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【徹底解説】医療用麻薬の使い分けを緩和ケア医が伝授します【医】#51
こんにちは、心療内科医で緩和ケア医のDr. Toshです。緩和ケアの本流へようこそ。
緩和ケアは患者さん、ご家族のすべての身体とこころの苦しみを癒すことを使命にしています。
今日のテーマは「医療用麻薬選択の私の判断基準」です。
動画はこちらになります。
がんの疼痛緩和の一丁目一番地は、患者さんの訴える痛みが、がん性疼痛か、非がん性疼痛かのアセスメントです。このアセスメントはとても大事です。なぜなら、非がん性疼痛に、医療用麻薬を使っても無効であるばかりか、有害になることも多いからです。
疼痛アセスメントについては以前の記事でお話しましたので参考にしてください。
次に考えることは、がん性疼痛に対して、実際にどのような医療用麻薬を選択すればよいかということでしょう。ところが、その選択がわからない方もいると思いますし、実際にどんな時にどんな医療用麻薬を選択すればいいのかという質問を受けることも多いです。
確かに、現在日本で使える医療用麻薬は、たくさんありますので、そのように思っても無理はありません。ただ、いつ、どの医療用麻薬を使うかの判断基準を持つことはとても重要です。
がん性疼痛に慣れた先生であれば、ご自身の判断基準はあると思いますが、それがまだわからない人のために、今日は私の医療用麻薬選択の判断基準をお話します。
そして具体的に、どのような時にどの医療用麻薬を使うのか、その理由と注意点についてもお話します。またこれらに加え、臨床医ならではの実践的な使い方もお伝えしたいと思います。
この記事をきっかけにして、自分なりの医療用麻薬使用の判断基準を考えてみてください。今日もよろしくお願いします。
失敗から学んだ私の医療用麻薬選択の判断基準
私は今大学病院で、緩和ケアチームとして治療中の患者さんから終末期の患者さんまで、幅広く緩和ケアを行っています。今では自分なりの医療用麻薬選択の判断基準がありますが、医師になってすぐはそのようなものは全くありませんでした。
医師になってすぐの内科医時代は、がんの治療中に痛みが出てきた時に、モルヒネを使っていました。なぜなら、当時の日本では、医療用麻薬はモルヒネしか存在しなかったからです。飲み薬のモルヒネはありましたが、効果が出るまで時間がかかりました。
内科医を経て心療内科医になったのですが、その頃、速放製剤のオプソ®が発売されました。注射は患者さんが家に帰った時には自分で使えないので、オプソ®はすごいなと思ったことを覚えています。
その後、ホスピスで働き出し、緩和ケアの道に進むことになりました。その頃、オキシコドン、続いてフェンタニルが登場してきました。
オキシコドンは、速放製剤と徐放製剤、さらに注射剤がそろっており、モルヒネと違って腎不全や透析の患者さんにも使える医療用麻薬と聞き、これは良いものが出た、と思いました。実際に、今でも多くの患者さんに使っています。
フェンタニルは、貼付剤という画期的な方法にまず驚きました。「麻薬を飲む」という行為は、患者さんにとってかなり心理的な負担になっていたので、貼るということでその負担感が減らせると思ったからです。
私はホスピスに入院してきた患者さんで、初めて医療用麻薬を始めた患者さんや飲めなくなった患者さんに、どんどんフェンタニル貼付剤を使いました。はじめはうまくいきました。
ところが、在宅に帰った患者さんや、痛みが取れた患者さんが昏睡になってしまうケースが起こったのです。これはフェンタニルの安全域が狭いために起こったものでした。
もしフェンタニルが内服薬なら、飲むのをやめると速やかに血中濃度が下がると思いますが、貼付剤だったので、昏睡が起こった時にはがした後も、皮下組織にすでに吸収されて、急には血中濃度が下がりません。その失敗談は過去のフェンタニルについての記事で詳しく話していますので、ぜひ参考にしてください。
このような失敗の後、「このままではだめだ」と思い、医療用麻薬の選択を考え直しました。
初心に戻って、もう一度緩和ケアの教科書を読みなおすと、WHOの鎮痛薬の使い方に関する5原則の一番目に「内服できる患者さんは、内服から始めましょう、それが一番安全です」とあるのです。目からうろこでした。
「内服できる患者さんは、内服の医療用麻薬を使う」この原則は今でも私の「戒」にしています。
ところが、ホスピスに入院してくる患者さんは、骨転移などで、強烈な痛みがあり、急いで痛みを取ってあげなくてはいけない人も少なくありません。そんな患者さんに、内服で医療用麻薬を使ったのでは、効果が出てくるのがゆっくりなので、すぐには痛みが取れません。そこで注射薬を選択したところ、早い人でその日のうちに痛みが取れるようになったのです。
さらに、神経障害性疼痛の患者さんの場合には、医療用麻薬だけでは不十分なことも多く、消炎鎮痛薬・鎮痛補助薬を組み合わせて使わなければいけないこともわかってきました。こうした試行錯誤の結果、私なりの医療用麻薬選択の判断基準が、だんだんできてきました。
その後、ホスピスから大学病院に移って、抗がん治療中の患者さんを多く診るようになりました。つまり、ホスピスと違い、終末期以外の対応が必要になったのです。
治療中の患者さんは、抗がん剤をはじめ、様々な薬を使っているため、薬の相互作用を考えて使わなくてはいけません。さらに、治療中の患者さんは内服できるので、基本的には内服薬を使います。
これに加え、薬の管理は自分でする人がほとんどなので、味や形状、管理しやすいかなども考えるようになりました。これらを試行錯誤する中で、私の判断基準がだんだん確立できてきたのです。
医療用麻薬選択における、現在の私の判断基準は以下の5つです。
1.内服できるかどうか
2.使用状況:オピオイドナイーブか、すでに使っているのか
3.時期:治療中か、抗がん剤が終了した時か、終末期か
4.症状:痛みの度合い、痛みの性状
5.状態:腎機能障害、肝機能障害などの患者さんの身体状態、服用しやすさ
この5つです。
これはあくまでも私なりの医療用麻薬の判断基準です。これを参考にして、あなたなりの判断基準をぜひ考えてみてください。
判断基準に基づいた医療用麻薬の選択
それでは、具体的に先ほどの5つの判断基準を見ていきましょう。
1.内服できるかどうか
患者さんが内服できるのか、できないのかが、判断基準の一番目です。内服できる患者さんには内服の医療用麻薬を必ず使います。
内服できる医療用麻薬は、モルヒネ、オキシコドン、ヒドロモルフェン、タペンタドール、そして、メサドンです。
内服できない患者さんには貼付剤、注射剤の選択肢があります。貼付剤はフェンタニル貼付剤のみです。貼付剤は使いやすいと思う方は多いと思いますが、内服できる患者さんには、原則使うべきではありません。
注射剤はモルヒネ、オキシコドン、ヒドロモルフェン、フェンタニルがあり、内服できない患者さんに使いますが、内服できても痛みが強烈な場合にも使います。注射剤は、静脈注射と皮下注で使えます。
繰り返しますが、患者さんが内服できるのか、できないのかが、判断基準の一番目です。
2.使用状況
オピオイドナイーブか、すでに医療用麻薬を使っているのかが、次のポイントです。オピオイドナイーブとは、医療用麻薬を初めて使うことを指します。
モルヒネ、オキシコドン、ヒドロモルフェン、タペンタドール、ともに、オピオイドナイーブ患者さんに使えます。
フェンタニル貼付剤は、以前はオピオイドナイーブ患者さんには使えませんでしたが、現在は0.5㎎製剤が出ましたので、オピオイドナイーブ患者さんにも使えるようになりました。
唯一メサドンは、オピオイドナイーブ患者さんには使えません。他のオピオイドを使っても、疼痛緩和ができないときに使うことを考えてください。
3.時期
患者さんが治療中なのか、抗がん剤が終了した時か、終末期かなど、時期によって使う医療用麻薬を考えます。治療中の場合、薬物相互作用の少ない医療用麻薬を使うべきです。
CYP代謝の医療用麻薬は、オキシコドン、フェンタニルです。グルクロン酸抱合で代謝される医療用麻薬は、モルヒネ、ヒドロモルフォン、タペンタドールです。
治療中によく使う薬物は、CYP代謝されるものが多いので、CYP代謝の医療用麻薬は薬物相互作用を起こします。したがって、治療中の場合には、CYP代謝ではなく、グルクロン酸抱合で代謝される医療用麻薬を使う方が良いでしょう。
CYP代謝される薬物を使わなくなった時期には、こだわらなくてもかまいません。
4.症状
痛みの度合いや痛みの性状で医療用麻薬を選択します。通常は内服の医療用麻薬を使いますが、強い痛みの時は注射薬を選択しても構いません。
次に、痛みの種類で医療用麻薬を使い分けます。内臓痛ならば通常の医療用麻薬で良いですが、体性痛の場合は、速放製剤や注射薬を選択してください。
さらに神経障害性疼痛には、タペンタドール、メサドンを私は選びます。もちろん、医療用麻薬だけでは取れないことも多いので、鎮痛補助薬も併用します。
タリージェ®やリリカ®などの末梢性神経障害性疼痛薬や、SNRIなどの抗うつ薬を使ってください。
5.状態
最後のポイントとして、患者さんの状態も考慮します。
腎機能障害のある患者さんにモルヒネは使ってはいけません。なぜなら代謝物が体内に溜まり、意識障害や呼吸抑制を起こすからです。オキシコドン、フェンタニル、ヒドロモルフォン、タペンタドールは大丈夫です。
この中で選択する場合、内服しやすさなどから、私ならヒドロモルフォンを選択します。詳しくは別の記事でもお話しています。
また、肝障害の時には、どの医療用麻薬も量の減量が必要です。医療用麻薬は主に肝臓で代謝されるため、肝機能障害時には血中濃度が上昇するからです。
以上、医療用麻薬選択における、私の判断基準をお話しました。
医療用麻薬を使用する際の注意点
最後に医療用麻薬を使用する際の注意点をお話します。
まず、施設によって使える医療用麻薬が違うということです。今回私がお話した医療用麻薬はどこでも使えるというわけではありません。
オキシコドンはどの施設でもあると思います。しかしその代わり、モルヒネを置くのをやめた施設もあると聞いたことがあります。
フェンタニル貼付剤は今ではどこでもあると思います。ヒドロモルフォンも採用する施設が増えてきているようです。しかし、タペンタドール、メサドンを置いてある施設はまだ少ないのが現状だと思います。
せっかくタペンタドールを使って疼痛緩和ができても、転院先や在宅に帰った先でタペンタドールが使えないということもあり得ます。したがってそのような場合、転院先や在宅医に交渉して、取り入れてもらう必要があります。もし取り入れてもらえなかった場合は、代わりの選択肢も考えなくてはなりません。
このように、全ての医療用麻薬はどこでも使えるというわけではありませんので、注意してください。
また、違う医療用麻薬に切り替えるオピオイドスイッチングや、内服から注射に、あるいは注射から内服にする時は、量の調整には注意が必要です。医療用麻薬の換算表がありますが、それを妄信してはいけません。
バイオアベイラビリティといって、体内で利用できる割合が各医療用麻薬ごとに違いますし、何よりも個人差があり、換算表通りの量で替えられないことが多いのです。
私はスイッチする際には、換算表の6割くらい少ない量から始めて、少しずつ増量して、その人に会う量を見つける方法を取っています。
参考にしてください。
以上、私の医療用麻薬の選択基準について話してまいりました。この話を参考にして、あなたなりの医療用麻薬の選択基準を作っていただきたいと思います。
あなたに伝えたいメッセージ
今日のあなたに伝えたいメッセージは
「医療用麻薬の判断基準は、内服できるのかどうか、使用状況、時期、症状、状態の5つです。患者さんにとって最適な医療用麻薬を選択できるように、あなたなりの判断基準を持ちましょう。」
最後まで読んでいただきありがとうございます。
私は、緩和ケアをすべての人に知って欲しいと思っています。
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