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【家族向け】終末期のがん患者が苦しむ7つの症状と家族ができる寄り添い方#181
こんにちは、心療内科医で緩和ケア医のDr. Toshです。
緩和ケアの本流へようこそ。
緩和ケアは患者さん・ご家族の全ての身体とこころの苦しみを癒すことを使命にしています。
今日のテーマは「がん終末期に苦しむ7つの症状と家族ができる寄り添い方」です。
動画はこちらになります。
がんになり、もう治療ができなくなり、余命数ヶ月程だと推定される時期を終末期と言います。
本稿をご覧になってくださっている方の中には、終末期の症状は苦しいんだろうか、そんな時にどうすればいいのかと思われる方も多いと思います。今日は、特にがん患者さんをサポートするご家族に向けたお話です。
患者さんの大切な存在である、あなただからできる内容を中心にお話しますので、ぜひ最後までご覧ください。
終末期、ご家族の存在は大切です
がんの終末期と聞いた時、皆さんはどんな印象を持つでしょうか?
「亡くなる直前は苦しんでしまうの?そんなのは可哀想だ」
「今は特に苦しい症状はないが、これからどんな症状が起こるのか不安だ」
「祖父が肺がんで、最期は息が苦しい、苦しいと言いながら死んでいった。そんな最期はいやだ」
「死ぬことなんて考えたくない」
このように皆さんいろんな考えがあると思います。
でも、「大切な人が亡くなっていくことはつらいけど、どうか安らかに旅立ってほしい」とみんな共通して思っていますよね。私もそうです。
この願いは大切な人のことを考えたら当然のことです。
ただ残念ながら、この「安らかに旅立ってほしい」という願いは、ただ願っているだけでは実現しないことも事実です。また、この願いは医療者だけが叶えるものでもありません。
この願いを実現するためには、ご家族の理解や行動、サポートがとても重要になってくるのです。
今回の内容をしっかり理解して、実行してあげることができたら、「安らかに旅立ってほしい」という願いを現実のものにできる可能性は確実に上がるでしょう。
今日のお話はとても基本的なことなので、もうすでに実行できているという方もいるかもしれませんが、「すでにできている」ってことがあれば自分を褒めてあげてくださいね。
今回は「終末期に苦しむ7つの症状とご家族ができる寄り添い方」というテーマですが、noteやYouTubeでは、がんのこと、緩和ケアのこと、患者さん・ご家族にとって役に立つ内容を発信していきます。
他では聞けないような内容もお話していきますので、見逃したくない方は、ぜひ今のうちにフォローをしておいてもらえればと思います。
「安らかに旅立ってほしい」という願いを実現するには…
改めて、今回のテーマは「終末期に苦しむ7つの症状とご家族ができる寄り添い方」です。
なぜ今回のテーマを話したいと思ったかというと、「わからないということは不安を大きくする」からです。
確かに終末期にはいろいろな症状が起こります。けれども、そういった症状はしっかりと緩和できるということを知ってほしいのです。
今回の内容は私が関わっている患者さん・ご家族にもよくします。すると皆さんとても安心してくれます。そして、安心できると、次に自分は何をすればいいのかが見えてくるのです。
先ほど、終末期の症状はしっかり緩和できると言いましたが、医療者ができることだけではなく、ご家族だからこそできることはたくさんあります。それにより、「安らかに旅立ってほしい」という願いの実現につながっていくのです。
では、がんの終末期に起こる7つの症状とはなんでしょうか。
①痛み
②呼吸困難
③嘔気・嘔吐
④倦怠感
⑤食欲低下
⑥せん妄
⑦スピリチュアルペイン
この7つです。
それではそれぞれの症状の説明とその緩和方法、それに加え、ご家族だからできる寄り添い方をお話ししていきます。
終末期の症状①:痛み
がんの痛みは、様々な身体症状の中でも最もつらい症状の一つです。がんの痛みをそのままにしていると、生活の質が落ちたり、意欲の低下や不安感・恐怖などのマイナスの感情も引き起こします。誰しも、痛い痛いと言いながら死んでいくのは嫌ですよね。
しかし、痛みの9割以上は取れるということを知っておいてほしいと思います。
ただし、そのためには適切な疼痛緩和が必要です。詳しくは今回お話しませんが、医療者が行う疼痛緩和については医療用麻薬を始めとした鎮痛薬、放射線治療、神経ブロックなど様々あります。
痛みは終末期になる前からも起こりますが、亡くなる3か月前には4割くらいの患者さんに起こるともいわれています。それゆえ、適切な疼痛緩和が行える医療者を早くから見つけておき、痛みが出てきたらすぐに疼痛緩和してもらいましょう。
痛みは、周囲の人達がそのつらさをわかってあげて、共感することで和らぎます。
あなたの大切な人が、がんの痛みで苦しんでいるのなら、がんの痛みのつらさを聞いて、わかろうとしてあげてください。
タッチングも有効なので痛い部分に優しく触れて、アロマオイルを使ってマッサージをするのもいいですね。そのことが、がんの痛みでつらく思っている人の癒しになるのです。
終末期の症状②:呼吸困難
呼吸困難は、肺がんやがんが肺に転移した場合に起こります。
この呼吸困難の症状は、医療用麻薬のモルヒネで症状緩和することができます。
酸素吸入も効果がある場合があります。在宅で過ごしたい場合は、在宅酸素を貸し出してもらえます。
またこの症状は、部屋に風を通したり、室温を下げることで楽になります。
ベッドを上げて、頭を持ち上げることでも楽になったりします。
風を当ててあげるだけでも楽になりますが、扇風機や、エアコンの風よりも、うちわで扇ぐほうが、効果があることもわかっています。安心できる人がそばにいて、うちわで風を送ってもらうことで、気持ちも癒されるのでしょう。
あなたの大事な人が呼吸困難の症状を訴えた時は、ぜひあなたがうちわでその方に風を送ってあげてください。
終末期の症状③:嘔気・嘔吐
嘔気、嘔吐の症状は様々な要因があります。
治療中の場合には抗がん剤や、痛みで使う医療用麻薬の副作用でも嘔気・嘔吐が生じます。また、腹部にがんがある時には、それが原因で嘔気・嘔吐が起こります。便秘で起こることも多いので、便秘しないように気を付けましょう。
嘔気・嘔吐は脳転移が原因のこともあります。
精神的な要因でも起こります。皆さん、嘔吐をしている人を見た時に、自分も吐き気がしたことがあるのではないでしょうか。
このように、嘔気・嘔吐には様々な原因があり、その原因を取り去ることで症状緩和ができます。
嘔気嘔吐がある時は主治医にそのことを話し、その原因を見つけ治療できることがあればしてもらいましょう。
そしてご家族のあなたにも、嘔気・嘔吐に対してできることがあります。
臭いによって嘔吐が誘引されるので
例えば、患者さんの吐物はすぐに処理する。香水や匂いの強い花などは避ける、などができます。また、食事もやや冷ましたものの方が、においが抑えられるので良いようです。
また、嘔吐の際にすぐ処理できるように洗面器やティッシュペーパー、ビニール袋などの、必要な物を手元に準備しておきましょう。
嘔気・嘔吐の対処は、このようにあなたにできることもあるのです。
終末期の症状④:倦怠感
身体がだるい、疲れるといった症状は誰しも経験があると思います。医学的にはこれを「倦怠感」と言います。
倦怠感は、がん患者さんに生じる、最も頻度の高い症状で、有病率は8~9割と推定されています。がんが進行することで起こる身体の変化のうち、倦怠感を起こすものはとても多いからです。
例えば、貧血、感染、脱水、電解質異常、内分泌異常、栄養障害、肝臓・腎臓などの臓器障害、精神症状など、たくさんあります。このように倦怠感の多くは原因があり、それを取り去ることで良くすることができます。
しかし終末期になると食欲が低下し、さらには全身の筋肉が落ちて、痩せてきます。これを医学的には悪液質と言います。
悪液質になると倦怠感も起こります。ひどくなると、身の置き所のないだるさ、という表現をする患者さんもいます。悪液質は、現状では根本的な治療は困難です。
特に終末期後期の悪液質の場合、私はエネルギー温存療法を提案しています。これは、普段はできるだけ横になった状態で、主として休息を十分に取りながら、患者さんにとって大事な活動をしたいときに動くということです。
エネルギー温存療法は休息すること自体が治療です。このことには賛否両論あるかもしれませんが、エネルギー温存療法は寿命を延ばすことができると私は思っています。
さらには、アロママッサージや、自分の好きな音楽を聞いたりしてリラックスすることも、倦怠感を改善させる方法です。
ぜひあなたの大事な人が、終末期に倦怠感を訴えたら、今お話したことを実行してみてください。
終末期の症状⑤:食欲低下
食欲低下はがん患者さんの60~70%にみられ、進行がんの患者さんの80%に見られるようになります。そして、終末期の患者さんはほぼ全例で食欲低下が起こります。
食欲低下にも原因があり、それを解決することで、食欲をもとに戻すことも可能になってきます。
食欲低下の原因は、身体的な原因・薬物によるもの・うつなどの精神的なものなどがあります。しかし、終末期の食欲低下の原因のほとんどは、先ほどお話した悪液質が原因です。
悪液質自体は現状では根本的な治療は困難であると先ほどお話しましたが、適切な運動・食事・口腔ケアなどにより、悪液質による食欲低下は改善可能です。
食事のことは栄養士から、適切な運動については理学療養士から指導してもらいましょう。また、終末期には口腔ケアが極めて重要なので、歯科医・歯科衛生士の指導も受けましょう。
あなたも一緒に、あなたの大事な人の食欲低下のケアを行い、最期まで食事ができるように目指しましょう。
終末期の症状⑥:せん妄
せん妄とは、体調の悪さなどが原因で、一定の期間意識が混乱することです。急に人が変わったようになったり、ボーッとして会話が通じなくなります。
せん妄は終末期だけでなく、手術の後などでも起こります。認知症やうつ病とよく間違えられますが、治療法が全く違います。
せん妄は薬や、身体の状態の悪化が原因で起こることが多く、原因が取り除かれれば、回復することが可能です。
しかし終末期に起こるせん妄は、回復できないことのほうが多いです。なぜなら、がんが進行することが原因で起こるせん妄なので、がん自体がよくならないからです。しかも終末期にはほとんどの方がせん妄を経験します。
この終末期に起こる回復困難なせん妄のことを終末期せん妄と言います。
したがって、ご家族にとって重要な話は、患者さんが意識のはっきりとした、元気なうちに話しておいてください。また、せん妄で意識がぼんやりしているといっても、あなたが傍にいて、手を握ってあげると、患者さんはとても安心します。
あなたが傍にいることは、せん妄であっても必ずわかるのです。
また、私たち医療者は、せん妄のつらい症状を放っておくことはしません。しっかり眠ることでせん妄は良くなっていく場合が多いので睡眠薬を使います。苦痛は必ず取れるので安心してください。
終末期せん妄の中で、「お迎え体験」というせん妄があることを、緩和ケアの中では言われています。
せん妄の症状の中で、幻覚・幻視のようなものがあります。これは、私たちには見えないものを見たり、感じたりすることです。
終末期せん妄の患者さんも同様に幻視のような症状が起こりますが、その中で、両親などのすでに亡くなった人や、クリスチャンであればマリア様のような、自分が尊敬していた故人がお迎えに来た、ということを言う患者さんも少なからずいます。
「お迎え」を体験した患者さんは在宅で亡くなった患者さんに多く、しかもその方々は、殆どが穏やかな最期だったそうです。
お迎え体験は、幻覚・幻視といったようなものではなくて、終末期を過ごす患者さん・ご家族にとっては大事な実体験なのではないかと私は思います。もし、お迎え体験をあなたの大事な方があなたに言ったとしたら、それはあの世に帰るための予行演習だと思って、穏やかに受け取ってあげてください。
終末期せん妄については別の記事でもお話していますので参考になさってください。
終末期の症状⑦:スピリチュアルペイン
最後にスピリチュアルペインについてお話します。
私は患者さんからよくこのような訴えを聞きます。
「何で私がこんな病気にならないといけないのか」
「私は何のために生まれてきたのか」
「死んだら私はどうなるの?死ぬのは怖い」
このような、なかなか答えの出ない苦痛を、緩和ケアではスピリチュアルペインといいます。これは終末期の患者さんのほぼすべての人が抱える苦しみです。
このようなことを語る患者さんを目の前にすると、私たちは言葉をなくします。しかし、よくよく考えると、これらスピリチュアルペインは病気の患者さんだけが思うのではなく、病気ではない健康な人でも思うことではないのでしょうか。
あなたも、同じような苦しみを感じたことはありませんか。私もこのような苦しみを感じてきた一人です。それなら同じ人間として、こうした苦しみをわかろうとすることはできるのではないでしょうか。
話を聞き、わかろうとし、寄り添い、共有することが、このスピリチュアルペインを癒すことになるのではないかと私は思います。
あなたもぜひあなたの大事な方が、こうしたスピリチュアルペインをあなたに語り掛けたら、しっかりと向き合って聞いてあげてください。そのことで、あなたとあなたの大事な人は、もっと深い関係を築けるのではないかと私は確信しています。
あなたに伝えたいメッセージ
今日のあなたに伝えたいメッセージは
「がん終末期に起こる7つの症状は患者さんにとって確かに苦しいものです。しかし、そういった症状はしっかりと緩和できます。そしてご家族にできることもたくさんあります。これが「安らかに旅立ってほしい」という願いの実現につながるのです。」
今回お話したように、「安らかに旅立ってほしい」という願いは、ご家族の理解や行動、サポートがとても重要になってきます。
そうは言っても、サポートするご家族だってつらい時はあります。そんな時は無理せず、休息も必要です。つかれた時は頑張っている自分を褒めてあげてくださいね。
今回のお話を一回で理解できなくても構いません。何度でもこの記事や動画に戻ってきてください。本稿があなたのお役に立つことを願っています。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。もしよろしければ、コメント欄に感想や意見、記事にいいねをしてくだされば嬉しいです。
また次回お会いしましょう。お大事に。
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