緩和ケアチームに知ってほしい「主治医との関係」を良好にする方法【医】#38
こんにちは、心療内科医で緩和ケア医のDr. Toshです。緩和ケアの本流へようこそ。
緩和ケアは患者さん、ご家族のすべての身体とこころの苦しみを癒すことを使命にしています。
今日のテーマは「緩和ケアチームの顧客は誰?」です。
動画はこちらになります。
私は現在、大学病院で緩和ケアチームの医師として働いています。緩和ケアチームの医師として最初に赴任した時に、主治医との関係がうまくいかず、結果として、その後患者さんに関われなくなってしまった苦い経験があります。
その理由は、私が緩和ケアチームは「コンサルタント」である、ということを理解していなかったためでした。
今日は、緩和ケアチームの方々に知ってほしい、主治医との付き合い方についてお話します。
この記事は緩和ケアチームに向けてのものですが、主治医の先生が観てくださると、緩和ケアチームについてより深く理解していただけると思います。
この記事の中では、緩和ケアチームと主治医が良好な関係を作っていくための具体的な方法もお話しますので、ぜひ最後までご覧ください。
今日もよろしくお願いします。
緩和ケアチームに求められること
私がホスピスから、大学病院に赴任して間もない時、私の失敗した経験についてお話しします。
呼吸器内科の主治医から「入院中の肺がんの患者さんに抗がん剤治療ができないというバッドニュースをしてから、患者さんの気持ちがかなり落ち込んでいるので、精神的ケアをしてほしい」という依頼がありました。
私はベッドサイドで患者さんの話を聞きました。
何度か足を運んで話を聞いているうちに、彼の表情も随分明るくなってきました。しかし、がんは急速に広がり、腹膜にも転移が進行し、腹水が急速に貯まってきました。
患者さんは、私にお腹が張ってきたので、腹水を抜いてほしいと言ってきました。そこで私は、呼吸器内科を研修中の研修医と一緒に、患者さんの腹水を抜きました。患者さんは楽になったと言ってくれました。
ところがそのあと、主治医が血相を変えて私のところへやってきて、「なんてことをしてくれたんだ、僕は緩和ケアチームには腹水を抜いてくれなんて頼んでいない、頼んでもいないことをしないでくれ!」と怒るのです。
ホスピスでは、腹水の貯まった患者さんには、私が常に腹水を抜いていたので、患者さんの苦痛をとるために腹水を抜くことは、緩和ケア医として当然のことだと思っていたので、とても戸惑いました。
しかし後で知りましたが、私のいる大学病院の呼吸器内科では、消化器症状で困っている時には、消化器内科に診てもらうことが一般的だったのです。主治医が私に望んではないことを私が勝手に行ったために、主治医は怒ったのでした。
緩和ケアチームはコンサルタント活動をするチームです。
コンサルタントの一般的な定義は、ある特定の分野において、専門的知識と経験を持ち、顧客が抱える問題に対して、相談に応じたり、助言をする人のことをいいます。例えば、企業コンサルタントの顧客といえば、会社の社長さんや役員です。
それでは緩和ケアチームの「顧客」とは誰でしょうか。もちろん私たちは医療者ですから、「顧客」は患者さん・ご家族であることは当然です。
しかし、それだけではありません。緩和ケアチームの顧客は主治医であり、患者さんが入院中なら病棟のスタッフも顧客なのです。
緩和ケアチームは、主治医やスタッフが抱える問題に対して、相談したり、助言をする人たちなのです。ですから緩和ケアチームは、主治医・スタッフが緩和ケアチームに求められることをしっかりと理解し、主治医・スタッフのニーズに応えられなければいけません。
先ほどの私の例で考えると、主治医が私に求めてきたことは患者さんの精神的ケアであって、腹水を抜くことではなかったのです。もちろん腹水のため、腹部膨満感で苦しむ患者さんの腹水を抜くことは、医学的には正しいことです。
ホスピスでは、私が主治医でしたので、私の判断で行うことには何の問題もありませんでした。しかし大学病院では、私は緩和ケアチームの一員で、主治医のコンサルタントなのです。
主治医の許可なく私が患者さんにしてしまったことは、コンサルタントとして失格でした。
まず主治医とよく話して、主治医が今何に困っているかをよく聞き、その困りごとを解決しなければいけなかったのです。そしてその後、腹水貯留で患者さんが困っていることを主治医に話し、相談すれば良かったのです。
緩和ケアチームは患者さんやご家族のトータルペインを癒すことを使命にしています。けれども、患者さんに直接、治療やケアをするのは主治医やスタッフです。そのために、緩和ケアチームが主治医やスタッフと良好な関係を築くことがとても重要になります。
したがって、まず最初に緩和ケアチームは、顧客である主治医・スタッフのニーズに応えなければいけません。
このことがとても重要であると私は思います。
緩和ケアチームの役割
緩和ケアチームの役割についてもう少し深く見ていきましょう。
先程申し上げたコンサルタントの定義は、「顧客の抱える問題に対して相談に応じたり、助言したりすること」でした。
企業コンサルタントは、社長や役員の相談に乗ったり、助言をする仕事です。決してコンサルタント自身が、社長の代わりに会社を経営するのではありません。
ですので、コンサルタントである緩和ケアチームも、主治医の相談に乗ったり、助言をする役割であり、決して自分が主治医になる立場ではありません。違う言葉で言えば、主治医の影で、主治医を助ける役だと私は思っています。
したがって、主治医とは常に良好な関係にいる必要があります。特に主治医と対立関係になることは避けなければなりません。
緩和ケアチームのコンサルタントとしての重要なポイントは、主治医と良好な関係を築きながら、主治医が患者さんに益をもたらすことを援助すること、だと思います。
そのためにまず最初にすべきことは、主治医のニーズを把握し、その解決をはかることです。主治医のニーズを解決することが、主治医との良好な関係を築くためには最善の方法だからです。まずは、このことに緩和ケアチームは全力で取り組む必要があります。
しかし、主治医・スタッフのニーズを解決するだけではありません。主治医・スタッフが理解していない、あるいは把握できていない、患者さんの問題が緩和ケアチームには見えることもよくあります。
私はそういった主治医・スタッフが、理解していない、あるいは把握できていない患者さんの問題を、「サイレントニーズ」と呼んでいます。
サイレントニーズにはどう対処すればよいでしょうか。
それにはポイントがあります。
サイレントニーズには、ニーズを解決してから取り組むということです。主治医・スタッフのニーズを解決することが先で、そのあとサイレントニーズの解決を考えることが大切です。
順番が大切だということをぜひ知ってください。
顧客のニーズとサイレントニーズ
それでは、例を示して説明します。
すい臓がんの70代男性の患者さんが、骨転移の痛みが悪化し、緊急入院してきました。緩和ケアチームは、主治医から疼痛緩和目的で紹介となりました。
緩和ケアチームが病棟に回診に行くと、胸椎転移による強い痛みの訴えがありました。しかし、それだけでなく、胸膜転移が新たに分かり、胸水貯留もきたしていました。その結果、患者さんは体動時の呼吸困難も訴えていました。
また、夜間不眠で点滴抜去するといった行為がみられました。夜間の過活動せん妄と診断しました。
さらには、病状は急速に進んでいるようでしたが、まだ抗がん剤治療が外来では続けられており、患者さん・ご家族の病状認識や、今後の予後などはまだ知らされていない状態でした。
以上の状況から、緩和ケアチームでは4つの問題点を挙げました。
このうち、①は主治医から依頼されたものです。したがって、主治医のニーズと言ってよいと思います。
ところが、②~④については、主治医からの直接の依頼はありません。したがって、②~④はサイレントニーズと考えます。
まず、①の疼痛に関しては、素早い対応が必要です。私なら、その日のうちに疼痛緩和ができるように努めます。
患者さんの痛みを早急に取ることが患者さんを楽にし、その結果、主治医との信頼関係が生まれます。
サイレントニーズの解決は、ニーズを解決してから、その後に行うようにします。
②の呼吸困難は身体症状ですので、比較的早急に緩和することが大事ですが、主治医は気づいていないことも多いので、その場合は、緩和の必要性を伝えることが必要です。
そのことを理解してもらったうえで、呼吸困難の症状緩和の対策を具体的に主治医に伝えます。
③のせん妄については、主治医がせん妄についての知識があまりない場合、ただ薬剤を勧めるのでは採用してもらえない場合があります。したがって、せん妄についてある程度説明してから薬剤を勧めます。
④の患者さん・ご家族の病状や予後の認識不足に関しては、医師同士の話し合いだけではなく、多職種を含めた話し合いにする必要があります。なぜなら、患者さんやご家族をフォローするのにたくさんの人の関わりが有効だからです。
しかし、これも順序があります。
身体、精神症状の緩和がある程度達成し、患者さんが楽になってから関わり始めた方がよいと思います。
以上のように、問題点を顧客である主治医のニーズとサイレントニーズに分け、順序立てて解決に導くことが大事なのです。
そのように、主治医のニーズとサイレントニーズを解決していくことで、だんだんと主治医との関係も良好になり、信頼関係も深まってきます。
主治医をはじめとする治療チームと緩和ケアチームが一丸となることで、本当の意味で患者さんやご家族のトータルペインを癒すことができるのです。
あなたに伝えたいメッセージ
今日のあなたに伝えたいメッセージは
最後まで読んでいただきありがとうございます。
私は、緩和ケアをすべての人に知って欲しいと思っています。
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