【全】記念日反応(アニバーサリー反応)とは何か?その対処法とは? #70
こんにちは、心療内科医で緩和ケア医のDr. Toshです。緩和ケアの本流へようこそ。
緩和ケアは患者さん、ご家族のすべての身体とこころの苦しみを癒すことを使命にしています。
今日のテーマは「記念日反応」です。
動画はこちらになります。
皆さん、記念日反応という言葉を聞いたことがありますか?これはアニバーサリー反応とも言います。
がん患者さんにとっては、がんをはじめて告知された日は、とてもつらい日です。
遺族にとっては大事な人が亡くなった日はつらい日です。このような特別な日にとてもつらくなったり、しんどくなったりすることを記念日反応といいます。
何年たってもその日が来ると、つらく寂しい気持ちになる方も多いです。しかし、ある方法でそのつらい気持ちを和らげることができます。
今日の記事では、このような記念日反応について解説するとともに、対処する方法をお話しします。
このことを知って、患者さん、ご家族の記念日反応のつらさ、寂しさが少しでも減らせればうれしいです。
本日もよろしくお願いします。
記念日反応とは
さて、皆さんにとって記念日とは何でしょうか。
結婚した日でしょうか?誰かの誕生日でしょうか?
人によって様々な記念日があると思いますが、おそらく、皆さんにとって特別な日ではないでしょうか。多くの人にとっては、うれしく、楽しい日だと思います。
しかし、がん患者さんやそのご家族にとって、つらい特別な日があります。
手術をした日。
入院して抗がん剤を始めた日。
抗がん治療をできないと言われた日も患者さんやご家族にとってはつらい日です。
ある乳がんサバイバーの方は、クリスマスイブの日に、がんと告知されたそうです。毎年クリスマスの日になると、みんなが嬉しそうに買い物などをして幸せそうにしているのをみるのがつらいそうです。がんを告知されたその時の情景をどうしても思いだしてしまうからだそうです。
このような特別な日につらくなったり、しんどくなったりすることを、記念日反応といいます。別の言い方をするとアニバーサリー反応とも言います。
過去の思い出を呼び覚ますものに触れたときにも、つらくなったり、気分が悪くなったり、身体の不調を起こしたりします。
遺族の場合だと、亡くなった大切な人との思い出が多い時期に、精神的に落ち込んだり、感情が不安定になったり、体調を壊したりします。
しかし、記念日反応はけっして病気ではありません。つらい体験をしたり、大切な人を失うという大きな出来事の際には、誰にも起こり得る自然な反応なのです。
私は、緩和ケア外来、遺族外来をしていると、本当にたくさんの患者さん、ご家族が記念日反応を起こしているのを見ます。
記念日反応は決して珍しいものではありません。しかも遺族の中では、大切な人が亡くなって、何年、何十年経っても、命日の頃には思いだして気持ちがつらくなる、と言われる人も多くいます。こうした感情は、人間としてごく当たり前のものと言えます。
しかし、記念日反応のことを知らないでいると、なぜ、こんなに急につらくなるのだろう、なんでいきなりこんなに悲しくなるのだろうと思い、どんどん深みにはまる人もいます。
ところが、記念日反応である、と知っていれば、これがそうなんだと思うことで気持ちに余裕が持てます。
記念日反応の最大の対処法は、「記念日反応は誰でも起こりうるもの、自分にも起こるものだ」ということを、知り、恐れないことなのです。
記念日反応を知り、恐れないこと
記念日反応の具体例をいくつかお話しします。
ある乳がん患者さんから聞いた話です。
彼女は言いました。
「主治医が『がんの転移は、たんぽぽの綿帽子のように、ふわふわ他の臓器に飛んでくっつきます。』と私に言いました。主治医は例えを使って、分かりやすく言おうとしたのだろうけど、それから私はタンポポの綿帽子をみると、とてもしんどくなってしまうようになった。
10年以上経っているけど、今でも綿帽子にがんのイメージがあって、怖くてちゃんと見られない。」と話してくれました。
また、頭頸部がんの女性の方は、外来で私に話しました。この方は、5年前、抗がん剤と放射線のつらい治療を行い、今は完治している患者さんです。
彼女は「私はひまわりの花をみると、今でもとても苦しくなるの。なんでだろうと考えてみたら、ちょうど抗がん剤と放射線の治療で、吐き気とめまいに苦しんでいた時、友達が元気を出してと、ひまわりをたくさん病室に持ってきて飾ってくれた。それをぼーっとみながら、闘病していたわ。
それ以来、ひまわりをみると、その時のつらさ、苦しさを思いだしてしまう。だから今でもひまわりが見られない。」と話しました。
お2人には、記念日反応のことを話し、あなただけではないですよ、とお伝えしました。すると、お2人ともその後はずいぶん楽になったと言いました。
婚約者をがんで亡くした女性から聞いたお話です。
彼が亡くなった後、彼女はうつとなり、私の遺族外来で治療していました。4年が経過し、徐々に元気になり、新しい仕事もできるようになった頃のことです。
彼女は私に話しました。
「ある朝起きたら、なぜか身体が重く感じ、気持ちがとてもつらくなりました。
仕事に行ける状態ではなかったので、休んでしまったんです。お昼過ぎ、そうだ、4年前のこの日、彼ががんと診断され、泣きながら電話をかけてきたんだ、と思いだしました。そうすると、翌日には体調も戻って仕事にも行けるようになったんです。」
私は彼女に、記念日反応のことをすでに伝えていたので、彼女は、この出来事も記念日反応だとわかり、大きな落ち込みにならずにすんだ、と言いました。
記念日反応は、このようにしっかり知ることで、症状緩和ができるのです。
最後に、具体的に記念日反応をやり過ごす方法について、お話します。
1. 知ること
記念日反応は起こるものだということを知っておく、ということです。まずは知ることです。繰り返しになりますが、このことが1番重要です。
2. 準備する
記念日に対処するために予定を作ることです。記念日に何をするか?についての予定をあらかじめ立て、そのための準備を具体的にすることです。
例えば、その時は家で用事を作らず、好きな音楽を聴きながらゆったりと過ごすことにする、とかです。
3. 信頼する人と一緒に過ごす
また、1人でいるのが不安ならば、信頼できる人と一緒に過ごすことも考えてください。つらくなったら、その人に話しを聞いてもらうことができます。そばにいてもらうだけで安心感が得られるでしょう。
4. 恐れない
なぜ、しんどくなるのかわからないと不安になり、さらにそれが恐怖になります。恐怖になるとさらにしんどさが増してくる悪循環になります。ですから、だれにでも起こる当たり前の反応だと知って、恐れないことがとても大切になってくるのです。
このように、記念日反応というものは誰にでも起こりうるつらさ、しんどさです。しかし、それを知っていて、恐れないことが最大の対処法になるのです。ぜひ、このことを参考にしてみてください。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
私は、緩和ケアをすべての人に知って欲しいと思っています。
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