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治療医のあなたが知っていたら必ず得する疼痛緩和術・IVR(がん性疼痛)【医】#39
こんにちは、心療内科医で緩和ケア医のDr. Toshです。緩和ケアの本流へようこそ。
緩和ケアは患者さん、ご家族のすべての身体とこころの苦しみを癒すことを使命にしています。
今日のテーマは「これから絶対に広がるがん治療~IVR~」です。今日はがん治療医の先生にお話します。
動画はこちらになります。
皆さんが治療しているがん患者さんが、痛みを訴えた時どうしていますか?
多くの先生がたは、自分で鎮痛薬を患者さんに処方して、疼痛緩和をしていると思います。しかし、それだけでは痛みが取れないときもあると思います。
そんな時、どうしていますか?
緩和ケアチームがあれば、疼痛緩和の依頼をするかもしれません。骨転移の痛みがあるときは、放射線治療科の先生に依頼して、放射線照射をしてもらうでしょう。あるいは、整形外科・ペインクリニックの専門家がいれば、依頼もできるでしょう。
この記事では、疼痛緩和ができる治療科をもう一つ、皆さんにご紹介します。
それは、IVRという手技を使う放射線科です。
この記事では、IVRでつらい痛みが全く無くなったケースや、IVRでできる疼痛以外の症状緩和についてもお話しますので、ぜひ最後までご覧ください。
今日もよろしくお願いします。
難治性がん性疼痛の大きなオプション:IVR
IVRとは、Interventional Radiologyの略で、エコー・CTなどの画像診断装置を使用しながら、体内にカテーテルや針を入れて病気を治す治療法のことです。主として、放射線科の医師がこのIVRを担当します。
一通りの疼痛緩和をしても十分な疼痛緩和が難しい、難治性がん性疼痛に、IVRは非常に効果を発揮する方法です。
私は難治性疼痛を訴える患者さんにIVRをしてもらって、痛みが全くなくなったケースをたくさん経験しました。
またIVRは胸水・腹水やイレウスに対する症状緩和、さらには上大静脈症候群などのつらい症状緩和にも非常に有効です。
今回、皆さんにIVRのことを知ってもらって、ぜひ疼痛緩和のオプションのひとつに入れてほしいと思っています。IVRが広がることで、つらい症状で苦しむ患者さんが減るでしょう。
私は、IVRはこれからの緩和ケアにはなくてはならないものだと確信しています。
こんなにすごいIVR
まず、最近私が経験したケースを紹介します。
膀胱がんの50代男性です。3年前摘出術を行い、抗がん剤治療を行いましたが、2年後再発しました。骨盤内のリンパ節に転移があり、左会陰部痛の疼痛緩和目的で緩和ケアチームに紹介がありました。
外来でオピオイドなどの投与を行いコントロールしていましたが、徐々に悪化し、痛みは左の大腿部にまで広がってきました。画像では左の腸腰筋内のリンパ節にがんの転移が見られ、それが腰椎から出る神経を圧迫して、神経障害性の疼痛が生じていることがわかりました。
鎮痛薬を増量するとともに、麻酔科のペインクリニック担当の先生に診てもらい、ブロック注射をしてもらいました。その効果もあり、一時的には痛みは軽快しましたが、しばらくすると再度痛みは悪化しました。ブロック注射は何度も繰り返すと神経を損傷してしまうことになるので、ブロック注射は何回か行った後、中止となりました。
私は考えられる鎮痛薬を投与しましたが、痛みは取れるどころか、むしろ悪化していきました。
患者さんは、痛みで全く家から外出できない状態になりました。そんな時、IVRをしてもらったらどうか、という考えが私の頭に浮かびました。
そして、放射線科の先生に相談したところ、「できますよ」とすぐに言っていただき、IVRの中でもラジオ波による焼灼術(しょうしゃくじゅつ)をしてもらいました。すると、翌日から痛みは全く無くなったのです。大量の鎮痛薬も徐々に減らしていけました。
患者さんは今では仕事にも復帰でき、抗がん治療も継続できています。
どんなに薬を使っても取れなかった痛みが、IVRの翌日には全くなくなったのです。本当にすごい効果だと思い、私も患者さんも感動しました。
疼痛緩和としてのIVRは、とても画期的で患者さんの役に立つので、治療医の先生の選択肢として、ぜひ自分の引き出しに入れてほしいと思っています。
IVRとは
一般的に、IVRは肝臓がんに対するTAEなど、がんの治療に用いられてきた歴史があります。他にも、出血の緊急止血などのエマージェンシー治療にもよく行われています。
昔に比べ最近は、被ばく量も少なくなり、短期間の入院で治療可能になってきました。そして、何よりもがんの疼痛緩和にとても有用なのです。このことはぜひ知っておいてください。
では、IVRによるがんの疼痛緩和の具体的な方法についてお話します。
1.RFA
RFA(Radiofrequency ablation)とは、ラジオ波焼灼法(しょうしゃくほう)のことです。RFAは、CTガイド下で体外から針を刺して、腫瘍を焼き切りきることで、腫瘍による疼痛を緩和する方法です。
骨転移による痛みや、神経を傷害することで起こる神経障害性疼痛に威力を発揮します。放射線治療ができないときや、即効性を期待するときには良い適応だと思います。
70%の有効率があり、安全性も確認されており、今後ますます期待できる方法だと思います。
2. TAE
TAE(Transarterial Embolization)とは、動脈塞栓術のことです。動脈にカテーテルを挿入し、腫瘍の栄養血管に選択的に塞栓物質を入れることで腫瘍を壊死させる方法です。
これもRFAと同じく即効性が期待できます60~80%の奏効率だそうです。
ただ、まだエビデンスが不十分な点が問題です。
3. PVP
PVP(Percutaneous Vertebroplasty)とは経皮的椎体形成術のことで、骨折により不安定になった骨を、骨セメントにより補強する事により、痛みを軽減する方法です。
骨腫瘍や骨転移などの痛みだけではなく、圧迫骨折にも有効だと言われています。骨折自体による痛みに効果があるので、いわゆる神経痛には効果がありません。
全体として90%以上の方に何らかの効果があると言われています。特に50%では全く痛みが無くなるとされ、残りの方も痛み止めが必要なくなる、あるいは減らす事が出来るなどの効果があります。
治療を行う前より症状が悪くなる事はほとんどないそうです。
以上、3種類のIVRについてお話しました。いずれも優れた方法と思います。
疼痛緩和だけではないIVR
IVRは疼痛緩和だけではなく、それ以外の症状緩和にも使えます。それを具体的にご紹介します。
1.デンバーシャント(腹腔静脈シャント)
デンバーシャントは腹腔静脈シャントとも呼ばれ、腹水のコントロールにはとても優れた方法です。シャントカテーテルの片方を腹腔に,他方を心臓に戻る中心静脈に挿入します。
皮下トンネルといって、カテーテルを皮下に埋め込み、外からはわからないようにします。腹腔内の圧力を利用して、腹水を血中に環流させる方法です。
デンバーシャントは腹水・胸水の治療として大変効果があるばかりではなく、外から全く見えないので患者さんのQOLを保つこともでき、患者さんからはとても喜ばれる治療法です。
およそ80%の患者さんで症状緩和が得られるとされています。
2.イレウスに対するPTEG
がん性腹膜炎が悪化すると、イレウスになります。
通常、胃管や、イレウス管を鼻から挿入しますが、これらは患者さんのQOLを著しく低下させます。最近では、PTEGといって頸部食道に穿刺し、胃管を挿入する方法があります。
これだと、患者さんの異物感は全くなくなり、QOLが改善されます。
3.上大静脈症候群に対する緩和的ステント留置
上大静脈症候群は腫瘍による大静脈の圧迫、浸潤により起こります。
顔面・上肢の浮腫が起こり、重症になると呼吸困難や意識障害も起こします。これはいわゆるオンコロジーエマージェンシーの1つです。これもIVRで治療可能です。
狭窄した静脈にステントを留置することで、うまくいけば劇的に症状が改善します。
私は、治療したその日のうちに症状が良くなった患者さんをみたことがあります。
4.消化管狭窄・気道狭窄ステント留置
消化管狭窄や気道狭窄にも、IVRの専門医の先生方は、ステント留置の手技を行ってくれます。
以上、様々な症状緩和がIVRではできますので、困った時には相談してみてはいかがでしょうか。
IVRはどこでできるのか
それでは、どこでIVRはできるのでしょうか。残念ながら、まだ限られた施設でしかできないようです。
しかし、自施設でできない場合でも、紹介を受け入れてくれるところもあります。例えば、奈良県立医科大学の放射線科は、自施設の患者さんだけでなく、他からの患者さんを受け入れていますし、IVRができる他の病院も紹介してくれます。
奈良県立医科大学放射線科のホームページのリンクを概要欄に張っておきますので、参考になさってください。
あなたに伝えたいメッセージ
今日のあなたに伝えたいメッセージは
「IVRは、疼痛緩和はもちろん、胸水・腹水やイレウスのコントロールもできる画期的な手技です。IVR が広がることで、つらい症状で苦しむ患者さんが減るでしょう。IVRはこれからの緩和ケアにはなくてはならないものだと確信しています。」
最後まで読んでいただきありがとうございます。
私は、緩和ケアをすべての人に知って欲しいと思っています。
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