタイム
テントサイトに戻り、ジョニー氏が用意してくれていたキャンプ飯(ギリシャ風サラダとビーフやソーセージなどのBBQ)を食べながら、改めて自己紹介タイムとなった。もちろんディナータイムは日本語オンリーだったため、ジョニー氏は所在なげで少し気の毒であった。
ナミブ砂漠に個人で来るような人たちが集まると、もはやマダガスカル行ったことあるとか、アマゾンで船からピラニア釣って食ったとか、世界一周したことがあるなどは、ただのあるある話なのである。
もちろんみなさん旅好きなのであるが、120か国ぐらい行ったことあるとか、6社のファーストクラス乗ったことあるとか、最短ではなくいかに多様な乗り継ぎをして目的地に向かうことができるかを考えるのが楽しいとか、もはや好きを通り越してヘンタイの世界にイッてしまっているという印象だ。
中でもいちばん場をざわつかせたのは、つい先月嫁さんと子らを連れてパリオリンピック観戦に行ってきたという120か国男である。彼は年三回ぐらい海外に行くらしいが、会社員だとおっしゃっていた。東京のサラリーマンってそんな稼ぐんスか。ものすごい財テクの持ち主か、打出の小槌でも持ってんのか。一体何者なんだ。
これだけエッジの効いたメンバーのなかにあっては、ただの旅好きである自分はなんとまともなんだろうと思ったが、それは平凡でつまらんともいえる。私も他人に引かれるほどのエッセンスが欲しいもんである。
すっかりヘンタイ(※ほめ言葉です)の風にあてられ、今回10日間の休み取得でビビりまくっていた自分に喝を入れたくなった。お金が~とか、仕事が~とか、そんなもん結局なんとでもなるのだ。なるに違いない。なるのかな。
テントの夜①
日が暮れてからグッと気温は落ち、フリースなしでは過ごせないほどだ。シャワーを浴びたいが、お湯は期待できないであろう。こんな寒い中で水シャワーなんか浴びた日には風邪ひく予感しかない。
しかし、今日という日は道中ほこりまみれで髪の毛はキシキシいってるし、砂にまみれた足の指の間もキレイに洗いたい。汗拭きシートでは間に合わんほど体は清潔を欲している。
若干逡巡したものの、やはりサッパリしたい気持ちが勝ち、勇気を出してシャワーを浴びにいった。プールの水ほどではないが、十分水シャワーといって差し支えのない冷たさで、サッパリと引き換えにガクブルが止まらず少なからず後悔した。ここは一刻も早く寝袋にくるまりたいところだが、強烈な紫外線と乾燥した空気により瀕死のお肌のお手入れも忘れてはならない。なおシートマスクはおすすめである。
せっかく清潔になったが、テント内は容赦なく砂まみれである。貸し出されたマットももちろん砂まみれで、自分の寝袋を敷くには少々抵抗を覚えるが、暗くてよく見えないのをいいことにそのあたりは目をつぶり、寝袋の中だけは清潔ゾーンだと自分に言い聞かせる。
砂丘の上り下りで心地よく疲れた体を寝袋の中に横たえると、恐ろしいほどの静けさのなか、頭上の木が風に吹かれてポタポタと何かをテント上に落としているのが聞こえる。何が落ちているのかな、などと考えているうちに、すぐに眠気が襲ってきた。
テントの夜②
ぐっすり眠っていた真夜中すぎ、ハッと目が覚めた。
何かの気配がする―。
目は覚めたものの頭は寝ぼけていて、夢?あれ今ここどこ?なんでこんな真っ暗なんだ?などとボーッとしているうちに、テントの入口をまさに今、誰かがめくらんとしていることに気が付いたのである。入口は、網戸のようなシートがファスナーで、その上のカバーがマジックテープでそれぞれ閉まる二重構造になっているのだが、闇のなかで上のカバーのマジックテープがビリビリとはがれる音がするのだ。
ギャアアアア!!!!
状況が理解できたと同時に心臓が飛び跳ねて早鐘のようにビートを刻む。
だだだ、誰や!!
武器!武器になるもん!ない!うわああああ!!!
どうする!どうする!
心は盛大にヤバイと叫んでいるのに、体は秘孔を突かれたかのようにまったく動くことができないのである。
固まったままでいると、その誰かはすぐに去ったようで、再び静けさが戻ってきた。どうやら私の命かカネか貞操の危機はひとまず去ったようだ。
テント内は相変わらず真っ暗なのだが、外は月明かりがあるのだろう、少しめくれあがったままの入り口の部分だけ黒のトーンが明るいのが見え、先ほどの出来事が夢ではなかったことがわかる。私の心臓はまだバクバクしたままだ。
なんだおい、いったいなんだったんだ。
おそらく隣のテントの大学生がおトイレからの帰りにでも寝ぼけてテントを間違ったのだろう。なんちゅう人騒がせな!ビビらせやがって。
スッカリ目が覚めてしまった。そのうちトイレに行きたくなってきた。でもなんとなく怖い。さっきのが大学生の仕業じゃなかったら…?
そんな葛藤を経て30分後、尿意に負けた私は観念してトイレへ行った(30メートルぐらいしか離れていない)。一目散に駆けて用を足し再び駆けて戻ってきたので、月と星が一瞬きれいだったことと、寒かったことしか覚えていない。
寝袋に戻り、ようやくウトウトしてきたとき、今度は何かの動物がテントの周りをウロウロする足音が聞こえてきて再び心臓がギャン!となる。ナミビアに来てから私の心臓はもう70%くらい破壊された気がする。
さらにけものの遠吠えまで聞こえてきた。テントをうろつく何かの動物はしつこく匂いを嗅いでいるようだ。入口はきっちりファスナーを閉じたのを何度も確認したから大丈夫なはず。あっ、食べかけのポテトチップスの袋!リュックの上に置いたままだ、匂いにひかれテントに体当たりとかしてきたらどうしよう…。
などとドキドキしながら、私はただ息を潜めてそいつが去るのを待った。まるで生け贄の祭壇に横たわりながらキョンシーをやり過ごしている気分である。なんじゃそら。そんなことを考えてたら、いつのまにやら再び眠りについていた。