がんの一種の「肉腫」を正しく知り、早めの対応をしましょう!【患】#152
こんにちは、心療内科医で緩和ケア医のDr. Toshです。緩和ケアの本流へようこそ。
緩和ケアは患者さん、ご家族のすべての身体とこころの苦しみを癒すことを使命にしています。
今日のテーマは「肉腫と癌」です。
動画はこちらになります。
以前こんなケースがありました。
ある病院で、乳房にできた脂肪肉腫を手術し、半年たった患者さんが、咳がひどくなって、呼吸困難の症状も出てきました。近くの医院に行ったら、肺に大きな転移が見つかり、大学病院に紹介され、私のところにやってきました。
私が「手術した病院には通ってはいなかったのですか?」と聞くと
患者さんは、「先生から、腫瘍は肉腫で、取りきれたと聞いたので、良かったと思いました。先生からは定期的に検査するようにとは言われたのですが、取りきれたのなら大丈夫だと思い、病院には行きませんでした。」と言いました。
私は、言葉がありませんでした。
患者さんは肉腫を良性腫瘍だと勘違いして、治ったと思ってしまったのだな。だから術後のフォローの検査も自分の判断でやめてしまっていたんだ。もっと早く再発が見つかっていれば、手術もできたのにと思いました。
残念ながら、その患者さんはその3か月後に亡くなりました。
実は、肉腫はがんの一種で、悪性腫瘍なのです。ここを誤解してしまうと、この患者さんのように、取り返しのつかない事態になってしまうのです。
今日は、がんの一種である肉腫についてお話します。この記事の中で、肉腫の治療戦略についてもお話しますので、ぜひ最後までご覧ください。
今日もよろしくお願いします。
肉腫もがんの一種
もう一度申し上げます。
肉腫はがんの一種です。良性の腫瘍ではありません。
肉腫をがんではないと思い、放っておかないでください。肉腫を良性腫瘍だと思い放っておくと、再発したのに気づかないで、病気が進行して、大変なことになってしまいます。
肉腫は再発・転移もするし、その結果命が奪われることもあります。しっかりとした治療が必要なのです。手術で取り切れたと言われても、安心せず、その後の定期検査は必ず行うようにしてください。
肉腫と癌の違い
今、私は肉腫は悪性腫瘍だと言いましたが、癌と肉腫はどう違うのでしょうか。
今からそのことについてお話します。
それを知ることで、肉腫を放置してはいけないことが理解できるようになると思います。
まず皆さんに知ってもらいたいことがあります。
それは、漢字の「癌」とひらがなの「がん」の違いです。
身体の中の細胞が異常な細胞に変わり、無限に増殖するようになったものを悪性腫瘍と言います。ひらがなの「がん」は すべての悪性腫瘍の総称です。
ひらがなの「がん」は、大きく分けて3つに分けられます。
上皮性のがん、非上皮性のがん、そして血液のがんです。上皮性のがんは漢字の「癌」と言います。非上皮性のがんは「肉腫」と言います。
ここでは、漢字の「癌」と「肉腫」の違いをお話します。
上皮性のがん、つまり漢字の「癌」は、文字通り上皮細胞ががん化したものです。
上皮細胞とは、身体の表面を覆う細胞のことです。皮膚は上皮細胞ですし、臓器の表面も上皮細胞です。大腸がん、肺がん、乳がんなど、ほとんどのがんは、上皮性のがんなので、漢字の癌なのです。
一方、骨や軟骨、筋肉などは非上皮細胞です。
これら非上皮細胞ががん化したものが、肉腫なのです。骨のがんは骨肉種です。骨癌とは言いません。筋肉ががん化したものは、横紋筋肉腫や平滑筋肉腫と呼びます。他にも脂肪肉腫などもあります。
以上のように、肉腫と癌は、腫瘍ができる場所が違うことで、名称が変わっているだけなのです。
両方ともひらがなの「がん」の一種で、悪性腫瘍なのです。ですから、肉腫でも漢字の「癌」でも、治療とその後の定期検診は必須です。
肉腫の治療戦略
次に皆さんに知ってもらいたいことは、肉腫と癌は同じ悪性腫瘍ですが、具体的な治療戦略が違うということです。それを知って、納得して治療を受けてほしいと思います。
漢字の癌は手術、抗がん剤、放射線がメインの治療法になりますが、肉腫は漢字の癌に比べ、抗がん剤や放射線が効きにくく、手術で取りきるのが最善の治療なのです。もし再発・転移しても、できるだけ手術で取りきる治療が、その時の最良の治療となります。
一般的な肺がんや乳がん、つまり漢字の癌は、再発・転移した場合、手術は行わないで、抗がん剤治療を行う場合がほとんどです。なぜなら、再発・転移をしたということは、目には見えないがん細胞が全身に広がっていると考えられるので、手術などで部分的に取ってもまた違うところに出てくることが多いからです。
肉腫が再発・転移した場合でも同様に、全身に広がっていると考えるべきです。しかし残念ながら、肉腫は漢字の癌に比べ、抗がん剤の効果が乏しく、効果のある抗がん剤も種類が少ないのが現状です。
また、放射線照射の効果も漢字の癌に比べ乏しいのです。したがって、肉腫の場合、再発・転移を注意深く経過観察して、腫瘍が小さく、数が少ないうちに見つけ、手術で取り去ることが最善の治療になります。
肉腫は肺に転移する頻度がとりわけ高く、専門家の先生方は、いつも肺転移がないか注意深く経過を観察しています。このように、肉腫は一般的には治療が難しい悪性腫瘍です。
しかし、最近では遺伝子治療や効果のある分子標的薬の開発も進んできており、将来はもっと治療が進歩することを期待しています。
もう一つ言っておきたいことがあります。肉腫の終末期は、肺転移による呼吸困難症状がつらくなり、最期は呼吸不全で亡くなることが多いのです。
肉腫の肺転移が見つかれば、できるだけ早く緩和ケアに紹介してもらい、呼吸困難などの症状緩和をしっかりしてもらうことが必要です。
以上肉腫について様々な面から話してまいりました。肉腫も、がんの一種であり、決して侮ってはいけません。しかし、過度に怖がらないで、主治医が勧める治療をしっかりと行い、その後もフォローを怠らないようにしてください。
あなたに伝えたいメッセージ
今日のあなたに伝えたいメッセージは
「肉腫はがんの一種です。良性の腫瘍ではありません。肉腫をがんではないと思い、放っておかないでください。放っておくと、再発・転移の可能性があります。しっかりとした治療と、その後のフォローが必須なのです。」
最後まで読んでいただきありがとうございます。
私は、緩和ケアをすべての人に知って欲しいと思っています。
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