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「亡くなるまでの1か月」は患者さんとご家族にとって、本当に大切で重要な時間です【家】#151

こんにちは、心療内科医で緩和ケア医のDr. Toshです。緩和ケアの本流へようこそ。

緩和ケアは患者さん、ご家族のすべての身体とこころの苦しみを癒すことを使命にしています。

今日のテーマは「亡くなる前の1か月」です。

動画はこちらになります。

以前「亡くなるまでの一週間」

「亡くなる直前に現れる五兆候」についてお話してきました。

これらの動画や記事は、多くの方に観ていただき、本当にありがたく思っています。

がんの終末期には、月単位、週単位、日単位、時間単位で、患者さんの状態が変わってきます。

日単位の変化については、「亡くなるまでの一週間」、時間単位の変化については、「亡くなる直前に現れる五兆候」で詳しくお話してきました。
今回は、週単位の変化についてお話します。

なぜこれらの動画を作ったのかというと、ご家族にとって「月単位」「週単位」「日単位」「時間単位」ではできることがそれぞれ違い、患者さんが亡くなるまでのプロセスを知って、最期の時を大切に過ごす準備ができるご家族が増えてほしいと思ったからです。

この記事で、亡くなる1か月前から患者さんの状況がどのように変化し、ご家族はその時、何をしたらいいのか、深く考えるきっかけになればうれしいです。

今日もよろしくお願いします。


余命1ヶ月の時期とは

がん患者さんの余命が1か月を切ると、それまでは比較的元気でいたのに急速に活動性が落ち、様々な症状が起こります。まずそのことを知っていただきたいと思います。

なぜなら、そのことを知らないでいると、ご家族が患者さんの病状の進行についていけず、あれよあれよという間に、患者さんが弱ってしまう姿を見なければいけなくなるからです。逆にあらかじめ知っておくと、心づもりや準備ができるのです。

お父さん がん図4

この図のように、がん患者さんは一般的に、それまでは比較的元気で、体調も大きく変わることなく過ごせていても、余命1か月を過ぎると、日常生活動作が急速に低下し始めます。

この変化は「先週できていたことが今週出来なくなった」というような変化で、1週間ごとに大きく変わっていきます。この変化を週単位の変化と言います。

画像2

次にこの図をご覧ください。

この図は、終末期によく起こる症状の変化を、亡くなる3ヶ月くらい前から、時間を追って示したものです。終末期によく起こる症状は、余命1~2か月頃から起こり始め、1か月を切れば、この図からも分かるように、急速に頻度が増えます。

ある1つの事例をお話します。

70歳、肺がんの男性患者さんの奥さんから、電話がありました。

「先週から急に体力が落ちました。今は食事は1割くらいに減りました。前から動くと息切れがありましたが、今はじっとしていても息がしんどいみたいで、昼間はほとんど寝ています。トイレに一人で行けなくなって、紙おむつを使っています。
話もかみ合わなくて、ボケたのかしら。先月は食事も8割は食べていたし、新聞もテレビも見ていました。一人で病院に通院もできていたんです。どうなってしまったのでしょうか。とても心配です。」

患者さんは在宅医の先生に診てもらっていたので、私から在宅医の先生に連絡を入れて、奥さんが心配していることを伝え、そろそろ週単位だということを共有しました。

在宅医の先生は、その後、必要な症状緩和をこまめにしてくれました。それから2週間後、患者さんは亡くなりました。この話がいわゆる週単位の変化になります。

多くの患者さんは、週単位から日単位、日単位から時間単位に変化が起き、そしてこの世から旅立っていくのです。

患者さんの病気がよくなるという希望を持つことはもちろん大切です。しかしこの時期、あなたにしていただきたいことは、今を大事にしてできるだけ患者さんのそばにいること。そして、もし亡くなった時のことも考え始めることです。


週単位の時期に起こりやすい5つの症状

それでは、1か月前から急に悪化することが多い症状について5点お話します。

①全般的な活動性の低下
全体的な活動が急に落ちたように感じます。昼間に寝る時間が増え、横になることが多くなり、患者さんは「身体がだるい、しんどい」と口にすることが多くなります。

②食欲低下
食欲が急に低下します。場合によっては、数口しか食べなくなる人もいます。また、体重が急に低下し、見るからに痩せてきたりします。

③息苦しさの増加
以前なら動いていた時に息苦しいと言っていた人が、今はじっとしてもしんどいと言ったりします。肺にがんがある人の多くがこのようになります。

④足などのむくみの増加
下肢の浮腫がひどくなったり、腹水が増す、胸水が増すなど、身体の体液が溜まりがちになります。寝たきりになると背中に浮腫を起こしたり、腕や顔にも浮腫が起きる場合もあります。

⑤意識に関する症状の悪化
意識の障害が現れることがあります。話がかみ合わなかったり、少し前のことをすぐに忘れたりします。変なものが見えるなどという人がいますが、これを私たちは、終末期せん妄と言います。

終末期せん妄については別の記事で詳しく話していますので参考にしてください。

これらのことは、すべてが一度に起こるのではなく、2つ3つ、少しずつ起こり、悪化することが多いです。これらのことが起こってきたら、残された時間が短いということを意識してください。


家族が準備すること

この時期に、ご家族であるあなたがすべきこと、準備すべきことをお話します。

知っておくことで、様々な準備をギリギリにしなくても済みます。また、そういった準備ができずに後悔してしまうことも防げるでしょう。

それでは、具体的にすべきことについてお話します。

①症状緩和のできる環境づくり
まず大事なことは、患者さんがつらい症状をしっかり取ってもらえる環境にいることです。

在宅でいるのなら、症状をしっかり取ってもらえるような在宅医や訪問看護ステーションの診察が定期的に行われることが大事です。もしまだなら、早急にお願いしましょう。ホスピスならば、基本的に症状緩和をしっかりと行ってくれるので、大丈夫だと思います。

先ほどもお話ししたように、亡くなる1~2か月前から、つらい症状が出現しやすいのです。そのような環境を作るために、お金がかかったり、仕事を休まなければいけないということを悩む方もいるかもしれません。

しかし、私の信頼している在宅医の先生は、「週単位の時期であれば、後悔しないためにも、できるなら、少し無理をしてでもしっかりと介護をした方が良い」とおっしゃいます。私も同じ気持ちです。しっかりとした症状緩和ができるように準備をしましょう。

②お別れの覚悟
がんが良くなるという希望を持つことは悪いことではありません。

私は実際に末期がんの状態で、がんが消えた方を見たことがあります。しかし、ほとんどの方はこの時期に亡くなります。

亡くなるということは、良い悪いではありません。人は必ず死ぬからです。それは、あなたも私も同じです。

お別れの覚悟ができなかったため、患者さんが亡くなった後に、つらい気持ちを長年抱えてしまう人を私は多く知っています。逆に、お別れの覚悟をすることで、その時はつらいかもしれませんが、旅立ちの時に落ち着いて、良い別れができるご家族も私はたくさん見てきました。

お別れを受け入れる覚悟は、ご家族にとって必要なのです。

③社会的問題を解決する
お葬式や遺産相続の準備などもこの時期までに行うことをお勧めします。なぜなら、この時期を過ぎると、しっかり患者さんと会話ができなくなることも多いからです。

死ぬ準備のように思い、躊躇するかもしれませんが、大事なことなので、ぜひしておいてください。

④3つのサポーターを作る
あなた自身も気持ちがつらくなる可能性があります。あなたを援助してくれるサポーターを作っておくことも重要です。

あなたの代わりに動いてくれる人、必要な情報を教えてくれる人と、情緒的なサポートをしてくれる人、この3種類のサポーターを見つけておきましょう。この3つのサポーターについても、別の記事で詳しく解説していますので参考になさってください。

⑤適度な息抜き
あなたが心身ともに疲れないようにする必要もあります。息抜きをすることに罪悪感を感じるご家族もいらっしゃいますが、リフレッシュする時間を作りましょう。在宅でいる場合は、レスパイト入院などを利用することをお勧めします。

⑥後悔しないと決める
最後にあなたに言いたいことは、「後悔しないと決めること」です。

あなたのその時できることを精一杯やったとしても、結果的にできないこともあります。間に合わないこともあります。

私は遺族外来もしていますが、一生懸命介護をしたご家族ほど、遺族になった時、多くの後悔の気持ちを持っているように思います。多くの方に後悔の気持は残ります。それは大事な人だからなのです。

たとえ不十分であったとしても、患者さんが亡くなる前に「後悔しないと決めること」が大事です。

後悔しないと決めて、今、あなたのできることをすればいいのです。大事な人との「今を生きる時間」を大切にしてください。亡くなる1か月前、あなたと大事な人が本当に良い時間を過ごせることを心から願っています。


あなたに伝えたいメッセージ

今日のあなたに伝えたいメッセージは

「がん患者さんの余命が1か月を過ぎると、急速に活動性が落ち、様々な症状が起こります。患者さんの病気がよくなるという希望を持つことはもちろん大事です。しかしこの時期、あなたがすべきことは、ともに今を生きる時間を大切にすること。そして、もし亡くなった時のことも考え始めることです。」

最後まで読んでいただきありがとうございます。

私は、緩和ケアをすべての人に知って欲しいと思っています。

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Dr.Tosh /四宮敏章
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