【医】死前喘鳴に対する家族の不安に向き合いましょう #106
こんにちは、心療内科医で緩和ケア医のDr. Toshです。緩和ケアの本流へようこそ。
緩和ケアは患者さん、ご家族のすべての身体とこころの苦しみを癒すことを使命にしています。
今日のテーマは「終末期の症状~死前喘鳴~」です。
動画はこちらになります。
死前喘鳴とは、亡くなる直前に唾液や痰が口の中にたまり、あえいでいるように見える呼吸のことです。
今日は、患者さんの看取りを多く経験している医療者にお話します。皆さんは死前喘鳴のことを、ご家族にどのように説明されていますか?
私はホスピスの実習に行ったとき、死前喘鳴は見た目ほどは苦しくありませんから、ご家族には苦しくない、と説明したらいいですよと教わりました。
その後、ホスピスで多くの患者さんを看取らせていただきました。その際、ご家族には、死前喘鳴は苦しくありません、と説明してきました。実際に、死前喘鳴を起こしている患者さんをたくさんみてきましたが、確かに見た目より、苦しくはないと思います。しかし、ただ苦しくはありませんよ、と説明するだけでは家族の不安は取れないかもしれません。
今日は終末期後期の症状の1つ、死前喘鳴についてお話します。
この記事で、死前喘鳴に対してのご家族の不安を受け取り、安心させることのできる医療者が増えればうれしいです。
今日もよろしくお願いします。
死前喘鳴を不安に思っている家族
先日の動画で、死前喘鳴は亡くなる直前の5兆候として出現すると説明しました。
亡くなる直前には意識が低下します。その結果、嚥下反射が抑制され、唾液が口の中に溜まり、呼吸のたびにゴロゴロという音が聞こえるようになります。これが死前喘鳴です。
死前喘鳴が起こるのは、意識がほぼない状態ですので、苦しみは感じていないと思われます。また、死前喘鳴は呼吸困難とは言えないという論文もあり、見た目ほどは苦痛は無いと多くの緩和ケア医は感じています。
しかし、ご家族はそうは思ってはいません。
最近の遺族に行った調査では、66%の遺族が死前喘鳴を見るのが苦しかったと言っています。また、64%が溺れているようだった、59%が窒息するのではないかと心配だったと言っています。ずっと見ていると息がつまりそうだったと答えた遺族も57%いました。私たちが思っているよりもずっと、ご家族は患者さんを見ていて、つらく感じています。
患者さんが苦しみながら亡くなっていったとご家族が思ってしまうと、患者さんが亡くなった後、遺族となったご家族の悲嘆は大きくなります。患者さんの最期が安らかだった、安らかに旅立ったと確信していただくことが、終末期の緩和ケアには必須なのです。
死前喘鳴は苦しくありません、と説明するだけでは、ご家族の不安は取れないかも知れません。まずは、死前喘鳴を起こしている患者さんを前にしている、ご家族の不安を受け取りましょう。
そして、その不安に対処することが、家族ケアであり、遺族ケアに繋がります。ご家族の思いに沿った臨機応変な対応が必要になるのです。
ご家族への対応
それでは、ご家族の不安にどのように対応していけばいいのでしょうか。
1. ご家族の不安を聴く
死前喘鳴は、医学的には患者さんは苦しみを感じていないと言われていますが、ご家族からすると患者さんが苦しんでいるのではないかと不安を感じています。
まず、その不安を受け取ってあげてください。そのことが、医療者が1番にすべき大切なことです。
2. ご家族と患者さんの状態を診る
次にご家族と一緒に患者さんの様子をみてください。意識状態はどうなのか、表情はどうか、呼吸の様子、脈拍などのバイタルサインの測定、さらには全身状態も診てください。
3. 状態を説明する
そして、観察や診察の結果をご家族に説明してください。意識はないが、心肺は正常である、つらそうな表情ではないので苦痛は無い、などと説明してください。
4. 苦しませないことを保証する
それでも、ご家族が不安に思っていたら、死前喘鳴を改善するケアについて説明してください。
具体的には、身体の位置の工夫です。顔を横に向け、頭を少しあげます。そうすることで、唾液が喉に落ちやすくなります。
輸液の量が多い場合、輸液を少なくしたり、やめると、死前喘鳴は改善します。この時期には輸液はほぼ必要なくなるのですが、どうしても輸液をしてほしいというご家族もいますので、輸液の量はご家族とよく相談して下さい。
口腔ケアも重要です。口腔内の痰や唾液は死前喘鳴の原因の1つです。唾液をガーゼでぬぐうなど、常に口腔内を清潔に保ってください。吸引はむしろ苦痛を与えるので、ご家族がご希望されてもお勧めではありません。もしするとしても、口腔内の唾液を取る程度が良いでしょう。
5. 家族にできるケアを伝える
そしてご家族にもできるケアを教えてあげてください。口腔内の唾液をガーゼでぬぐうやり方を教えてあげてください。胸に手を当てて、優しくさすることも良いです。
常にご家族と何でも言える関係性を作ることが重要です。死前喘鳴に関しては、これらのことを意識してご家族の不安を解消してあげてください。
家族の不安に向き合う
つい先日、病棟で終末期後期の患者さんのお部屋を訪問した時です。ご本人はほとんど意識もなく、死前喘鳴の症状を呈していました。ちょうどご家族もおられました。
すると、ご家族が急に私に訴えてきたのです。
「父が苦しそうです。喉がゴロゴロと鳴っています。主治医の先生に伝えたんですけど、苦しくはないですよ、と言うだけでした。何とかしてください。父が苦しそうなのが不安です。」と言いました。
私は「そうですか、患者さんが苦しそうに見えますよね。不安に感じるのも無理はないですよね。具体的にどのあたりが苦しそうに見えるのか教えてくれませんか?」と聞きました。
ご家族は「このままゴロゴロがひどくなって、喉に詰まってしまって窒息してしまうのではないかと心配です。」と答えました。
私は、「それは心配ですね。それでは、一緒にみてみましょう。」と言い、患者さんをご家族の前で診察しました。
その後、私はご家族に伝えました。「意識はほとんど無い状態です。しかし、肺や心臓はしっかり動いています。表情も穏やかですね。確かに喉がゴロゴロと言っていますが、これは意識が無くて唾液や痰を飲み込めないので、口の中で溜まってゴロゴロといっているのです。今の状態は、表情や全身状態から、患者さんは落ち着いていると思われます。おそらく、苦痛は感じていないと思いますよ。」
さらに「口の中の唾液を取ってあげましょう。」と言って、私はガーゼで唾液を取りました。すると、ゴロゴロという音は無くなりました。
私は「どうですか、苦しそうですか。」と聞くと、ご家族は「今は苦しそうではないです。これは私たちもしていいんですか。」
私は「ぜひしてあげてください。やり方はあとで看護師がお伝えします。」
ご家族は「ありがとうございます。」と言いました。私は「不安があったら何でも言ってくださいね。一緒にケアをしていきましょう。」とお伝えしました。
患者さんが看取り間近な状態になると、ご家族はとても緊張し不安になります。それをキャッチし、適切な関わりをすることで、良い看取りに繋がるのだと思います。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
私は、緩和ケアをすべての人に知って欲しいと思っています。
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