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がんの悪液質は治療中にも起こり、実は改善可能です!【医】#26

こんにちは、心療内科医で緩和ケア医のDr. Toshです。緩和ケアの本流へようこそ。

緩和ケアは患者さん、ご家族のすべての身体とこころの苦しみを癒すことを使命にしています。

今日のテーマは「がん治療中の悪液質」です。

動画はこちらになります。

あなたは悪液質にはどのようなイメージがあるでしょうか。終末期だけに起こり、対処ができないと思っている方も多いのではないでしょうか。

しかし、がんの悪液質は、抗がん治療中にも起こると言われています。そして、実は終末期前期までの悪液質は治療が可能なのです。悪液質を治療することで、QOL・ADLは向上し、治療効果も高まります。また、それにより予後も良くなります。

今日は、がんの悪液質の治療について詳しくお話します。この記事の中で、どのタイミングで、悪液質の治療を始めればいいのか。効果の高い治療法についてもお話しますので、ぜひ最後までご覧ください。

今日もよろしくお願いします。


終末期だけではない悪液質

がんの悪液質は終末期だけに起こるものではありません。

がんの悪液質は進行がん患者さんの60%に起こります。しかも、進行がんの初診時には半分近くの患者さんが、悪液質の状態だとも言われています。もちろん終末期になるともっと増えて、80%の患者さんに起こると言われています。

しかし、終末期前期までに起こる悪液質は改善可能なのです。それにも関わらず、実は多くの医療者はこの事実を知りません。

悪液質は、放っておくと、食欲低下・体重減少の他に、倦怠感・筋肉減少が起こります。筋肉が減少することで、筋肉疲労のための痛みが起こります。さらに、そういった症状が精神的にも影響し、不安・抑うつなどの症状が起こってくることもあります。

また、体力が低下するために、抗がん剤の効果が弱まったり、副作用も増えます。その結果、治療の中断をせざるを得なくなり、さらには生存率の低下にもつながります。そして、こうした要因が重なることで、QOLやADLを悪化させ、さらなる悪循環を生んでしまいます。

しかし、もう一度述べますが、終末期前期までに起こる悪液質は改善可能です。それができれば、食欲・体力の向上、抗がん治療の効果向上が見込めます。そして早期に起こる悪液質に早く気づき、医師だけでなく、多職種で介入することがポイントです。

悪液質の正しい病態・治療方法を知り、患者さんの笑顔を取り戻しましょう!


悪液質の病態

まず、がんの悪液質のメカニズムについてお話します。メカニズムを知ることで、がんの悪液質の治療法がわかります。

がん患者さんが痩せる原因は多岐に及びます。がんが進行することで、疼痛や呼吸困難などの身体症状、さらに抑うつ・不安などの精神症状が起こります。その場合でも、食欲低下が起こり、痩せてきます。

あるいは、がん治療による有害事象でも食欲低下が起こります。例えば、嘔気・嘔吐、味覚障害、口内炎などです。これらの場合は、症状や有害事象が改善すれば、食事がとれるようになり、栄養状態・体力も改善します。

しかし、悪液質の場合は、しっかり食べていても体重減少が起こり、栄養状態・体力も低下します。その理由は、がんの悪液質は、がんの存在が原因だからです。

がんから出される様々なサイトカインにより、エネルギーを消費するスイッチがオンになります。それにより、常にエネルギーを使い続ける、代謝の状態になります。この状態が、がんの悪液質なのです。

エネルギーの貯蓄としての脂肪を燃やすだけでなく、本来は燃やしてはいけない筋肉も燃やしてしまうため、体重減少が起こります。脂肪のみならず、筋肉も減ってしまうことが悪液質の特徴です。

また、サイトカインは、脳の食欲中枢に作用し、食欲を抑える方向に働きます。
サイトカインは、肝臓にも作用し、エネルギーの備蓄を妨げます。このように、悪液質になると、身体全体がエネルギー浪費の状態に傾き、身体を衰弱させる方向に向かわせてしまうのです。

悪液質は、単に頑張って食事をしたり、身体を動かしても良くなりません。後ほど述べますが、悪液質の治療のためには、効果的な介入が必要なのです。


悪液質の介入時期

悪液質は、適切な時期に適切に治療すれば改善できます。それができれば、患者さんの抗がん治療が継続でき、生命予後を延長することが可能になります。

では、どの時期に介入すれば良いのでしょうか。実は、早ければ早いほど良いということがわかっています。

そのことについてお話してまいります。

悪液質には定義があります。

過去6ヵ月間の体重減少が5%以上、もしくは、BMIが20未満かつ、体重減少2% 未満、これに加え、食欲不振になり、CRPなどの炎症性マーカーが上昇した状態。

この時期の悪液質は、治療可能です。

さらに、悪液質の定義には当てはまりませんが、過去6ヵ月間の体重減少が5%よりも少なく、食欲不振・代謝異常が起こってきた状態の時に悪液質と同じような対応をすることで、悪液質が予防できるということもわかってきました。

とにかく、がんの悪液質は、早ければ早いほど治療効果が高まるので、早期介入が効果的なのです。早期介入の結果、体力が回復し、抗がん治療の継続が可能となり、予後の延長も期待できるようになります。

一方、がんが進行し、終末期後期になると、さらに悪液質も進行します。患者さんの活動性も低下し、昼間も横になっている時間が多くなります。この頃の状態の悪液質を、不応性悪液質といいます。

不応性悪液質の状態になると、悪液質自体の改善は困難になります。しかし、エネルギー温存療法など、工夫をすることでQOLは保つことができるのです。

繰り返しますが、終末期前期までの悪液質は治療可能です。できるだけ早く悪液質を見つけ、介入しましょう。


悪液質の治療

最後に悪液質の治療についてお話します。

結論から申し上げますと、がん悪液質の治療には、治療医だけではなく、多職種と共同して介入が必要なのです。

悪液質の治療は、薬物療法、栄養療法、運動療法があります。大切なことは、それぞれ単独では効果が乏しいので、これら3つを組み合わせて行うことです。それゆえ、多職種による介入が望ましいのです。

医師が行うのは、薬物投与です。したがって、医師のあなたはその知識をしっかり知って、薬を効果的に使ってください。また、栄養療法・運動療法の専門家とチームを作り、医師のあなたがチームリーダーとなり悪液質に対処していきましょう。

それでは、具体的な悪液質の治療についてお話していきます。

1.薬物治療

ステロイド
薬物療法として、悪液質に対して昔から使われ、効果があるものとして、ステロイドがあります。ステロイドには様々なサイトカインを抑える効果があり、さらには食欲を上げる作用もあるので、私はよく使います。

ステロイドは、明らかに悪液質だとわかった時、あるいは終末期前期の悪液質に用います。ただし、長期に使うと様々な副作用が起こってくるため、3か月以上の長期使用は控えましょう。

漢方薬
六君子湯や人参養栄湯などの補剤としての漢方薬も、私はよく使います。六君子湯には、消化管運動刺激作用・腸管癒着形成抑制作用・腸管血流増加作用・グレリン分泌促進作用が証明されました。

漢方薬は、ステロイドと併用しても使いますし、悪液質の予防のためにも用います。漢方薬の効果はゆっくり現れるので、2~3か月の長期投与での効果判定が必要です。

エドルミズ®
エドルミズ®は、グレリン様作用薬と呼ばれる作用機序を持つ経口薬です。2021年に新しく発売されました。

グレリンは、主に胃から分泌される内在性ペプチドで、受容体に結合すると、体重、筋肉量、食欲、代謝を調節する複数の経路を刺激します。

エドルミズ®はグレリンと同様の働きをすることで、がん悪液質の患者さんの体重と筋肉量を増加させ、食欲を亢進させる作用があるようです。私は最近使用を始めています。

エドルミズ®は悪液質の予防としては使わず、治療薬として用います。まだ新しい薬ですが、期待できる薬だと思います。

エイコサペンタエン酸
エイコサペンタエン酸は、魚油に含まれるω-3系脂肪酸の1つであり、IL-6など炎症性サイトカインの産生を抑制することが知られています。

エイコサペンタエン酸を、がん患者さんに投与することで、体重の増加、QOLの改善が報告されているようですが、単独で使って効果がある印象はないので、私は使っていません。

サンマやイワシなどの青魚に多く含まれているので、薬として投与するのではなく、むしろ栄養補助的に食べてもらうことが良いかもしれません。

Nsaids
Nsaidsは炎症を抑える効果があるため使うことを推奨されていますが、私の印象としては、明確な効果があるようには今のところ感じていません。


2.栄養療法
次に栄養療法です。

栄養バランスに注意しながら、高たんぱく、高カロリーの食事を心がけることが大切です。悪液質の患者さんは、たくさんの量を食べられないので、少量で効果が得られる、高たんぱく・高カロリーという点がポイントです。

たんぱく質は筋肉をつけるためには不可欠な栄養素です。高たんぱくな食品には、肉、魚、卵、チーズ、豆、ナッツなどがあります。

栄養については、まず食べられるものを食べることが重要ですが、最低限のバランスを考えつつ、できるだけ普段の食事がとれるようにすることが大事です。また、筋肉の合成を促す栄養に特化した、栄養補助食品などを追加することも重要だと思います。

栄養士による食事などのカウンセリングや介入は、栄養状態をよくし、QOLを改善させることが報告されています。

ぜひとも栄養士をチームに入れて、ともに介入してもらいましょう。

3.運動療法
次は運動療法です。悪液質の患者さんの運動は、有酸素運動と筋トレを組み合わせて行います。

有酸素運動で一番簡単で、続けやすいものはウォーキングです。ただ、患者さんには「次の日疲れてしまう量はやりすぎです。自分の体力に合わせた運動を休みながら行いましょう。毎日続けることが大事です。」とお話しています。

最近の見解では、筋トレは1回の運動強度は低くても、回数を増やすことで負荷の高いトレーニングと同じ効果が出せるという研究結果も出てきています。

悪液質になる患者さんには筋肉量が少ない方が多いですが、こうした運動ならそういった患者さんでも自宅で続けられます。患者さんの状態に合わせたトレーニングを、理学療法士など、リハビリの専門家と共に介入してもらいましょう。

以上、悪液質の治療についてお話してきました。

もう一度述べますが、ポイントは薬物療法、栄養療法、運動療法の3つを効果的に組み合わせることです。できるだけ早期に悪液質を見つけ、多職種で効果的に介入しましょう。


あなたに伝えたいメッセージ

今日のあなたに伝えたいメッセージは

「がんの悪液質は終末期だけに起こるものではありません。早期に起こる悪液質は治療可能です。それができれば、食欲・体力の向上、抗がん治療の効果向上が見込めます。そのためにも、早期に起こる悪液質に早く気づき、医師だけでなく、多職種で介入することがポイントです。」

最後まで読んでいただきありがとうございます。

私は、緩和ケアをすべての人に知って欲しいと思っています。

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Dr.Tosh /四宮敏章
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