見出し画像

がんだと告げられた時に知っておくべきたった1つのこと【一歩踏み出そう】【患】#172

こんにちは、心療内科医で緩和ケア医のDr. Toshです。緩和ケアの本流へようこそ。

緩和ケアは患者さん、ご家族のすべての身体とこころの苦しみを癒すことを使命にしています。

今日のテーマは「がんと告げられた時、どうすればいいのか」です。

動画はこちらになります。

あなたが検診でがんを疑われ、専門病院に紹介されたとします。そこでは精密検査を行い、1週間後その結果を聞きに行きました。そこであなたは、がんと言われました。

その時あなたはどう感じるでしょうか。多くの方はショックを受け「まさか自分ががんになるなんて」と思います。そしてこれからどうすればよいかわからないと、不安でどうしようもなくなる方も少なくありません。

ここでは、もしあなたがそのようなショックを受けて、これからどうすればいいかわからない状態になった時にどうすればよいか、具体的な対処法についてもお話します。

この記事は、がん検診で精密検査を受けるように言われた方、これから精密検査の結果を聞きに行く方にもぜひ観ていただきたい記事です。ぜひ最後までご覧ください。

今日もよろしくお願いします。


がんと言われたら…

多くの人は、がんと告げられるとショックを受け、中にはパニックになる人もいます。

がんは昔に比べると、治る可能性は高くなってきています。しかし、がんは今でも死を連想させ、人生を左右する病気ですので、自分ががんだと言われるとショックを受けるのは当然です。

しかもほとんどの人は、それまで元気に仕事や生活をしていて、がんの兆候もないことが多いので、「まさか自分が」という思いになります。がんはかなり進行しないと、身体症状として現れることはありませんが、そのことを知っている人は少ないと思います。

がんであることを知った後、気持ちが落ち込み、何も考えられず、何も手が付けられなくなった、という人も多いです。食欲が落ち、夜も寝られなくなり、頭痛や吐き気などの身体の症状が起こったという人もいます。うつ病のようになったという人もいました。

しかしこれらのことは、実は長くは続きません。多くの人は、1~2週間くらいで徐々に元に戻ってきます。

こうした気持ちの落ち込みや身体の不調は、誰にでも起こることで、長くは続かないということを知ることが重要です。時間がたてば嵐は過ぎ去ります。まずは過ぎ去るのを待つことが大事です。

がんの広がりや治療方法がわかるのは、がんの種類にもよりますが、がんと知らされてから1~2週間から長くて1カ月程度です。治療法が決定すると、具体的な治療に入っていきます。しかしそれまでの間、患者さんの多くは「漠然とした不安」を抱えていると思います。

このような漠然とした不安を放っておくと、消えないばかりか、どんどん大きくなり、あなたの心は押し潰されそうになります。そうならないために、がんと知らされた皆さんにやってみてほしいことがあります。それは、自分の漠然とした不安を明らかにし、トータルペインで分類するということです。

緩和ケアで言うところのトータルペインとは、

①身体的苦痛
②精神的苦痛
③社会的苦痛
④スピリチュアルペイン

この4つです。

今あなたが感じている不安を書き出して、それを4つのトータルペインで分類して整理してみましょう。

この時期の不安は「これからどうなるのか、どうすれば良いか分からない」というところからきていることが多いのです。

そのわからないことを、4つのトータルペインごとに分類して整理してみてください。そしてそのあとは、分類した不安を具体的にどう対応していけばいいのかを考えましょう。

漠然とした不安を見える化することで、不安を小さくしたり、解消することができるのです。


不安をトータルペインで分類する

それでは具体的に不安を分類していきましょう。まず実際に、自分が持っている漠然とした不安を具体的にノートに書きだしてみましょう。そして、それらの出てきた不安を、先ほど述べたトータルペインに分類していきます。

皆さんがよく不安に思うことを挙げてみます。

「私のがんは今どんな状態なんだろう?」(身体)
「治る見込みはあるのか?」(身体)
「治療はどうなるのか?」(身体)

これらは身体に関する不安です。これは身体的苦痛に分類します。

「がんのことを考えるとドキドキする」(精神)
「毎日が不安」(精神)
「仕事や家事が手につかない」(精神)

これらは精神的苦痛です。

「仕事がどうなるのか不安」(社会)
「これからの治療費などお金が不安」(社会)
「家庭や会社、地域社会での役割が変化することへの不安」(社会)

これらは社会的苦痛です。

「なんで自分ががんになってしまったの?」(スピリチュアル)
「今までやってきたことは無意味だった?」(スピリチュアル)
「私は死んでしまうのか?」(スピリチュアル)

これらはスピリチュアルペインです。

まずはこのように、自分の不安を分類していきましょう。


分類した不安に対処する

次にすることは、先ほどの分類した項目に対して、具体的にどう対応していくかを考えることです。それでは先ほど例に挙げた項目に従って、一緒に考えていきましょう。

1.身体的苦痛

まず「身体的苦痛」で分類した項目を見ていきましょう。

先程の例で言うと、

「私のがんは今どんな状態なんだろう?」
「治る見込みはあるのか?」
「治療はどうなるのか?」でした。

この時期の身体的苦痛の多くは、病気そのものや、その治療についてがほとんどだと思います。また、進行がんの場合でしたら、痛みや呼吸困難などの症状が不安として挙がってくるでしょう。

身体的苦痛の不安を解消する一番の方法は、主治医に聞くことです。

最近では、ネットで検索すると、様々なことが書いてあり、自分で調べることも可能となってきています。しかし、ネットから得られる情報は玉石混合です。非常に有用なものもあれば、逆に有害なものも多いのです。

身体の状態は人それぞれです。ネットに書いてあったからと言って、あなたに当てはまるかどうかは全くわかりません。あなたの身体のことは主治医によく相談しましょう。

主治医はあなたの身体のことを一番よく知り、これからの治療のパートナーになってくれる人です。身体についての不安は、主治医にしっかりと納得いくまで話を聞きましょう。そのことでたいていの「身体的苦痛」は解決ができると思います。

2.精神的苦痛

次に「精神的苦痛」で分類した項目です。

「がんのことを考えるとドキドキする」
「毎日が不安」
「仕事や家事が手につかない」

こういったつらさは、多くの方が経験します。一言で言えば、気持ちのつらさです。

こういった気持ちのつらさは、ひとりで抱えていると、どんどん大きくなっていくものなのです。もちろん緩和ケアチームなどの専門家に相談することは良いと思いますが、あなたの信頼する人にあなたの気持ちのつらさを、ただただ聴いてもらうこともとても効果的です。

ここでのポイントはアドバイスをもらわずに、ただ聴いてもらうことです。つらい気持ちを吐き出し、受け取ってもらうだけで楽になることも多いのです。

精神的苦痛がある場合には、あなたの信頼できる人にあなたの話を聴いてもらうようにしましょう。

3.社会的苦痛

社会的苦痛で分類した項目は、

「仕事がどうなるのか不安」
「これからの治療費などお金が不安」
「家庭や会社、地域社会での役割が変化することへの不安」

などがありました。

これらも多くの患者さんが抱える苦痛です。社会的役割が明確な人ほど、これらのことを考えてしまいます。あなたが会社員として働いているなら、あなたの会社の上司、あるいは人事課などに相談することをお勧めします。

そうは言っても、「会社に自分の病気のことを知られると、今後のことが不利になるのでは?」と思う方は多いと思います。

昔はがんと分かると、閑職に追いやられたり、ひどいところだとクビになったりするところもあったようですが、今では多くの会社があなたの身になって考えてくれるようになっています。治療のために有給休暇を使うこともできますし、社会保険の種類によっては傷病手当金が出るところもあります。

病気のことを隠しながら治療を行うと無理をすることになり、結果的にあなたを苦しめることになるのです。ぜひ早めに相談してみてください。

治療費など、経済的な面も気になりますよね。

多くの病院には、がん相談・医療相談といった部署があります。ここでは、がんの治療費などの相談に乗ってくれます。

日本では国民すべてが、なんらかの公的保険に入っています。高額療養費などの制度も手厚いので、思ったほどの治療費にならないケースが多いです。経済的に目処が立つと安心する人が多いと思います。ですので心配な人は、早めに相談に行くことをお勧めします。

私たちは、家庭・会社・地域などで、何らかの役割をもって生活しています。
例えば家庭の場合、子どもの送り迎え、食事の世話などを、入院した時どうするのか。

会社の場合、自分がいない間の引継ぎをどうするのか。地域の場合、自治会の役割が続けられるのかどうか。このような問題が人それぞれたくさんあると思います。

がんになると、これらの役割が果たせなくなったり、一時的に休まなければならないこともあります。そういった細々としたことはたくさんあると思いますが、これらは一つ一つ具体的に挙げていった後に、関係者と早めに相談しておくことが必要です。

家庭の問題ならご家族と、会社なら会社の人たち、地域でしたらその関係者の方と相談してください。これらは具体的に一つ一つ行っていくことで、不安は解消されるでしょう。

4.スピリチュアルペイン

最後にスピリチュアルペインに分類した項目です。

「なんで自分ががんになってしまったの?」
「今までやってきたことは無意味だった?」
「私は死んでしまうのか?」

これらは、自分自身の死、自分の今までの生き方、自分の存在の意味などの、ある意味、哲学的・宗教的な問題や苦悩です。これらは誰かに相談して簡単に答えが出るものではありません。

けれども、

「がんになって初めて自分の死に直面して、人生を振り返ることができた。」

「がんをきっかけにして、自分自身の人生を真剣に考えるようになった。」

という患者さんも実は多いのです。

人はいずれ死にます。人生は有限です。

その限られた時間の中で、自分らしく満足した生き方をすることが、実はとても大切なことかもしれません。病気になるということは、そういった大事なことを考え、気付かせてくれる大きなチャンスです。

がんになったことを機会にして、今までの自分の人生を振り返ってみてください。
そしてぜひ、これからの人生をどのように生きたら満足なのかを考えてみてください。

以上、がんと言われたときに感じた不安を対処する方法について話してまいりました。これらをすることで、不安に負けず、今後の様々な事柄を自分で決めていける人が増えると幸いです。


あなたに伝えたいメッセージ

今日のあなたに伝えたいメッセージは

「がんと告げられると、誰しもが落ち込み、絶望的な気持ちになります。しかし、そのような状態は徐々に元に戻っていきます。まずは自分の不安をトータルペインで分類し、不安解決のスタートにしていきましょう。」

最後まで読んでいただきありがとうございます。

私は、緩和ケアをすべての人に知って欲しいと思っています。

このnoteでは緩和ケアを皆様の身近なものにして、より良い人生を生きて欲しいと思い、患者さん・ご家族・医療者向けに発信をしています。

あなたのお役に立った、と思っていただけたたら、ぜひ記事にスキを押して、フォローしてくだされば嬉しいです。

また、noteの執筆と並行してYouTubeでも発信しております。

患者さん・ご家族向けチャンネルはこちら

医療者向けチャンネルはこちら

お時間がある方は動画もご覧いただき、お役に立てていただければ幸いです。

また次回お会いしましょう。お大事に。

いいなと思ったら応援しよう!

Dr.Tosh /四宮敏章
ここまでお読み頂きありがとうございます。あなたのサポートが私と私をサポートしてくれる方々の励みになります。 ぜひ、よろしくお願いいたします。