終末期後期に起こりやすい独特の口臭の原因と対策を緩和ケア医が具体的に解説します
こんにちは、心療内科医で緩和ケア医のDr. Toshです。緩和ケアの本流へようこそ。
緩和ケアは患者さん、ご家族のすべての身体とこころの苦しみを癒すことを使命にしています。
今日のテーマは「臨死期独特の口臭」です。
動画はこちらになります。
以前、「亡くなる直前に現れる5兆候」(#100)という記事を作りました。
ここでは、患者さんが日単位・時間単位の頃の臨死期に起こる症状についてお話しました。
実は、この5兆候以外に、臨死期に起こる症状はいくつかあります。その1つは「独特な口臭」です。これがひどくなると、ご家族が患者さんの最期に寄り添う際の障壁になってしまいます。
この口臭は臨死期に起こる、取り去ることができない症状だと思われがちです。
実は以前の私もそう思っていました。しかし、臨死期独特の口臭は改善できます。
この記事の中では、その口臭の原因と対策についても詳しくお話しますので、ぜひ最後までご覧ください。
この記事は、臨死期独特の口臭を何とかしたいと思っている方、患者さんとご家族が最期まで良い時間を作るための手助けをしたいと思っている医療者、そして、終末期のがん患者さんのご家族にも観ていただきたい記事です。
この内容を知っておくことで、終末期の患者さん・ご家族が、最期の良い時間を作るための手助けに必ずなります。今日もよろしくお願いします。
口臭を放置していたかつての私
先ほども言いましたが、以前私は臨死期に起こる独特な口臭は、取り去ることができない症状だと思っていました。これには訳があります。
私がホスピスを立ち上げる際に、実習に行ったホスピスで、臨死期の患者さんを見ました。意識も混濁状態になっている患者さんの顔に近づくと、独特の口臭を放っていることに気が付きました。これは何とも言えない臭いで、近付くこともはばかられるような感じだったのですが、この時は、たまたまこの患者さんにこの臭いがあるのかなと、深くは考えませんでした。
その後、ホスピスを立ち上げた後に、臨死期の多くの患者さんが同様の口臭をしていたことを経験しました。そしてこの時期の患者さんは同時に、死前喘鳴・下顎呼吸・四肢のチアノーゼなどの、臨死期特有の取り去ることのできない症状が起こっていました。
と私は勝手に思い込んでいました。
「口臭は取れないのですか?」と聞いてくる家族もいましたが、終末期の症状で取り去ることは難しいと説明し、なんとか理解してもらっていました。その後、私は大学病院勤務になり、緩和ケアチームの一員として働くようになりました。
ある日の回診で、病棟を回っていた時のことです。終末期後期で、意識混濁状態の患者さんのもとに行った時に、ベッドサイドで患者さんのいとこだという男性が私に声を掛けてきました。
「患者の口腔ケアができていないですね。ちゃんとケアをすると口臭は取れますよ。今まで他の家族からクレームは無かったのですか?」と言われました。
実は彼は歯科医だったのです。「そうだったの?本当にこの臭いって取れるの?」と私は心底驚きました。
彼は親切にも、同行していた緩和ケアチームの看護師と私に、詳しい口腔ケアの方法を教えてくれました。口腔ケアの具体的な方法については後ほどお話します。
その後、彼から教えてもらった口腔ケアを病棟の看護師にも伝え、すぐに実践してもらいました。すると驚くことに、翌日から患者さんの口臭は劇的に改善しました。
この臨死期の独特な口臭は、改善できないものだと、勝手に私が思い込んでいただけだったのです。
臨死期独特の口臭は取り去ることができる
先ほどの話のように、臨死期独特の口臭は、取り去ることができないものだと思われがちです。実際に私もそうでした。しかし、臨死期独特の口臭は、ケアすることで取り去ることができるのです。
ケアで臭いが取れることで、ご家族が安心して患者さんの傍で見守ることができるのです。私は、臨死期の患者さんの口臭は取れないと、多くの家族に言って、彼らに我慢させてきたことを、非常に申し訳なく思っています。この場を借りて深くお詫びします。
ぜひ皆さんは、口臭除去のケアで臭いを軽減し、ご家族が安心して傍で寄り添えるための手助けをしてください。
臨死期独特の口臭の原因
まず始めに臨死期独特の口臭の原因についてお話します。口臭には原因があり、その原因を取り去ることで、口臭を消すことができるからです。それでは口臭の原因を具体的にお話します。
1. 舌苔に生じる嫌気性菌が発する悪臭
臨死期になり意識が低下してくると、唾液が出なくなるので、口腔内の自浄作用が不十分になってきます。そのことで、舌苔の除去ができなくなってきます。舌苔に生じる嫌気性菌が出す揮発性の硫黄硫化物が、悪臭の原因であることが多いのです。
健康な状態であれば、この悪臭物質は唾液が分解してくれます。しかし、この時期の患者さんの80%以上が、唾液分泌が低下しているので、臭いが取れなくなっているのです。
2. 不潔物質や痰のこびりつき
また、十分なブラッシングができていないと、歯に付着した不潔物質や、痰のこびりつきが口腔内にとどまり、悪臭を発生します。唾液が出ずに口腔内が乾燥しているので、臭いはさらに悪化します。
3. 出血による生臭さ
何らかの理由で出血傾向になり、口腔内が出血している場合も、出血による生臭い何とも言えない口臭が発生することがあります。口唇や口角からの出血であれば、口腔内カンジタ症が原因のことがあります。
4. 腫瘍からの異臭
頭頚部がんなどでは、口腔内にがんが突出してくると、がんから発生する悪臭が問題となります。これも嫌気性菌が出す悪臭物質が問題となることが多いので、その対策をします。
5. イレウスによる便臭
イレウスになると、消化管に貯留した糞便が、上部消化管に上がってきて、便臭が起こることがあります。
6. 肝機能悪化によるアンモニア臭
また、肝硬変末期では、肝機能悪化に伴う高アンモニア血症による、アンモニア臭を起こすこともあります。
以上、この6つが臨死期独特の口臭の原因だと考えられます。
臨死期独特の口臭の対策
次に、具体的な口臭の対策について述べたいと思います。まず基本的な対策についてお話します。
まずは歯のブラッシングです。ただし、出血を誘発することもあるので、できるだけ優しく行います。
次に、口腔用のスポンジで、口の中をぬぐい取ります。口腔内の乾燥がひどいようなら、口腔内を適度に湿らせてから行ってください。
その後保湿剤を口腔内と口唇に塗布します。もし、口腔内に腫瘍や傷があれば、ガーゼやオプサイトを使って創部を覆います。
それでは次に、各々の原因別による対策をお話します。
1. 舌苔に生じる嫌気性菌が発する悪臭
舌苔の除去には舌ブラシが効果的ですが、終末期の患者さんには粘膜を傷つける可能性があるため、できるだけ優しく行ってください。乾燥が強い場合は、ごま油などを塗布した後、数時間経ってから行うと良いでしょう。
ごま油は匂いのないタイプがあるので、それを使うようにしましょう。カンジダが原因であれば、舌苔のケアをした後に、フロリードゲル®やファンギゾンシロップ®などの塗布を行ってください。
2. 不潔物質や痰のこびりつき
不潔物質や痰のこびりつきは、先ほど述べたブラッシングをしっかりと行い、口腔内の洗浄を定期的に行ってください。ケア後に、先ほど述べたごま油を塗布しておけば、痰のこびりつきが予防できることがあります。
3. 出血による生臭さ
出血による生臭いにおいのケアは、場合によってはケア自体で出血を悪化させることがあるので、慎重に行う必要があります。基本的には、先ほど述べた口腔内のケアと同じです。
口腔内に血の塊がある場合は、ごま油を浸透させ、ゆっくりと取ってください。またカンジタが原因であれば、出血のケアの後に、フロリードゲル®やファンギゾンシロップ®の塗布を行ってください。
4. 腫瘍からの異臭
頭頸部がんなどで、口の中に腫瘍が突出してきた時に、腫瘍からの異臭が起こる場合もあります。そんな場合、ロゼックスゲル®を使います。
まず、ロゼックスゲル®を倍量の水に合わせて混ぜると、泡状になります。それを使い、創部を泡洗浄します。その後、ガーゼにロゼックスゲル®を塗布して再度創部を覆ってください。
5. イレウスによる便臭
イレウスになると多くの場合、胃管やPTEGで減圧していることが多いと思います。挿入している胃管やPTEGから漏れた廃液から便臭がするので、出てきた廃液は外に漏れないように、廃液バッグとの接続部分がずれやゆるみが無いか気を付け、密閉できるようにしましょう。
6. 肝機能悪化によるアンモニア臭
肝機能悪化によるアンモニア臭の消臭は、残念ながら根本的には困難です。脱臭剤、消臭剤、ミント・ユーカリや柑橘系のさわやかな匂いのアロマオイルを使って、少しでも患者さんが快適に過ごせるように工夫しましょう。
以上、臨死期の口臭の原因とその対策について述べてまいりました。
これらを行うことで、ご家族が気持ちよく安心して、患者さんと最期の時間を過ごせるようにしてあげてください。
あなたに伝えたいメッセージ
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