「あつまれ どうぶつの森」の博物館はどうすごい? 一級建築士に聞いてみた
はろー、まいしろです! ところで皆さんは「あつまれ どうぶつの森」をやっていますか?
コロナの影響で
・中止になった卒業式をあつ森でやる
・政治のデモをあつ森でやる
などなど、かなりナナメ上の方向でも話題になっているゲームですが、そんな話題のあつ森をようやく私も5日前に始めました。
一応あつ森をやってない方のためにゲームの説明しておくと、こんな風にアウトドアな生活を楽しんだり...
通信で リアルの友達と釣りをしながら遊んだり...
安全に 感染症対策を訴えたりできるゲームです。
しかし、これがあつ森の実力ではありません。あつ森における最大の目玉。私がコレのためにあつ森をやっていると断言できるほど感動したのは、やっぱりこれ。
博物館!!!
いや伝わってないかもしれないけど、これがかなりすごい。本当にすごい。
しかし、いくら素人が「あつ森の博物館がすごい!」「もはや博物館のためにやっている!」とか言ったところで なかなか説得力がない のも事実です。
実際、この前あつ森をしてない友達に魅力を語ってみたところ、「同じ森ならグルタンの森の方が好き」などという予想外の方向から粉砕され、イマイチ「あつ森の博物館の何がすごいのか」を伝えられないまま、苦汁を飲むことになりました。
※ちなみにグルタンの森はこれです
しかし、ここで引き下がるわけにはいきません。「素人が語っても伝わらないならプロを呼べ!」というわけで、今回はあつ森の博物館のヤバさを語ってもらうためだけに、一級建築士の方をお呼びしました。
というわけで、ここからは私から一級建築士・つばさ先生へのインタビューという形でお届けします。
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まいしろ(以下、まい):こんにちは。今回は先生にあつ森の博物館のヤバさを語ってもらえればと思い、お呼びしました。どうぞよろしくお願いします。
つばさ(以下、翼):よろしくお願いします。
まい:まず、あつ森ってゲームの中で新しいサカナやムシを手に入れると、博物館に寄贈ができるんですね。
で、その寄贈されたサカナやムシが、博物館にめちゃくちゃかっこよく展示 されます。
今回は、そのゲームに欠かせない博物館が「どう見ても建物としてめちゃくちゃ最高なんだけど、何がどう最高なのかは全くわからない」のでお呼びしたという次第です。
翼:なるほど。僕も、あつ森は始めたばかりですけど、やってますよ。特に、博物館は 再現性が高くて良くできている ので気になってました。
まい:良かった!それを聞いて安心しました。では、早速「あつ森の博物館を一級建築士の目線から語ってもらう」、始めていきたいと思います。
1. 外から見た時の最高さ
まい:まずは外観からいきたいんですけど、これについてはどうですか?
翼:うーん...
翼:古代ギリシャ風の組石造ですかね。高さはだいたい3,500mm、1階立ての平屋ぐらいのかなり低い建物です。高さから見て、ここは住居系の用途地域かもしれないですね。
まい:(思ったより専門的な話きた...)建物としてはどうなんでしょうか?
翼:普通ですかね。一般的なヨーロッパ風の造りだと思います。
まい:ふ、普通...! けっこうよくあるやつなんですか?
翼:そうですね。でも、この屋根は最近では珍しいと思いますよ。重い石造りで、かなり高級感を持たせて いる。
近年では、石造りは負荷が強すぎてやらないので、歴史ある建物なんじゃないでしょうか。
2. エントランスの最高さ
まい:なるほど。では早速、中に入っていきましょう!博物館の間取りは、なんとなくこんな感じになってますね。
まい:まずは エントランスホール から見ていきましょう。ここは博物館のシンボル的なところですよね。
翼:広いですね。しかもかなりオーセンティック。特にこの、600角タイルの上にじゅうたんを敷いているのは高級感がありますね。
翼:あと、ここの床はタイルを組み合わせて、模様を作っているようなんですが、こんなに複雑な模様をタイルで作るのは難しい。
もし本当にタイルで作っているのなら、かなり高い技術ですね。
まい:なるほど...! ちなみにエントランスホールは2階立てなんですが、先生から見て上の階はどうでしょうか?
翼:うわー これは......!
まい:えっ...?
翼:これは... たぶん 天井にフレスコ画かなにかの絵画がある んじゃないでしょうか?
まい:えっ... このゲームだと天井までは見えない んですけど... なぜ...?
翼:ここに、天井を照らしているスポットライトがあるんですよ。こういう場合は天井に絵画があったりするんですが、おそらくフレスコ画とかじゃないですかね? いったいどんな天井になっているのか、見られないのが悔しいですね。けっこう面白い天井になってそうだな。うーん任天堂、これは見せて欲しかったな〜〜〜
まい:めちゃくちゃテンション上がってるじゃないですか... 私このゲーム始めてから 毎日5回は博物館に通ってますが、天井を見せて欲しいと思ったのはこれが初です...
3. ムシの博物館の最高さ
まい:続いて、エントランスホールの左にある、捕まえたムシが展示される「ムシの博物館」についてお願いします。
翼:あっ... これ!これは!?!!
翼:ちゃんとグレーチングがありますね!!!!!!!
まい:すみません、グレーチングが何かを聞いても大丈夫ですか...?
翼:ミゾのフタです。これがあると 水で掃除ができるようになる ので掃除が楽だし、ここの場合は 水槽から水があふれたり、こぼれたりしても大丈夫 になっていますね。これは芸が細かいな! 現実にかなり沿った造りですね。
まい:なるほど... 本当に博物館みたいな造りになっているんですね。次はテラスの方なんですけど、ここは先生としてはどうですか?
翼:気になるのは壁が 網入りガラスになっているところですかね。理由なく使うものではないので、珍しいです。
翼:網入りガラスは、普通のガラスより燃えにくいので、延焼(火事の焼けうつり)を防ぐのによく使います。おそらくですが 隣の建物が近くて、延焼を気にしなければいけない建物 のようですね。
まい:なるほど!ちゃんと 火事が起きても安全な建物になっている んですね。あと、このテラスは奥にさらに部屋があるんですけど、ここについてはどうでしょう?
翼:ここも なかなか細かいですね。気になるのは3点です。
翼:まずは左端のフローリング。現実の建物ではよくフローリングのはしっこだけ向きを切り変えることがある のですが、それをゲームでも再現しているのはすごい ですね。
それから空調。これはアネモ型吹き出し空調と呼ばれるもので、天井が高い建物に向いている空調です。おそらく、この建物は 見えている以上に天井が高い。
それから電源設備も作られてますね。実際の建物よりも、数はかなり少ないですが作り手のこだわりが見える部屋ですね。
翼:それから、同じ部屋に 床下点検口 もありますね。おそらく空調をチェックするためのものでしょう。リアリティのある造りです。
まい:なるほど、この画面ひとつに、こんなにこだわりが詰め込まれているんですね。あと、この部屋は右の方に 別の部屋がある んですが、こちらについてはどうですか?
翼:あー これは...
翼:これは完全に違法ですね
まい:完全に違法?!
翼:はい、違法です。見てください。
翼:まず、スロープなのに手すりがない。これは安全性からみて違法です。そして、スロープの 傾斜がきつすぎる。通常、スロープを作るときには 1:12 以上のゆるやかな傾斜が必要ですが、これはだいたい 1:5。あまりにも傾斜がきつすぎます。
まい:すごい... バリアフリーの話になった瞬間、めちゃくちゃ意見が厳しいですね...
翼:あつ森の博物館は、不特定多数のどうぶつが出入りするところ ですからね。誰でも安全に使えるように、バリアフリーには特に気をつけて欲しかったです。
※ただし、あつ森では車椅子に乗ることもでき、多くの人に感動を与えているようです!
翼:それから、このムシの博物館には ずっと泥が落ちているところ があるんですが、それに合わせて入り口に 泥落としのマットもある みたいです。気付く人しか気付かない、かなり粋な演出ですね。
4. サカナの博物館の最高さ
まい:では、続いてエントランスホールから見て右手、サカナの博物館についてお願いします。
翼:なるほど。この部屋は かなりフィクション ですね。
まい:え、いやむしろ今までの部屋の中でも、かなりリアリティのある部屋じゃないですか?
翼:いや違いますよ。見てください。
翼:まず消火栓。博物館のような建物だと、普通は消火のために スプリンクラー を使います。
そして、足らないところに消火栓を作るのですが、だいたいは階段やトイレの近くです。この場所にあるのはちょっと不自然ですね。
それから、奥の廊下も、フローリングの切り換えの「見切」のところが目立っていますね。これは現実にもありえますが、設計としてあまり美しいとは言えません。
そして奥の水槽もサッシが使われています。最近の水族館ではアクリルを使うことが多いので、勇気ある設計 とも言えますが、止水性(水を止められるか)が気になりますね。
まい:リアリティのある部屋だからこそ、現実との差がハッキリしてしまうんでしょうか...
翼:そうかもしれないですね。それから、一番気になるのが空調です。
消火栓のとなりに、空気の吸い込み口があるようですが、さっきのムシの博物館と同じく床下空調を使っているので、本来なら吸い込み口は床の近くではなく上の方にあるべきなんです。
まい:な、なるほど...! 確かにこれだと、床の近くしか空調が効かなくなりますね。
翼:はい。でも、この部屋にはかなりいいところもありますよ。
翼:グレーチングです。
まい:先生、グレーチング好き ですよね?
翼:ここは 特にいいですね。水槽の近くに作られているから掃除も楽だし、周りにも水に強くて洗いやすいタイル が使われている。リアリティがあるし、こだわりも感じますね。
翼:それから、バリアフリーの方もいいですね。
まい:だんだん先生の好みがわかってきました。
翼:階段の幅が3メートル以上あるときは、真ん中に手すりを作る必要があるのですが、これもきちんと守られている。使いやすさと安全に配慮した、良い造りだと思います。
まい:なるほど。では、次にとなりの「大きな水槽の部屋」を見たいのですが......
翼:いや、ちょっと待ってください!
まい:先生、なにをうろうろしてるんですか?
翼:よく聞いてください! ほら、この足音。
翼:これは "上げ床を走る足音” ですよ!
まい:そんなキラキラした目で言われても...
翼:上げ床はその名の通り「上げてある床」のことですね。下に空調などの設備が入っていて、他の床より上げてあります。ここの場合、見た目はまったく変わりませんが、足音だけがちょっと違う。
まさか 足音だけで「床が上げ床」であることを表現するとは... これはすごいな。
まい:確かにこの博物館、床にあわせてちょっとずつ足音が違うんですよね。私は足音から素材はわかりませんが、本当に走っているような気持ちになれます!
翼:上げ床は、普通の床よりも、足音が響きやすいんです。足音が響くと、部屋が広いように感じるので、この「大きな水槽の部屋」を広く感じてもらうためにあえて「上げ床」にして足音を変えたのかもしれません。ゲームならではの設計ですし、任天堂の開発力を感じますね!
翼:それから、この「上げ床」のとなりにある階段も、わざわざ鉄板で作っていますね。通常屋内の階段で、この鉄板を使うことはほとんどない。
それでも使っているのは、足音が響きやすい鉄板を使うことで、部屋を広く感じさせたいからではないでしょうか。
まい:なるほど。見た目で広い部屋を作るだけでなく、音でも工夫してあるんですね。
まい:次は、大きな水槽のとなりにある小部屋 です。この床にある丸い水槽、かわいいですよね。
翼:あーこれは... この部屋はすごいな...
翼: "入りはばき" がありますよ
まい:生まれて初めて聞く単語です。
翼:「入りはばき」は、壁と床のつなぎの部分に付ける素材ですね。
ここの場合は、掃除をしやすくする ために付けてあるんでしょう。できればすべての壁に付けて欲しかったですが、これも芸が細かいですね。
翼:それから、ここのスロープは両側に手すりがあるし、ちゃんと点字ブロックもある。
点字ブロックは、のぼり始めるところから30cm 離して付けるという決まりがあるんですが、(キャラクターのサイズをもとに測ってみると)きちんと30cm 離した場所に付けてある ようですね。
まい:なるほど! この部屋は バリアフリーもばっちりなんだ!!
まい:次は「水中トンネルを上から見れる部屋」なんですけど、あの...
翼:これは...
まい:もしかして...
まい&翼:グレーチング!!!!!
まい:だんだん私も グレーチングが好き になってきました。
翼:ここのグレーチングもいいですね。サカナの餌やりで水がハネても大丈夫だし、それとなく餌やりの道具などが置いてある のも楽しいです。
翼:あとは、物落とし防止の網 があるのもいいですね。あつ森ではみんなにスマホが配られますが、これならスマホを落とす心配もありません。
それから、手すりの高さも約 1,100mmで適切です。安全に大きな水槽を楽しめますね。
5. 化石の博物館の最高さ
まい:ではラストは、地下にある「化石の博物館」です。
あつ森では、ときどき 地面に化石が埋まってる んですけど、その化石を展示してくれるところですね。
翼:ここはまず、プロジェクターで床に映像を映すという展示がいいですね。
まい:先生、ちょっといいですか?
翼:え???
まい:これ、東京・上野の国立科学博物館、通称「かはく」に、ほぼ同じ展示があるんですよ! 地球館の1Fにある「系統広場」というゾーンです。
まい:おそらくですが、この「あつ森の博物館」自体が、そもそも 「かはく」を意識して作っていると思うんですよね。
外観の雰囲気もそうだし、特にこの「化石の博物館」ゾーンはかなり似ている と思います。
翼:まいしろさん、急に熱量ありますね...
まい:「かはく」めっちゃ好きなんですよ。外出できるようになったら行ってください。
翼:なるほど。でもこの部屋、ひとつだけ残念なところがあって...
翼:空調のダクトが見えてるんですよね
まい:いや初めて気づきました... 。ていうかこんなのあったっけ?
翼:意図せずにダクト(通風管)が見えてしまうのは、あまり美しくないですね。設計としては惜しい点です。
まい:では、化石の博物館のメインゾーン「化石の広場」を見たいのですが、とりあえず この床の丸いの は何なんでしょうか?
翼:なんなんでしょうね? 電気設備のように見えますが...
まい:ちなみにこれ、Googleストリートビューで確認したら「かはく」にも同じものがありました!
翼:なるほど。電線の交差部分に作るもの のように見えますね。あまり見かけないものですが、博物館を 忠実に再現する ために作ってあるようですね。
あと、この部屋も階段だけ チェッカープレートと呼ばれる鉄板 を使っていますね。
まい:なるほど! これも「かはく」とまったく同じ ですね。
翼:そうですね。現実の「かはく」の方は、屋外を歩いているような気持ちで化石を見学してもらう ために、わざわざ屋外でよく使うチェッカープレートを使っているのかもしれません。
あつ森の方は、それを生かしているようですね。「博物館を細かいところまで再現しよう」という意気込みを感じます。
まい:では、ようやくラストの部屋。「化石の博物館」の奥の間です。
翼:あっ... これは....
まい:(グレーチング??)
翼:人に反応してライトがつく ようになっていますね!!
まい:本当だ、気付かなかった! これって建築的にはどうなんですか?
翼:特に何もないですけど、かわいいので僕が好きです。細かいところがいいですね。
まい:なるほど... 最後は完全に先生の好みでしたね。今日はありがとうございました!
※つばさ先生のちょっとマニアックなinstagramはこちらから!
ちなみに...
私が「あつ森の博物館みたい!!」と推しまくっている「かはく」には、エントランスに似たホールもあります!
残念ながら今は臨時休業中 とのことですが、外出ができるようになったら、皆もぜひ「かはく」に行ってみてね! それまではこのストリートビューでも楽しめますよ!
というわけで、皆さんにもあつ森の博物館のヤバさは伝わったでしょうか。
まだやってみたことがないという人も、これを機にぜひどうぶつの森にあつまって欲しい!!!!!じゃあまたねー!
**** 4月18日 20:30 追記 ****
おかげ様で、想像以上の方にあつ森の博物館のヤバさを伝えることが出来て本当に嬉しい限りなのですが(読んでいただいた方々ありがとうございます!)いくつか紹介した方がよさそうなコメント&リプライをいただいたので追記いたします!
1. ムシの博物館のスロープに手すりあるんじゃないか問題
こちら「完全に違法」として紹介していたムシの博物館・屋内のスロープ、私が見落としていただけで手前に手すりがありました!
※コメントいただいたナガレさん、ありがとうございます!
ただスロープの傾斜はやはりきついので、こちら「完全に違法」改め「ちょっとだけ違法」に訂正させていただきます。誤解をお招きしてすみませんでした!
2. 東京国立博物館のエントランスホールが似ている問題
「かはくの日本館に似ている!」として紹介した博物館のエントランスホールについて、東京・上野の「かはく」のすぐ隣にある 東京国立博物館(トーハク)の表慶館に、よりソックリの模様の床があるそうです!
トーハクは アニメ映画「時をかける少女」のモデルとしても知られる本当に最高の博物館 ですが、私自身はまだ表慶館の中に入ったことがなく(行きたい...)Googleストリートビューでも確認できませんでした。
ただ、公式サイトのブログにそれらしき画像があったので、あつ森ファンの方はぜひチェックしてきて欲しいです!!
なお、つばさ先生より「これはモザイクタイルですね!確かにモザイクタイルを使えばこの模様も表現できますね!!!」とのコメントもいただきました。こちらもコメントいただいた柿田さん、ありがとうございました!!
3. かはくにある「現代人」の展示
これは本当に「この記事書いてよかった...!」という感じなのですが、化石の博物館「奥の間」の展示は、「かはく」にも実際にあるそうです!
実はこの部分「どこかで見た展示のような気がするけど思い出せない...」と思いながら書いたところだったので、情報をいただいた時は「あああそれだぁぁぁぁぁ」とかなり感激しました。
こちらかはく・日本館の2Fにある「日本人と自然」というコーナーとのことなので、外出できるようになったらぜひ見に行ってみて欲しいです。
コメントいただいたゆずのりさん、ありがとうございました!
**** 5月4日 16:30 追記 ****
あつ森に美術館が新しくオープンしたので、そちらについても書きました!
長すぎてこっちの記事に書けなかった話もちょこっと入れているのでぜひ〜!
**** 5月16日 12:30 追記 ****
このnoteのおかげで、国立科学博物館の化石研究者さんに実際にインタビューできました!!嬉しい!!
前編・後編であますとこなく解説してもらったのでこちらも合わせてぜひ!
というわけでここまで読んでいただきありがとうございました!
あつ森や現実の博物館に興味を持ってもらえていれば、とてもとても嬉しいです!またねー。