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【基本的緩和ケア】がん終末期に治療医ができる6つのこと【医】#9

こんにちは、心療内科医で緩和ケア医のDr.Toshです。緩和ケアの本流へようこそ。

緩和ケアは患者さん、ご家族のすべての身体とこころの苦しみを癒すことを使命にしています。

今日のテーマは「がん終末期に治療医ができる6つのこと」です。今日は若い治療医の先生方にお話します。

動画はこちらになります。

最近、若い先生から次のような悩みを打ち明けられました。

「がん患者さんの治療が終わったら、何もしてあげられないので、患者さんの部屋から足が遠ざかってしまいます。それではいけないのではないかと思うけれど、どうしたらいいかわかりません。」

私は、何もしてあげられないと思っているのか、それはとても誤解しているなと思い、彼と話しました。

そして、彼のように思っている若い先生も多いかもしれないと思い、この記事を作ることにしました。

この記事では、積極的抗がん治療を終了後でも、治療医の先生が患者さんやご家族にしてあげられることをたくさん紹介しますので、ぜひ最後までご覧ください。

今日もよろしくお願いします。


積極的抗がん治療後も基本的緩和ケアはできる

若い治療医の先生で、積極的抗がん治療ができなくなると、患者さんにしてあげられることはもうないと思っている方はいるでしょうか。あるいは、積極的抗がん治療が終わったら、自分の仕事は終わりだと思っていませんか?

それはとても大きな誤解です。

積極的抗がん治療が終わったがん患者さんに対して、私たち医療者がしてあげられる、いや、しなければならない治療があります。それは緩和ケアです。

がん治療において、手術・放射線・抗がん剤に加え、緩和ケアは4番目の治療として、重要な位置づけがなされています。

抗がん治療と一緒に行う緩和ケアの多くの部分は基本的緩和ケアと言って、治療医の先生方が行う緩和ケアです。それに対して、緩和ケア医がする緩和ケアを専門的緩和ケアと呼んでいます。

多くの先生方は、ピース研修会で基本的緩和ケアを学んだと思います。

そして、手術・放射線・抗がん剤といった積極的抗がん治療ができなくなったとしても、緩和ケアは継続してできるがん治療なのです。

でも、そんなときの緩和ケアは、緩和ケア医がする専門的緩和ケアであって、治療医の仕事ではないのでは、と思っている先生方もいるかもしれません。でも実は、積極的抗がん治療が終わったがん患者さんに対して、治療医の先生たちにぜひしていただきたい基本的緩和ケアがあるのです。

この治療が終わった後の基本的緩和ケアこそ、治療医の先生、すなわち主治医にぜひしていただきたい大切なことなのです。

そのことを今からお話していきます。


治療終了後の基本的緩和ケア

1. ACP:アドバンスケア・プラニング
ACP:アドバンスケア・プラニングは、最期まで自分らしく生きるため、患者さんがこれからどんな治療や生活をするか、最期の療養先も含め自己決定するために、ご家族や医療者と一緒に話しあうことです。

今の病状や予後を、患者さん・ご家族に説明するのは、主治医にしかできません。
今後どんな症状が出現するか、場合によっては残された余命についても、患者さん・ご家族にわかりやすく説明していただきたいと思います。

そのことで、患者さんは今後の生き方を自己決定することが可能になるのです。
そして、家族にもしっかりと病状説明をし、今後の代理意思決定者になってもらってください。

患者さんが、これからの生き方を自己決定するために、主治医であるあなたのサポートはなくてはならないものです。そのためにACPはとても大切な基本的緩和ケアなのです。

2. 地域に繋げる
ACPをした結果、在宅に帰りたい、ホスピスに行きたいと患者さんが思った時、その架け橋になるのも主治医の役割です。

もちろん医師1人だけではできません。病院のMSWや看護師などの医療スタッフ、緩和ケアチームといった病院側の医療者があなたと一緒にチームになります。

そして、患者さんが在宅医療を希望するなら、ケアマネージャー・訪問看護師・在宅医といった、在宅の医療者チームに繋げなければいけません。あるいは、ホスピスを希望されたら、あなたがホスピスの担当医に連絡して引き継ぐ必要があります。

患者さんが病院から地域に帰るときには、あなたが中心となって、バトンを渡してほしいのです。いわば、司令塔の働きが、主治医の役割なのです。

あなたが、司令塔として働くことで、患者さん・ご家族が安心して、地域に帰ることができるのです。

3. 精神的なサポート
もうこれ以上積極的な抗がん治療ができないと聞かされた多くの患者さんは、とても不安な気持ちになっています。そんな患者さんの不安や恐怖を聞いてあげることが必要です。

もちろん、緩和ケアチームや精神医療の専門家に任せることもできるでしょう。しかし、今まで一緒に頑張ってきた主治医のあなたが、患者さんのつらい不安な気持ちを聞いて受け取ってあげることができたら、患者さんにとってこれほど嬉しいことはないと思います。

ぜひ、患者さんのつらい気持ちを聴き、受け取り、共感してあげてください。

そうは言ってもどう声をかけていいかわからないという先生もいると思います。最初に紹介した先生もそうでした。

確かに声をかけにくい状況だとは思います。しかし、そんな時だからこそ、そばにいて気持ちを聞いてあげてください。

かける言葉がないのなら、何も言わなくてもいいのです。気持ちを受け取ってあげましょう。

「こんなに頑張ってきたのに治療がうまくいかなくてごめん。」と言って患者さんと一緒に泣いた先生もいました。患者さんは一緒に泣いて、その後自分の状況を受け入れたように見えました。

このような精神的なサポートも、主治医のあなただからこそできる基本的緩和ケアなのです。

4. 身体症状の緩和
積極的抗がん治療ができなくなった患者さんは、疼痛・呼吸困難・倦怠感など身体的な症状を訴える場合も少なくありません。

その時はまず、あなたにできる身体症状の緩和をしてあげてください。そしてそれが難しくなったら、緩和ケアチームや院内の専門家チームに相談しましょう。

専門的緩和ケアに繋げることも、基本的緩和ケアの大きな役割です。

ただ、専門的緩和ケアに繋げて、すべてを任すのではなく、一緒に症状緩和をするという意識は大切です。そういった主治医の姿勢が患者さんの安心感に繋がるからです。

5. 看取り
最近では、治療病院で最期を迎える患者さんは減ってはきていますが、様々な事情で病院で最期を迎える患者さんはいます。その時は、あなたが終末期の緩和ケアを主体的に行い、最期は安らかな旅立ちを手伝ってあげてください。

具体的には、苦痛なく患者さんが最期を迎えることはもちろんですが、最期の時間をご家族や大切な方と一緒に過ごさせてあげることや、看取りの際の死亡宣告の作法もきちんと行ってください。

もちろん、緩和ケアチームなどの援助もしっかり受けましょう。

また、ご家族も大事な人の終末期には、心身共に疲れる方がとても多くなります。
その際のご家族の精神的ケアの担い手にもなってください。

6. 遺族ケア
患者さんが亡くなった後、ご家族は遺族になられるわけですが、悲しみやつらさ、後悔の気持ちを抱えた遺族の方はたくさんいらっしゃいます。

そんな時に主治医ができる遺族ケアも実はあります。

後悔の気持ちを抱える遺族の中で少なくないものに、

「鎮静をしたことで寿命が短くなったのではないか。」
「モルヒネを使ったことが悪かったのではないか。」

などというものがあります。

これらは医学的な事実が理解できていないために起こる誤解です。この誤解を解くことは、医師であるあなたにできることです。誤解が解けたことで、後悔の気持ちが軽くなった遺族を私は数多く見てきました。

遺族が後悔の気持ちで患者さんの最期について聞いてきたら、責任をもって医学的な説明をしてあげてください。

以上、治療医の先生方にできる、積極的抗がん治療終了後の基本的緩和ケアについて話してまいりました。

今後皆さんが患者さんにしてあげられることの一助になればうれしいです。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

私は、緩和ケアをすべての人に知って欲しいと思っています。

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