【できれば避けたい?】抗がん剤中止の話をうまく伝えるには【医】#49
こんにちは、心療内科医で緩和ケア医のDr. Toshです。緩和ケアの本流へようこそ。
緩和ケアは患者さん、ご家族のすべての身体とこころの苦しみを癒すことを使命にしています。
今日のテーマは「バッドニュースを伝える〜抗がん剤中止〜」です。
動画はこちらになります。
あなたは今までの診察の中で、患者さんにバッドニュースを伝える際に困ったことはありませんか?
以前、難治がんを伝えること、がんの再発を伝えることについての記事を作りました。
今回の抗がん剤の中止を伝えることは、それらよりもさらに厳しく、つらい話になります。また、この話は患者さんだけでなく、それまで治療を共にしてきた医師としても、つらい話です。
今日は、そんなつらい抗がん剤の中止を伝える際に、押さえておいてほしい大切なポイントについてお話します。
この記事は、がん治療医の先生、これからバッドニュースを伝える可能性がある若いドクターや医学生の方にも、ぜひ見ていただきたい記事です。これらの内容は、患者さんを最期まで支えたいと思っているあなたのお役に必ず立ちます。
ぜひ最後までご覧ください。今日もよろしくお願いします。
抗がん剤中止を伝える際に押さえなければいけないこと
抗がん剤中止を伝えるというバッドニュースは、患者さん・ご家族にとってとてもつらい話です。そして、伝える医師にとっても同様につらいものです。
抗がん剤ができないことを伝えることは、患者さんに死刑宣告をするようなものだと感じる医師も少なくありません。
その結果、無意識かもしれませんが、主治医が抗がん剤中止の話をあいまいにしたり、あえて淡々と伝えたりする場面を見ることがあります。すると、患者さん・ご家族は不信感を抱いたり、見放されているように感じることも少なくありません。
それでは、医師は抗がん剤中止をどのように伝えれば良いのでしょうか。抗がん剤中止を伝える際に、押さえなければいけないポイントは4つあります。
この4つです。それでは詳しく見ていきましょう。
ご家族と一緒に伝える
まず私が最初に申し上げたいことは、必ず本人に抗がん剤の中止を伝えなければいけないということです。一番良くないのは、ご家族だけに先に伝えることです。
「患者さんにとってとてもつらい話なのだから、まずご家族に話して理解してもらって、ご家族が本人のサポーターになってもらってから一緒に患者さんに話す方がいいじゃないか」と思う方もいるかもしれません。しかし、実は本人より先に、ご家族にだけ伝えるということは良くありません。
その理由は3つあります。
1つ目は、本人の話なのに第三者に話していることです。病気なのは患者さんであって、ご家族ではありません。患者さんご本人についての話は、本人にすることがまずは基本です。
2つ目は、ご家族に先に伝えることで、患者さんに話すかどうかを、ご家族が決めなければいけないと思ってしまうということです。ご家族は、患者さんに話すかどうかとても悩んでしまうのです。
そして3つ目には、先にご家族に話を伝えると「本人に伝えないでほしい」とご家族が言うことが多いということです。
後で患者さんに言おうと思っていても、家族が言わないでほしいと言うと、患者さんに事実を話せなくなってしまいます。その結果、患者さんはまだ治療ができるのではないかと思ってしまい、本来ならこの時点で本当に考えなければいけない「自分の最期の過ごし方」を考えることができなくなります。つまり、患者さんにとって本当に必要なことができなくなってしまうのです。
私はそのように、大事な時間を有意義に使えずに亡くなってしまった患者さんを、多く見てきました。患者さんには悔いのない人生を生きてほしいですよね。そのためには厳しくても、自分の現実を知るということがとても大切になってくるのです。
ベストなのは、本人とご家族一緒に伝えることです。なぜなら、このようなつらい話を患者さん本人だけに話すことも、患者さんにとっては厳しいことだからです。
2015年の国立がん研究センターの研究で、80%のがん患者さんが、家族だけ、もしくは家族に先に話すのを望んでいない。そして、76%の患者さんが、家族の同席を望むという報告があります。
バッドニュースを患者さん・ご家族が一緒に聞くことで、患者さん、ご家族共に覚悟ができ、これからのことを一緒に考えることができるようになるのです。そして、できればスタッフも同席し、一緒に聞く方が良いです。スタッフがすぐに患者さん・ご家族のサポートに入れるからです。
抗がん剤中止を明確に伝える
抗がん剤中止は、明確に伝えることが重要です。あいまいに伝えてしまうと、患者さんはまだまだ治療ができるのではないかと勘違いしてしまいます。
先ほども説明しましたが、そのように勘違いしてしまうと、もうできない抗がん剤の治療に焦点が当たってしまって、患者さんはこれからの人生のことを考えられなくなります。しかし、「いきなり中止です」というのも、患者さんにとって受け入れがたい場合が多いことも事実です。
伝え方には順番があり、それらは4つあります。
それではそれぞれ詳しく説明します。
1. 今までの治療を一緒に振り返る
まず、患者さんと一緒に今までの治療を振り返ってください。つらい時もあったでしょう。お互い頑張ったことを承認してください。
その際、忘れずにしてほしいことは、今までやってきた抗がん剤治療の目的は、がんを治すためのものではなく、QOLを高めて、できるだけ命を長らえるためのものだったということを再度確認することです。
QOLを高め、生活の質を高めることは、緩和ケアの目的でもあります。緩和ケアをしっかり行うことで、寿命が延びたという研究もあります。治療の目的を確認しておくことで、患者さんは抗がん剤を中止して緩和ケア中心の治療になっても、治療の目的は変わらないということを理解しやすくなります。
しかし患者さんによっては、今までの抗がん剤治療は完治のためだと思っている場合もあるかもしれません。本来ならもっと早い段階で、認識を聞いておく必要があったと思いますが、もし完治を目指した治療であると思っていたなら、ここでそうではなかったことを伝えてください。
2. 抗がん剤中止を伝え、その理由を説明する
そして、抗がん剤中止の話に入っていきますが、その前に抗がん剤が続けられる条件を説明してください。それは、①効果②体力③副作用の3つです。
その後、具体的に今の患者さんの身体の状態を説明し、抗がん剤の効果が無くなっていること、体力も落ちていること、今後抗がん剤を続けても副作用ばかりが大きくなってくる可能性が高く、今中止する方が良いということを伝えてください。
無理な抗がん剤治療を続けることは、むしろ命を縮めることになるし、やめることの方が、今後の生活を有意義にできるということも同時に説明してください。
3. これからの治療は緩和ケア主体になることを伝える
次に、抗がん剤をやめたとしてもお終いではなく、これからの治療の主体は緩和ケアになることを伝えてください。緩和ケアは早期から行うがん治療です。そして、緩和ケアの目的は、患者さんのQOLを高め生活を保つことです。
そういう意味では、これからの緩和ケア主体の治療も、いままでの抗がん剤治療の目的とさほど変わることではありません。先ほども言いましたが、緩和ケアをしっかり行うことで、寿命が延びたという研究もあり、実際にそういうケースを私はたくさん見てきました。
身体や気持のつらさをとる緩和ケアは今まで通り継続できること。そして自分もできる限りのことをするということを約束してあげてください。また、必要があれば専門的緩和ケアに紹介してください。
4. これからの生活について相談する
そして、これからの生活についての話を患者さんとします。具体的には、どこでどう過ごしたいか、どう生きたいか、大切にしたいものは何か、仕事について、家族についてなどです。
このことは、バッドニュースを伝えるその日にできなくてもかまいません。患者さんの気持ちが落ち着いていないと、そのようなことは考えられないかもしれないからです。けれども、次回以降には必ず話すようにしてください。
一度では話しきれないかもしれませんので、何回かに分けて聞いてみてください。在宅療養で最期まで家で過ごすことは可能なことであり、その際在宅医・訪問看護などの医療資源が必要で、介護保険など福祉の資源もあることなどを説明してください。これに加え、ホスピスという選択もあることも忘れないでお伝えください。最後に、これからも主治医としてできることをしっかりやらせていただくということを約束してください。
抗がん剤治療が終わっても主治医がしなければいけない仕事はまだまだたくさんあります。これは以前の記事でも詳しくお話していますので、参考になさってください。
患者さんへの配慮と自分自身の気持ちの扱い方
患者さんの気持ちへの配慮と自分自身の気持ちの扱い方もとても大事です。
患者さんは、抗がん剤中止を医師から言われると、自分の死が間近に迫ったと感じ、不安と恐怖にかられます。そういった気持ちを、医師であるあなたが感じることが大事なのです。
抗がん剤中止を伝えるという、とても繊細な場面なので、常に患者さんの表情やしぐさなどの、ノンバーバルな表現にも注意を向ける必要があります。もし可能なら、患者さんに「今どんなお気持ちですか?」と質問をしてみてください。患者さんから気持ちの表出があれば、受け取ってあげてください。
また医師自身も、医療や自分自身への失望感、患者さんに何もしてあげられなかったという無力感などが出てきても当たり前です。しかし、それを隠すのではなく自分の感情に直面し、率直に気持ちを伝えることが、むしろ患者さんのつらい感情を癒す働きもあるのです。
医師が患者さんと一緒につらい感情を共有することで、患者さんは癒されることが多いのです。
スピリチュアルペインの表出に備える
最後に申し上げたいことは「私は死ぬのですか」などの、スピリチュアルペインの表出に備えることです。
スピリチュアルペインは、人間なら誰しも持っている共通した苦悩です。医療者が、患者さんのつらさをわかろう、理解しようとする態度が、患者さんを癒します。
詳しくはスピリチュアルペインの記事を参考にしてみてください。
また、余命のことを聞かれることもあるかもしれません。患者さんが終末期で、予後予測ができる時期なら、しっかり答えてあげてください。患者さんは余命を知ることで、良い時間を過ごせる可能性が高くなります。
ところが、終末期でない場合は、余命は当たらないことが多いのです。患者さんには当たらない可能性があることを言ってから、再度聞きたいかを聞いてください。もし、それでも聞きたいと言ったら、必ず幅があること、余命とは中央値であることを説明してから答えてください。
けれども、患者さんが余命を現実よりも明らかに長く見積もっているとわかることもあります。そんな時は、自分の考える余命を私は伝えています。なぜなら、余命を長く見積もりすぎていると、自分のやりたいことを先延ばしにしてしまうことがあるからです。
余命についての詳しい話は、これからの記事で詳しくお話する予定です。
以上、抗がん剤中止というバッドニュースを伝えることについてお話してまいりました。
こういったバッドニュースを伝えることは誰しも苦手なものです。実際の場面で自分が本当に適切に話ができるのだろうかと、不安に思う先生も多いと思います。
そのような方のために、緩和医療学会・サイコオンコロジー学会では、コミュニケーションスキル・トレーニング:CSTというものをしています。
CSTでは、模擬患者さんを相手に、難治がん、再発、抗がんの中止を伝えるなどのトレーニングをしています。ホームページを載せておきますので、ぜひ参加してみてください。
抗がん剤中止を患者さんにしっかり伝えることができ、最期まで患者さんの人生を支えることのできるドクターが増えてほしいと願っています。
あなたに伝えたいメッセージ
今日のあなたに伝えたいメッセージは
最後まで読んでいただきありがとうございます。
私は、緩和ケアをすべての人に知って欲しいと思っています。
このnoteでは緩和ケアを皆様の身近なものにして、より良い人生を生きて欲しいと思い、患者さん・ご家族・医療者向けに発信をしています。
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