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【監視療法】早期の前立腺がんはなぜ治療しなくていいのか【患】#140

こんにちは、心療内科医で緩和ケア医のDr.Toshです。緩和ケアの本流へようこそ。

緩和ケアは患者さん、ご家族のすべての身体とこころの苦しみを癒すことを使命にしています。

今日のテーマは「前立腺がんは放っておいて大丈夫?」です。今日は前立腺がんの患者さんにお話します。

動画はこちらになります。

男性で一番多いがんは前立腺がんです。最近特に前立腺がんは増えてきていて、1985年と2012年を比べると8.4倍に増えてきているという報告もあります。その理由は前立腺がん検診の普及、高齢化、生活習慣の欧米化だといわれています。

しかし、前立腺がんは早期で発見されることが多く、その場合、手術・抗がん剤・放射線などの治療は行わないことがあります。本当に治療しなくても大丈夫なのか?と心配される患者さんも少なくありません。

今日は、早期の前立腺がんではなぜ治療をしなくても大丈夫なのかというお話をしたいと思います。

今日もよろしくお願いします。


早期前立腺がんの治療:監視療法

今私は「早期の前立腺がんは治療しなくても良い」とお話しました。なぜ治療しなくても良いのでしょうか。

前立腺がんは腫瘍マーカーのPSAの発見などにより、早期に見つかることが多くなりました。PSAとは、とても特異的な前立腺がんの腫瘍マーカーで、これが異常値を示すと、ほぼ間違いなく前立腺がんであるといえます。

前立腺がんは高齢者に多いため、早期のがんで悪性度が低ければ、後程述べますが、治療しなくてよいケースが多いのです。逆に治療を受けたことで、がんが完治しても、排尿障害や性機能障害などの合併症が残ることがあります。

そこで、できるだけ不必要な治療を回避するため、治療をしないという方法が出てきました。しかし、何もしないというわけではなく、監視療法という方法で経過観察が行われます。

監視療法とは、がんを直接治療しないが、定期的に悪くなっていないかの観察を行うという方法です。その間、抗がん剤治療や放射線治療、手術などは行いません。

「治療しないなら、医療にかからなくてもいいのではないか」と思う方もいるかもしれませんが、そうではありません。

前立腺がんの監視療法は、専門医の外来に通い、定期的に検査を行いながら、がんが大きくなっていないかを見てもらう方法です。決して「放置」するのではありません。ですから、前立腺がんの疑いがあるといわれたら、必ず専門家の診察を受けてください。


なぜ監視療法がおこなわれるのか

それでは、さらに詳しく監視療法についてお話します。

先ほど、前立腺がんは腫瘍マーカーのPSAの発見などにより、早期に見つかることが多くなったとお話しました。こういった多くの早期がんでは、治療を受けた場合と受けなかった場合の予後が変わらないことがわかってきたのです。すなわち、早期に発見される前立腺がんの中には、患者さんの寿命に悪影響を及ぼさない 、穏やかな「がん」も多く含まれているのです。

しかし、中にはがんが大きくなって、場合によっては転移までする場合もあります。ところが、放っておいても大丈夫ながんなのか、大きくなって転移までするがんなのかは、がんが発見された時点ではわからないのが現状なのです。

そこで、前立腺がんと診断されたのに積極的な治療はせず、時々PSAの測定や針生検をしながら様子をみる、監視療法という手段を取るようになったのです。前立腺がんの成長は、多くの場合ゆっくりであり、一生の間、命や生活を脅かす可能性が少ない場合が多いからです。

先ほども申し上げたように、過剰な治療をすることのデメリットを防ぐ意味があります。「監視療法をしましょう」と言われた時は、「がんを放置してよい」と言われたわけではなく、「定期的に経過観察をしましょう」と言われたのだと思ってください。そしてもし、がんが大きくなっていると言われた時には、手術や抗がん剤治療も必要になることもあると知っておいてください。

監視療法には基準があります。詳しく話すと専門的になりますので省略しますが、日本泌尿器学会の前立腺がん診療ガイドラインで、しっかりと基準が決められています。安心して専門家にお任せください。

このように、監視療法は不必要な治療を回避するのに役立ちますが、がんがあるとわかっていながら治療をしないことを、不安に思う患者さんも少なからずいます。

もし不安があれば、遠慮なく主治医に相談しましょう。こころのケアを受けたい場合は、緩和ケアチームにも相談できます。希望する場合は、主治医に受診したいことを伝え、紹介してもらってください。


前立腺がんが進行したら

最後に前立腺がんが進行したときについてお話します。繰り返しますが、前立腺がんは多くの場合、ゆっくり進行していくがんだといえます。

とはいえ、前立腺がんの73人に1人が命を落としているという現実もあります。進行した場合は決して油断できる状況ではないというのも事実です。前立腺がんは、進行すると骨に転移しやすく、ホルモン療法が効かなくなった場合、80%以上の高い頻度で骨転移が起こります。

骨転移が進行すると、がん細胞が骨の中の神経を刺激したり、脊髄など周囲の組織を圧迫することで、痛みやしびれ、麻痺などが起こりやすくなります。また、転移した場所の骨が脆くなることで、少しの力がかかるだけで骨折しやすくなることもあります。

しかし、痛み・しびれ・麻痺の症状を緩和する方法はあります。

まず、整形外科的な手術の方法です。骨を器具で補強したり、骨転移を取り除いて人工の骨や補強材を入れたりします。また、放射線治療もあります。

骨転移のある部位に体の外から放射線をあてる外部照射と、放射性物質を血管内に注射する内部照射があります。これらの放射線治療でしっかりと痛みが取れます。
その他に、鎮痛薬を使うことでも症状緩和ができます。

緩和ケアを行うことで痛みは必ず取れますので、安心してください。

以上、前立腺がんの早期の場合の治療と、進行して骨転移が起こった場合の治療についてお話しました。

前立腺がんは、多くの場合、ゆっくり進行するがんですが、中には急速に進行して骨などに転移を起こし、痛みが起こる場合があります。慌てず、しかし侮らずです。必ず、泌尿器科の専門医にかかりましょう。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

私は、緩和ケアをすべての人に知って欲しいと思っています。

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Dr.Tosh /四宮敏章
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