【今からでも大丈夫!】がん難民にならないために患者力をつけましょう!【患】#131
こんにちは、心療内科医で緩和ケア医のDr.Toshです。緩和ケアの本流へようこそ。
緩和ケアは患者さん、ご家族のすべての身体とこころの苦しみを癒すことを使命にしています。
今日のテーマは「がん難民にならないために~標準治療を選ばなかった方へ~」です。
動画はこちらになります。
手術・放射線治療・抗がん剤治療をすることが、いいのか、悪いのか、どんな治療を選ぶかは患者さんにとって重要なことです。
その中には、標準治療を選ばない患者さんもいると思います。標準治療を選ばずにがんが治ったという患者さんもいるでしょう。私はそれを否定するつもりはありません。
一方、標準治療を選ばなかった結果、治らずにがんが悪化してしまったという患者さんもたくさんいます。私は、ホスピス勤務時代にそういった患者さんをたくさん診てきました。
この記事で、どんな治療を選択しても『幸せ・希望・安心』を感じられる患者さんが増えればうれしいです。
今日もよろしくお願いします。
あなたを助ける患者力
もし、標準治療である抗がん剤治療を選択せずにがんが悪化してしまった場合、完治を目指す標準治療がもうできなくなっていることも多いです。しかし、症状を緩和して、普通の生活を長く続けていくための道はあります。
意外に思うかもしれませんが、抗がん剤や放射線などの治療を行うことがその1つなのです。この場合、抗がん剤や放射線は完治のためではなく、がんと共存するための数ある道具の1つであると考えることが大事です。
そして、もう1つの道具が緩和ケアなのです。
緩和ケアはトータルペインを癒すことを目標にしています。完治を目指す標準治療ができなくなった時の目標は、QOLを改善させて、自分らしい生活を送ることなのです。
もし、がんが悪化してつらい症状が出てきた場合、標準治療を断ったから行きにくいとか、診療を断られるのではないか、などと思っておられる方も多いかもしれません。でも、ここで躊躇していたのでは、がん難民になってしまいます。そうならないためには、ぜひがん治療病院を受診してください。
そして、緩和ケアチームがある病院を最初から受診することを考えてください。なぜなら、がん治療も受けながら、緩和ケアを受けられるからです。そこでは、必ず多くの医療者があなたを支えてくれます。
ぜひとも自分の医療の情報力、そして行動力を上げて、あなたを支えてくれる医師を探しましょう。
このような能力のことを、医療リテラシー、ヘルスリテラシーと言います。違う言葉でいえば、患者力と言ってもいいかもしれません。
ぜひともあなたの患者力を伸ばしましょう。
病院の具体的な探し方
それでは、あなたの住んでいる地域の、緩和ケアチームのある病院を受診する具体的な方法についてお話します。
各都道府県にはがん診療拠点病院という病院があり、そこには基本的に緩和ケアチームがあります。
国立がんセンターのがん情報サービスのリンクを貼っておきます。
ここには、がん診療拠点病院がどこにあるかが載っています。参考になさってください。
紹介状が必要なこともありますが、それまで、かかっていた病院から紹介状をもらえない場合、保険外併用療養費を払うことで診てもらえます。保険外併用療養費は病院によって異なりますが、私の病院の場合は5000円です。
そして、あなたの現在の病状をしっかりと客観的にみてもらいましょう。
もし、がんを完治するための治療がないと言われても、QOLをできるだけ維持するためにどんな治療ができるのか相談してください。抗がん剤は、QOLを維持するために使うと有効なことがあります。様々なつらい症状が出てくることも考えられるので、できるだけ早くから緩和ケアチームを紹介してもらってください。
緩和ケアチームは、多くの場合治療医からの紹介が必要なので、自分から必ず紹介してほしいということが重要です。
もし、緩和ケアチームを紹介するにはまだ早いといわれても、不安があるので紹介してほしいと言いましょう。意外に、精神症状を訴えることで紹介してくれる治療医は多いです。
早くから緩和ケアチームに関わってもらうことは大切です。早めに緩和ケアに繋がっておきましょう。
患者力とは
さて、先ほど申し上げた医療リテラシーとはどういうものでしょうか。それは、健康や医療に関する情報を探し、理解し、活用する力のことです。
ヘルス(health)は健康、リテラシー(literacy)とは、もともとは読み書きができる能力、識字能力のという意味です。今ではその意味は広がり、自分に必要な情報を適切に選び、自らよりよい意思決定ができる力という意味で使われます。
先ほど述べましたが、この力のことを患者力と私は呼んでいます。
患者力については、近々別の記事でもお話する予定です。
患者力の高い患者さんの話
先ほど私は、抗がん剤はがんと共存するための数ある道具の中の1つだと申し上げました。
実はこれを言ったのは、がん研有明病院 乳腺内科部長、高野 利実 先生です。彼は私が尊敬する腫瘍内科医の1人です。
高野先生から、70代の乳がん患者さんのお話をお聞きしましたのでご紹介します。
その患者さんは5年前、左乳房とわきの下のしこりに気づきましたが、すぐには病院に行きませんでした。1年半後、しこりが大きくなって、左腕のむくみがひどくなったところで、近くの病院を受診し、進行乳がんと診断されました。
しかし、ある医師のセカンドオピニオン外来を受診すると、「抗がん剤なんて受けたら殺されてしまう。がん放置療法で大丈夫。」と言われ、抗がん剤は受けなかったそうです。
その後がんは徐々に悪化し、しこりの痛みも強くなり、途方に暮れていたところで、高野先生の本に出会ったそうです。そして先生の外来を受診しました。先生が診察したところ、左乳房のしこりは皮膚や筋肉にまで広がり、反対側の乳房や全身のリンパ節、肝臓、骨などにも多数の転移があったそうです。
症状を和らげて穏やかに過ごしていくことを目標に、標準的な抗がん剤を始めたところ、しこりもわからなくなり、痛みやむくみなどの症状は改善しました。その後、抗がん剤は続けていますが、病気は落ち着いていて、元気に過ごしながら、週2回はプールで楽しく泳いでいるそうです。
「がん患者とは思えないって、みんなから言われるのよ。あのまま『がん放置療法』を続けていなくて本当によかった。」と患者さんは話すそうです。
高野先生は言います。
病院にかかることや、緩和ケアを受けることについても否定するなら、それは「がん放置療法」というよりも、「がん患者放置」です。がんの症状がつらくなったら、放置するのではなく、きちんと緩和ケアを受けてください。「抗がん剤治療はやりたくない」というご希望をお持ちであれば、そのお考えは尊重しますので、お困りのことを一人で抱え込まずに、医療機関に頼りましょう。
Dr.Toshの思い
高野先生が診たこの乳がんの患者さんは、患者力がとても高い方だと思います。がん治療をやらない選択もご自分もされましたし、がんが悪化したときは、しっかりと高野先生を自分で探して、治療してもらっています。患者さんも賢くならないといけない時代だと思います。
患者さんの状況は日々変化します。その変化に対応するために自己決定が必要になる場面がいろいろと出てきます。
インターネットのある今なら、より良い情報を自ら見つけ、その情報を基に行動することもできます。インターネットが使えない人でも、本を読んだり、主治医や病院のソーシャルワーカー、緩和ケアチームなどに様々なことをわかるまで聞くこともできます。
その結果、自分の納得できる自己決定をすることができるのです。
自分の思いを医師に率直に伝え、とことん話し合うことで、医師も成長することができるのです。これも患者力の結果です。
医師と患者さんがお互いに助け合って、良い医療を作ることができる時代が来ているのかもしれません。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
私は、緩和ケアをすべての人に知って欲しいと思っています。
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