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生涯最後のお年玉


実家から東京に帰る日の早朝、母親は初登山と言ってまだ薄暗いうちに家を出た。お見送りできなくてごめんねと申し訳なさそうに静かに玄関の扉を閉めた。父親もまた部活の顧問としてまだ寒い時間に家を出た。体には気をつけろよと一瞬だけ目を合わせて言った。
2人を見送ったあとリビングに戻り荷造りを始めると、僕の荷物の中に手紙と一緒に可愛らしいポチ袋のお年玉が入っていた。
二万円だった。
僕にとっては天の恵みだと涙するくらいの大金で、無償で手に入れるにはあまりにも大きい額だった。
美味いものや行きたい場所を我慢している両親が、僕に無償で金を渡してきた。
辻褄が合わない。僕は何も二人に恵みを与えていないのに、僕だけ一方的に受け取っているのが、あまりにも不条理だった。
置いていこうとも思った。
しかし中の手紙を読んだら、それこそ無礼にあたるような気がした。
受け取るしかない。
日本人の侘び寂びみたいな綺麗事ではなく、この気持ちを受け取らないのはあまりにも無碍だと芯から思った。
死んでも返そう。今まで受け取った莫大な恩恵は、死んでも返そう。じゃないと僕の大嫌いな理不尽や不条理を許すことになる。
そして最後にしよう。もう二度と受け取らないことにしよう。こんな情けのない気遣いはさせないようにしよう。用意させないようになろう。
お年玉がこんなにも重たいとは。
今は帰りたくないはずの東京に、早く帰りたい。






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