多くのがん患者さんを悩ませる味覚障害と医療者ができる改善策をお伝えします【医】#60
こんにちは、心療内科医で緩和ケア医のDr. Toshです。緩和ケアの本流へようこそ。
緩和ケアは患者さん、ご家族のすべての身体とこころの苦しみを癒すことを使命にしています。
今日のテーマは「がん患者さんを悩ませる味覚障害」です。
動画はこちらになります。
多くのがん患者さんを悩ませるものとして味覚障害があります。
何を食べても苦い、甘さを全く感じられない、何を食べても塩辛いなど、人によって様々な味覚障害があります。しかし、全員に共通することは、食事が全くおいしく食べられないという事なのです。それにより食事を積極的にとれなくなり、栄養不足になったり、人によっては抗がん剤治療が続けられなくなることもあります。
こんなつらい症状にも関らず、味覚障害は治せない、抗がん剤治療が終わればよくなるから我慢するしかない、と思われがちです。しかし、味覚障害を改善するために、医療者ができることはあります。
今日は、多くのがん患者さんを悩ませる味覚障害と医療者ができる改善策をお話します。
この記事は、がん患者さんの味覚障害を改善してあげたいと思っている医療者、医学生や若いドクターに見ていただきたい記事です。今日もよろしくお願いします。
がん患者さんの味覚障害は放っておいてはいけない
がん患者さんの訴える味覚障害の原因は多岐に渡ります。抗がん剤などの薬剤、放射線治療の後遺症、亜鉛欠乏、さらには口腔内の乾燥や口腔内カンジダ症など、多くの原因があります。
しかし、抗がん剤や放射線による味覚障害は、治療の副作用だから仕方がない、治療が終わったらいずれは戻るのでそれまでの我慢、と放置されているケースも多いのが現状ではないでしょうか。
味覚障害のある患者さんの多くは、食事をするのが苦痛になります。そうなると食欲低下が起こり栄養不足になります。そして、体力が低下し、ADLも低下します。その結果、治療継続ができなくなることもあるのです。また、食事の喜びが失われ、意欲低下が起き、うつにまでなる人もいます。
このように、味覚障害は患者さんにとってとてもつらいものなのです。
味覚障害は、根本的な治療はほとんど無いのが現状ですので、何もできることはないと思われがちですが、味覚障害の原因によっては治療可能なものもあります。また、治療ができなくても、多職種での関わりと工夫で、少しでも楽にさせてあげることは可能です。
では、味覚障害を訴える患者さんがいたらどうしたらいいのでしょうか。
私はいつも、その患者さんがどうして味覚障害になっているかの原因をまず考えます。次に、医師としてできる治療があればそれをします。そのうえで、多職種と連携してケアもしていきます。
まずはがん患者さんによくある味覚障害の原因と治療についてお話します。
味覚障害の原因と治療
先ほどもお話しましたが、味覚障害を訴える患者さんがいたら、私はその患者さんがどうして味覚障害になっているかの原因をまず考えます。
ここでは、がん患者さんによく見られる味覚要害の原因と医師ができる治療について述べていきたいと思います。
1抗がん剤
がん患者さんの味覚障害の原因として一番多いのが、抗がん剤です。
抗がん剤によって味蕾細胞が壊されたり、機能が低下することによって、味覚障害が起こります。味覚障害は抗がん剤を受けている患者さんの40%、造血幹細胞移植の患者さんの80%に起こり、分子標的薬の多くで起こります。また、パクリタキセルやドセタキセルといった、タキサン系抗がん剤などでもよく起こります。
これらのような、味覚障害が起こりやすい抗がん剤については、患者さんの動揺を軽減させるためにも、あらかじめ知らせておく必要があります。
もちろんこれらの抗がん剤をやめると味覚障害は徐々に軽快しますが、それには個人差がありますし、元に戻るのが年単位といった患者さんもいるので、医療者は、単純にやめたら治るから何もしなくていいと思ってはいけません。
抗がん剤が原因で味覚障害が起きたら、後ほどお話する早期から多職種による関わりが重要です。
2放射線治療
味覚障害の原因で次に多いのが、放射線治療です。
放射線によって味蕾細胞が破壊されるだけではなく、放射線による粘膜の炎症により、味覚障害が起こります。頭頚部がんなど、口腔領域に放射線をあてる場合、10Gyで出始め、40Gy以上でほぼ100%起こります。
治療後2~3カ月で良くなることがほとんどなので、あらかじめ伝えておくと患者さんは安心します。
これも先ほどの抗がん剤と同じく、治療後2~3カ月で良くなるからと言って、その間、放置してはいけません。早期から多職種による関わりが重要です。
3亜鉛欠乏
亜鉛欠乏は、原因としてはそれほど多くはありませんが、味覚障害の中で治療可能なものですので見逃してはいけません。亜鉛は味蕾細胞の新陳代謝に必要な栄養素なので、亜鉛が欠乏すると味覚障害になります。
亜鉛欠乏の原因としては、悪液質などによる栄養不良、肝障害や消化管に腫瘍が浸潤するなどの理由で亜鉛の吸収不足が起こることが考えられます。
治療方法としては亜鉛の投与です。血液検査でわかるので、がん患者さんに味覚障害がある場合は、血液検査で亜鉛を調べておきましょう。
4口腔内の異常
口腔内カンジダ症や唾液分泌低下による口腔内乾燥により、口腔内の異常が起きると、味覚障害になります。
口腔内カンジダ症は、ステロイドの長期投与が原因のことがほとんどなので、ステロイドの減量・中止が必要です。ただし減量・中止をしてもすぐには良くはなりません。抗真菌薬を口腔内に投与することで、1~2週間で改善することが多いです。
口腔内乾燥は薬剤で起こることが多く、抗コリン薬・オピオイド・抗ヒスタミン薬・抗うつ薬・安定剤・カルシウム拮抗剤など多くの薬剤で起こります。
薬剤を中止することですぐに改善することが多いですが、オピオイドなどやめられない薬もあるので、その場合は多職種によるケアが必要です。
また、サリベート®という口腔内乾燥を和らげる薬剤もありますが、味が良くないので、処方しても長く続かないことが多い印象です。漢方薬の半夏瀉心湯も有効な場合があり、私はよく使います。
5うつ
うつになると、精神症状以外に食欲低下や味覚障害が起こります。砂を噛んでいるようで全くおいしくないと訴える患者さんも多いです。がん患者さんの中にはうつになる人も多いので、注意が必要です。
治療としては、抗うつ薬などの薬剤が中心になりますが、よくわからない場合には、緩和ケアチーム・精神科・心療内科などの専門医にコンサルトしてください。
6その他
今まで説明した原因以外で味覚障害を起こす原因として、鉄欠乏性の貧血や、ビタミンB12不足による粘膜障害があります。その際は鉄やビタミンB12を投与することで改善します。
また、味覚神経の異常も味覚障害を起こします。原因としてはウイルス感染、腫瘍の圧迫、手術、脳梗塞などで起こります。ところがこの場合は治療が困難なので、多職種によるケアが必要です。
多職種でするケア
今まで、味覚障害の原因や治療についてお話してきました。
患者さんがどうして味覚障害になっているかの原因をまず考え、医師としてできる治療があれば、まずそれをします。味覚障害は治療ができない場合も多いのと、治療できる場合でも、改善に時間がかかるので、治療と並行して、多職種でチームを組んでケアに当たる必要があります。
次に多職種で行うケアについてお話します。
まず、主治医を始めとして、全てのスタッフに共通してできるケアとしては、患者さんの味覚障害のつらさや苦悩を傾聴して共感するということがあります。
患者さんは、味覚障害なんか言ってもしょうがない、我慢するしかないと思いがちです。ですので、味覚障害の患者さんには、積極的に医療者の方から話を聞いてあげることが必要です。患者さんは、つらい気持ちを聞いてもらった、受け取ってもらったということで、気持ちが楽になることが多いのです。
チームを組む職種として、緩和ケアチーム・看護師・栄養士・歯科医・歯科衛生士などがいます。主治医のあなたが声を掛けてチームを組んで、ケアに当たりましょう。味覚障害のケアは、障害の初期からの介入が望ましいと言われており、できるだけ早めに栄養士や歯科衛生士に声を掛けて、協力してもらうことが大事だと思います。
1.栄養士
味覚障害と一言で言っても、患者さんによって残っている味覚が違います。栄養士は、患者さんの味覚に合った食事の工夫をこまめにアドバイスしてくれます。
例えば、食事は冷ました方が食べやすい、食材を焼くよりは煮る方が食べやすい、だしをうまく使う、酢やソースを使って味付けに工夫する、といった細かいアドバイスをしてくれます。それでも食欲がアップしない場合には、適切な栄養補助食品の提供もしてくれます。
家族が心配しすぎて、良かれと思ってアドバイスをしすぎると、本人にはむしろ負担になることがあります。栄養士は、そんな家族にも適切な食事のアドバイスをしてくれます。
2.歯科医・歯科衛生士
味覚障害のケアにおいて、口腔内を清潔に保つことは重要ですが、セルフケアでは不十分なことが実は多いのです。
歯科医や歯科衛生士とチームを組むことで、口腔内の清掃・保湿・ブラッシングを実際にしてくれます。また、患者さんが自分でケアできるように、指導もしてくれます。
味覚障害のケアにおいて、歯科医・歯科衛生士は欠かせない存在です。
患者さんがしている工夫
ここまで、医療者ができる味覚障害の治療とケアについてお話してきましたが、患者さん自身も様々な工夫をして、日々過ごしています。
皆さんがどんな工夫をしているのか少しですが紹介します。
ある患者さんはもともと薄味が好みだったので、カップラーメンのような濃い味のものは嫌いでした。ところが、味覚障害になり、濃い味しか感じなくなりました。また、一般的に味覚障害の人は熱いものは刺激が強いので食べにくいのです。
そこで栄養士から、カップラーメンに氷を入れて冷やしたものを勧められたので食べてみたところ、とてもおいしく感じたそうです。「カップラーメンを初めておいしいと思いました。」とその患者さんは嬉しそうに教えてくれました。
普通のご飯が苦くて全く食べられなくなった患者さんがいました。
お酢を入れるとさっぱりして食べやすいですよ、とアドバイスしたところ、その患者さんはご飯にすし酢を入れて、酢飯にして食べてみました。するとおいしく食べられそうです。
その患者さんは「好きなご飯が食べられなくてつらかったけど、酢飯にしたら意外においしく食べられてとてもうれしかった。」とおっしゃっていました。
また別の患者さんは、味覚障害で何を食べても刺激を感じ、食欲が全くなくなってしまいました。そこで栄養士から、たんぱく質の補充のためにも、かにかまぼこがいいとお勧めされました。
彼は「コンビニやスーパーなんかで売っている、かにそっくりのかにかまぼこのスティックは、刺激もなくするっと食べられておいしかった。カニを食べている気分にもなれたし、タンパク質も多いし、おやつにはぴったりや。」とおっしゃっていました。
様々な工夫がありますね。色んな人の知恵を集めたら、もっと患者さんのお役に立ちそうですね。もしこれ以外にも何か知っていることがありましたら、ぜひコメント欄で教えてくださいね。
以上、味覚障害の患者さんの治療とケアについてお話してまいりました。
味覚障害を正しくアセスメントし、治療できる場合には治療を、それが難しい場合でも、多職種によるケアや工夫で、患者さんの味覚障害を少しでも和らげてあげてください。
あなたに伝えたいメッセージ
今日のあなたに伝えたいメッセージは
最後まで読んでいただきありがとうございます。
私は、緩和ケアをすべての人に知って欲しいと思っています。
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