具体的なバッドニュースの伝え方について緩和ケア医が説明します(余命の伝え方)【医】#33
こんにちは、心療内科医で緩和ケア医のDr. Toshです。緩和ケアの本流へようこそ。
緩和ケアは患者さん、ご家族のすべての身体とこころの苦しみを癒すことを使命にしています。
今日のテーマは「なぜ医師はバッドニュースを伝えるのが苦手なのか」です。今日は治療医の先生にお話します。
動画はこちらになります。
あなたは、積極的抗がん治療が終わり、終末期に差し掛かった患者さんに、今後のことをどのようにお話していますか。
「余命を含めた今後の予後について包み隠さず話しています」という先生もいるでしょう。「いきなり厳しい話を本人に話すなんてかわいそうだ。まずご家族に話し、本人に話す際は、ご家族とよく相談してから伝えます」という先生もいるかもしれません。
確かに、バッドニュースをご家族に先に話すことで、ご家族にもサポーターになってもらい、そのあと本人に伝えるほうが、本人も受け止めやすいと思っているのかもしれません。
しかし、ご家族が「本人に伝えてほしくない」と言った時はどうでしょう。その場合、本人には伝えられなくなりますよね。では、どうすれば良いのでしょうか。患者さんにバッドニュースを伝えるのは難しい、と多くの治療医の先生が感じておられるのではないでしょうか。
今日は、患者さんにバッドニュースを伝えること。とりわけ積極的抗がん治療が終わり終末期に差し掛かった患者さんに、今の病状や今後のことを伝えることを、医師はなぜ難しく感じてしまうのかについてお話します。
この記事の最後に、私が考える、バッドニュースをどのように伝えたらいいのか、についてお話したいと思いますので、ぜひ最後までご覧ください。
今日もよろしくお願いします。
ある治療医の悩み
先日、ある先生から私に相談がありました。彼は私に言いました。
「半年前に亡くなった、私の患者さんの奥さんから、先日病棟師長に電話がありました。奥さんは師長に、患者さんに余命を言わなかったことをとても後悔している、と言ったそうです。私が余命については患者さんご本人に言わなかったので、患者さんは最後まで、がんを治すことしか考えていなかったようなのです。
余命を伝えていたら、色々な大事なことを話したり、相談することもできたのに、何も話せなかった、と言ったそうです。あの時、私が言わないほうがいいと奥さんに言ったので、奥さんは患者さんに余命のことは言わなかった、とも師長に言っていたそうです。奥さんはそのことを考えると夜も眠れないようなので、先生に診てほしいと思いまして、相談に来ました。」と話しました。
彼はさらに言いました。
「私が患者さんに余命を伝えなかったのは、患者さんがそのことを知るのはかわいそうだと思ったからです。医局では他の先生もそうしているし、上の先生にもそう教わりました。でも、いつも患者さんに伝えていないわけではなく、ご家族が希望される時には、患者さんにも伝えています。あの時は奥さんときちんと相談して決めたんです。それなのにこんなことを言われるなんて…。私のどこがいけなかったのでしょうか。」
バッドニュースを伝える医師のつらさ
この先生の話を皆さんどう思われましたか。
この先生が患者さんに余命を言わなかったのは、きっと先生の優しさから来ているのだと思います。
つらい治療を患者さんはずっとここまで頑張ってきた。それなのに、頑張った甲斐もなく病気は悪化し、命の限りが近づいてきている。そんな状態にある患者さんの気持ちを考えると、ある意味死刑宣告のようなことを患者さんに言うようでかわいそうだ、と思うのも無理もないことです。しかも、同僚の先生や先輩の先生方も同じ考えなのです。奥さんも同意したのに、何で私が責められなければいけないんだ、と思っても仕方がないと思います。
しかし、もう少し深く考えてみましょう。その優しさは本当の優しさなのでしょうか。この先生が患者さんの余命を言わないことで、患者さんは大事な最期の時間をどのように使うか、自己決定できなくなります。
そしてご家族は、大切な話を患者さんとできないことで、後悔が残ってしまいます。場合によっては、10年も20年も後悔を抱えてしまう遺族もいるほどです。
もしこの先生が余命を患者さんに伝えたら、彼が心配しているように、伝えたその時は、患者さんはとても嘆き苦しむかもしれません。しかし、私の知っている患者さんの多くは、その後、残された時間をどうすれば自分らしく過ごせるだろうと、考えられるようになります。確かに、こうしたバッドニュースを患者さんに伝える時、伝える側の医師も、実はとてもつらいのです。
私がまず申し上げたいことは、伝える側の医師も、つらい気持ちになるということです。医師も人間です。つらくなって当然です。今、自分はつらいんだと感じてください。患者さんに残酷な事実を告げなければいけないわけです。なんとも思わないという人はいないと思います。つらくなってもいいんです。
ところが、こうしたバッドニュースを伝える際に、うまくいかない医師のほとんどは、つらい気持ちを無意識に隠したり、心の奥に封印してしまっているのです。そうなると、バッドニュースを伝えたとしても、気持ちが入らずに、やたら冷たく言い放ってしてしまい、患者さんの気持を傷つけてしてしまうことが多いのです。自分自身の本当の気持に気づいていないから、間違って伝わるのだと思います。
もっと悪いのは、バッドニュースを自分から伝えず、ご家族に言わせたり、バッドニュースを言うかどうかを、ご家族に決めさせてしまうことです。これは、本来医師が負わなければいけない責任を、ご家族に負わせてしまっているのです。
繰り返しますが、バッドニュースを患者さんに伝えることは、とてもつらいことです。そのつらさを自覚して、つらくなってもいいと、自分自身に言ってあげてください。
バッドニュースを患者さんに伝えるのは、主治医の大切な役割です。私や周りのスタッフの役割ではありませんし、ましてやご家族の役割でもありません。
バッドニュースは、患者さんが一番信頼している主治医が伝えることで、患者さんは受け止められるのです。主治医のあなたが、患者さんのために、勇気をもってバッドニュースを伝えてあげてください。
バッドニュースはどう伝えるか
では、積極的抗がん治療が終わり終末期に差し掛かった患者さんに、バッドニュースを具体的にどう伝えたら良いのでしょうか。私が思う伝え方の方法についてお話します。
1. 家族の同席で本人に伝える
バッドニュースを伝える際には、本人だけとか、ましてや家族だけに単独に伝えるのではなく、本人・ご家族同席の上、一緒に伝えることを私は強くお勧めします。
ご家族だけに伝えると、先ほどお話した事態が往々にして起こってしまいます。また、後でもお話しますが、本人だけに伝えるのでは、ACPに繋げることが遅れることがあります。
日本では、ご家族だけに話して、本人には伝えなかった時期が長かったので、本人にだけ大事な話をすると、後でご家族が怒ってしまうこともしばしばあります。大事な話は、ぜひ本人、ご家族同席で行うようにしてください。
2. 他のスタッフの同席を勧める
看護師などの他のスタッフの同席も、この時期の患者さんには、良いことも多いです。治療を続けてきた患者さんには、信頼できるスタッフも少なからずいます。彼らがそばにいることで、安心して話を聞けることも多いのです。
3. 主治医であるあなたのつらさは隠さない方がいい
先ほども述べましたが、主治医のつらい気持ちは隠さないほうが良いのです。「一緒に病気と闘ってきたあなたに、この話をするのはとてもつらいのです」と言ってください。感情を出しても良いと思います。
私は、泣きながら患者さんに伝えていた、医師の説明の席に同席したことがあります。その場にいた全員が泣きました。その患者さん・ご家族は、納得して在宅療養に切り替えられました。
4. 残された時間の伝え方
残された時間の伝え方としては、単に余命何か月といった時間を伝えるのではなく「今後は月単位で身体の変化が起きます」とか「桜を見るのを目標にしましょう」といった幅を持った伝え方をしましょう。
その残された時間で何ができるのかが、患者さんにとって大事なことです。これはいわゆるACPです。
患者さん・ご家族にとって大事なことは何か、そのことを一緒に考え、そしてそれをするなら先延ばしにするのではなく、今が良い時期ですよ、などと言ってあげてほしいのです。また、これからの時間をどこでどう過ごすのが、患者さんにとって最善なのかを一緒に考えてあげてください。
以上、具体的なバッドニュースの伝え方を話してまいりました。皆さんの参考になればうれしいです。
あなたに伝えたいメッセージ
今日のあなたに伝えたいメッセージは
最後まで読んでいただきありがとうございます。
私は、緩和ケアをすべての人に知って欲しいと思っています。
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