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ひとりぼっち。

「まま?」
「ぱぱ?」
「おかしいな~。きのう一緒にねていたのにな~。」

ある日、道で迷子になっているひよこがいました。
ひよこは生まれたばかりの赤ちゃんでした。

ひよこは、お父さんとお母さんを探し歩きました。
いつまで歩いても背の高い草が広がっているだけです。
聴こえるのは、「さらさらさー」
風で草が揺れる音だけ。
空高くにたいようがある。
ポカポカでさわやかな気持ちのいい日です。

気持ちのいい日のはずなのに、、、ひよこの気持ちは晴れません。
ひよこは天気がいいのに悲しくてさみしい気持ちでした。
ひとりぼっちだからです。

ひよこは二日以上何も食べずに歩き回ってお腹がペコペコになりました。

そんなところに、いっぴきの犬がやってきました。
犬はひよこを見て鋭い目を向けました。
ひよこは久しぶりに他のどうぶつに会えたのでうれしくなりました。
そして、ひよこは犬の元へかけよりました。
犬はびっくりしました。
ひよこはじぶんのことをこわがって逃げると思ったからです。

犬は涙をこらえられませんでした。
そんなえがおを向けられたことがなかったからうれしかったのです。
ひよこは、泣いている犬を見て心配しました。
そして一生懸命わらわせようと話しかけました。
犬は涙を流しながら優しくわらって「だいじょうぶ。だいじょうぶ。」と、ひよこにいいました。

その夜、犬はひよこにたくさんのごはんをごちそうしてくれました。
むしゃむしゃ むしゃむしゃ
ぱくぱく ぱくぱく
ひよこは久しぶりのごはんだったのでおなかいっぱいになるまでたっくさん食べました。
そして犬といっしょにたくさんおはなしをして、たくさんわらいました。
寝るときは、ひよこは犬のせなかにのって寝ました。

犬は目を閉じながら、
「今日がずっと続けばいいな」と小さな声でつぶやきました。
するとひよこは、
「いっしょにいよう」と優しくこたえました。

つぎのひ、ひよこは犬におねがいをしました。
「いっしょにぼくのお父さんとお母さんをさがしてくれない?
 まだ犬とお別れしたくないんだ。」
犬はひよことまだいっしょにいられることがうれしくて、
「もちろんだよ。
 おれはひよこよりも背が高いし、一歩も大きい。
 おれといっしょならすぐに見つけられるよ。」
と、うれしそうにいいました。

その日から、ひよこと犬はいっしょにひよこのお父さんとお母さんをさがす旅に出ました。
犬がひよこを背中にのせて草原を走ったり、
いっしょに歩きながらしりとりをしたり、
うたをうたったり、
こかげでゆっくり休んだり、
川であそんだり、、、
いっしょにごはんを食べていっしょにねる。
ずっとふたりはいっしょにいました。
いっしょにいる時間がながくなるほど、おもいでもふえていきました。

ひよこのお父さんとお母さんをさがす旅にでてから一週間がたった日のよる、ひよこは犬にいいました。
「もしかすると、お父さんとお母さんにはもうあえないのかもしれないね。」
ひよこは明るい声で言いましたが、声がふるえていました。
犬は声をしぼりだしてひよこにいいました。
「だいじょうぶ。きっとあしたになれば会えるよ。」
犬はひよこがむりに元気にふるまっていることに気づいて、涙が止まりませんでした。

旅にでて、10年がたちました。
ひよこも成長して、じぶんでごはんを準備できるようになりました。
おいしい木の実のみつけかたも犬に教わりました。
犬のせなかではなく、犬のよこで寝るようになりました。

そんなある日のよる、ひよこは犬に言いました。
「おれもう空を飛べるくらい大きくなっちゃったよ。
 こんなにおっきくなっちゃって、、ほんとうに会える日はくるのかな。
 もしかしたら、わざとおれを捨てたのかも。
 そうかんがえたほうが自然なのか。
 会ったら父さんと母さんはおれのことちゃんとわかるかな?
 ちゃんと気づいてくれるかな?」
ひよこは冗談をいうかのようにさらっといいました。
まるで言い慣れているかのようでした。
犬は暗い顔になってしまいました。
ひよこは
「冗談だよ。明日こそ会えるよな。
 おれの親だもん。10年はなれていても気づくにきまってるよな。」
と犬に気を使わせないように明るくいいました。
しかし、犬の表情は暗いままです。
犬はついに重いくちをあけていいました。
「じつはひよこに話さなければならないことがあるんだ。」
そして、犬は10年前のはなしをし始めたのです。

10年前の犬は、強そうな歯や、つめ、大きなからだ、するどい目つきから周りの動物からは怖がられていました。
犬が他の動物にちかづくとみんな逃げて行ってしまうのです。
犬はいつもひとりぼっちでした。
さみしくてかなしくてずっとこころぼそいおもいをしていましたが、いつも強がっていました。
そして犬は、みんなに避けられたことから心が傷つき、逆にじぶんが傷つくまえに周りの動物を傷つけようとかんがえました。
犬は、むかしからちからが強かったので、会う動物とつぎつぎにけんかしました。
わけもなく弱い動物におそいかかっていました。
そうすることでさみしさをごまかしてきました。

そんなせいかつをおくるなか、犬が夜中にうろうろ歩いていると、近くに寄りそって寝ているひよこのかぞくをみつけました。
そのかぞくは、おとうさんとおかあさんとまだちいさなあかちゃんのひよこでした。
犬はいつものようにその家族におそいかかりました。
すると、犬に気がついたひよこのおとうさんとおかあさんは犬にいいました。
「おねがいだ。おねがいだからこどもだけは助けてくれ。
 わたしたちはどうなってもかまわない。
 わたしたちをおそうなら、こどもにしんだことがわからないようにからだはとおくにすててくれ。たのむ。」

犬はおやのはなしをむしして、まずひよこのおやをおそい、あかちゃんのひよこにもおそいかかろうとしました。
しかし、あまりにも気持ちよさそうに寝ている、いきるつらさも知らないようなこどもをおそう気持ちにはなれませんでした。

犬はおやのさいごのねがいだとして、おやのからだをひよこが寝ているところよりも、はるかにとおいばしょですてました。

ひよことであったのは、その二日後のことでした。
さいしょはじぶんがおそったひよこのかぞくのあかちゃんだとはきづきませんでした。
犬がもったのひよこの第一印象はただただけなげで、こわいもの知らずで、こんなこわいみためのおれにも愛嬌をみせてくれるかわいいひよこ、
はじめておれからにげなかったあいて、
はじめておれの存在をうけいれてくれたあいてのように感じて、うれしくて、なみだがとまりませんでした。
その日はひよことおいしいものをたくさんたべて、たくさんおはなしをしてじんせいでいちばんたのしい日でした。

つぎの日、ひよこに提案されたことばをきいて犬はどきりとしました。
おやをいっしょにさがしてほしいとたのまれたからです。
犬は、もしかして、このあいだおれがおそったかぞくのあかちゃんなのではないのか、とおもいましたが、犬にとってひよこははじめてのともだちで、ずっといっしょにいたいとおもったのでひよこの頼みをきくことにしました。

それから、犬はひよこといっしょにひよこのおやをさがす旅にでました。
犬は他の動物となかよくはなすことがたのしくて、ひとりではないことがうれしくてしあわせでした。
しかし、いっしょにいる時間がながくなるほど犬はくるしく感じるときがおおくなりました。
ひよこをみるたびに、あの日、寝ているひよこのかぞくのあかちゃんをおもいだしました。
今となりにいるひよこのかおとすごく似ているのです。
似ているのではなくて、みればみるほどおなじかおでした。

犬はずっとなやんでいました。
ひよこにしぜんに親をあきらめさせる方法はないかかんがえていました。
時間がたつにつれてほんとうのことをいいづらくなっていきました。
「おれがやったんだ。おれがおまえのかぞくを、、、」
こころのなかではなんども打ち明けるれんしゅうをしていました。
なんども「ごめん」とおもっていました。
ひよことのたのしいおもいでがふえるほど、ひよことわかれたくない、このまま一生いきていきたい、とおもいました。
なかなかほんとうのことがいえないまま、10年がたってしました。

「おれもう空を飛べるくらい大きくなっちゃったよ。
 こんなにおっきくなっちゃって、、ほんとうに会える日はくるのかな。
 もしかしたら、わざとおれを捨てたのかも。
 そうかんがえたほうが自然なのか。
 会ったら父さんと母さんはおれのことちゃんとわかるかな?
 ちゃんと気づいてくれるかな?
 ...冗談だよ。明日こそ会えるよな。
 おれの親だもん。10年はなれていても気づくにきまってるよな。」
「じつはひよこに話さなければならないことがあるんだ。」
「どうしたんだよ、そんなくらいかおをして。」
「ごめん。」
「なにが?どうしたんだよ。」
「あやまってもどうにもならないっていうのはわかってる。ごめん。」
「だから、なにがだよ。
 おれのおやがみつけられないのはおまえのせいじゃない。
 いっしょにさがしてくれてぎゃくに感謝してるよ。」
「ちがう。おれはそんないいやつじゃない。
 おれはずるいんだ。」
「なにいっているんだよ。どうゆうことだよ。」
「おまえはどんなにさがしても父さんと母さんにはもう会えない。」
「なんでそんなこというんだよ。
 あしたには会えるっていつもいってくれてただろ。なあ。」
「おまえのとうさんとかあさんはもういきていないからだ。」
「...は?」
「おれがおそったんだ。
 10年前のよる、おまえたちかぞくを、おれがおそった、、、
 おまえのおやにいわれた、
 おまえだけたすけてくれって、おまえのとうさんとかあさんは、、
 じぶんたちがしんだことがわからないように、
 おまえがショックをうけないようにおれにたのんだんだよ、
 じぶんたちのしんだすがたをこどもに見せないように、
 とおくにすててくれって。
 おれはそんなこどもをたいせつに思ってくれるおやがいなかった、
 だから余計、みていて腹がたった、
 そのときのおれは味方はだれもいなかったし、
 ばかだったし、よわかった、
 おれは、おまえもおそおうとしたけどなんでかおそえなかった。
 さいごのおまえのおやのねがいをかなえるためにとおくにすてた、
 ほんとうにごめん、」
「なんであのとき、おれといっしょにとうさんとかあさんをさがすっていったんだよ。なんでおれもおそわなかったんだよ。」
「はじめてだったんだ。あいてからおれにちかづいてくれたやつが。
 おれをむししないで、はなしかけてくれたやつが、
 うまれてはじめてだったんだ、
 うれしかったんだ、」

ひよこは理解がおいつきませんでした。
ただ頬にぬるい温度をかんじるだけでした。
犬のはなしはまだ信じられません。
犬といっしょにすごした10年間はお父さんとお母さんと過ごした時間よりはるかにながい時間でした。
ほぼ今まで生きてきた人生とおなじながさをすごしてきました。
いままでの犬とのせいかつをふりかえって、ひよこは顔をゆがませました。

「おれはいいやつじゃないんだ、さいていなやつなんだ、
 たびはきょうでおわりだ、おれたちももうおわりだ、
 おまえとすごしたじかんはほんとうにたのしかった、
 おまえにあってはじめて生きていてよかったとおもえたよ。
 ありがとう。ほんとうにすまなかった。
 ながいあいだだましていてごめん。
 じゃあな、」

ひよこは、まだ夢をみているような、犬に対するゆるせない、くやしいきもちや、今までたのしかった思い出、生きるすべをおしえてくれたたのもしかったすがたがむねの中でごちゃごちゃにふくざつにからまってまったく整理がつきません。

ただしずかに涙をながすことしかできませんでした。






 


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