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【後悔したくない】なぜ、多くの日本人は高額ながん治療をしたがるのか?(標準治療,最先端治療,先進医療)【家】#167

こんにちは、心療内科医で緩和ケア医のDr. Toshです。緩和ケアの本流へようこそ。

緩和ケアは患者さん、ご家族のすべての身体とこころの苦しみを癒すことを使命にしています。

今日のテーマは「標準治療は並の治療?」です。

動画はこちらになります。

誰でも、もしがんになった時にはできるだけ良い治療を受けたいと思いますよね。
私もそう思います。そんな中で、主治医から「標準治療をしましょう」と勧められると思います。

あなたは「標準治療」と聞いてどんな印象を持つでしょうか。「標準治療」は並みの治療で、誰でも受けられる最低限の治療だと思っている方も多いのではないでしょうか。ところがこれは大きな誤解で、このように思ってしまうと、治療方針を決める際に、大きく間違ってしまう危険性があります。

今日はそんな「標準治療」の正しい意味についてお話します。

この記事では、ネットなどで情報を集める時の落とし穴と、その対処法もお話しますのでぜひ最後までご覧ください。


がんの治療を選ぶときに一番大切なこと

がんになった時には、できるだけ良い治療を受けたいと思う気持ちは誰もが持っています。そのための治療を選ぶときの、一番大切にしないといけないことは何だと思いますか。それは、「自分自身が納得して治療の選択をすること」だと私は思います。

多くの人にとって、がんになるということは、これからの人生を左右する大きな出来事です。ですから、どんながん治療を選択するかで、今後の人生も大きく変わってくるのです。したがって、自分自身が納得した治療を選択することが、とても大切だと思うのです。

現代では価値観が多様化し、大切なものや大事にしていることも人によって違います。がん治療に関してもネットで様々な情報を知ることができます。

しかし、それらの情報が本当に正しいものかどうか、あいまいなものが多いのも事実です。間違った情報をもとに治療を選択したのでは、逆に後悔することも多いのです。

私がホスピスで働いていた時、保険のきかない高価な治療をしたのに全く効果がなく、がんが悪化して、ホスピスに入院してきた患者さんは少なくありませんでした。その中に、標準治療をしておけば結果は違ったかもしれないと思うケースも多々ありました。

そういった患者さんの多くは「ちゃんとした治療をしておけばよかった。」と後悔の気持ちを口にしていました。私は、患者さんやご家族にそんな後悔をしてほしくないのです。そのためには、本当に正しい情報が必要なのです。

多くの方は「標準治療」は並みの治療で、誰でも受けられる最低限の治療だと誤解しています。標準という言葉のイメージから、「最低限の治療」だと思ってしまうのでしょう。

しかし実は、「標準治療」とは、大規模な臨床試験に基づいて効果の証明された、現時点で最も推奨される治療法なのです。

皆さんには、本当に正しい情報を得て、それをもとに自分で納得した治療を選択してほしいと、心から思っています。


「標準」治療の意味

「標準治療」を並みの治療だと誤解してしまうと、もっと良い治療が無いか探したくなってしまいます。

ネットなどで検索すると「最先端治療」などの言葉が書かれている治療法がたくさん出てきます。そちらの方がより良い治療だと思い、そちらの治療法の方が魅力的に見えるかもしれません。

しかし先ほどお話したように「標準治療」とは、大規模な臨床試験に基づいて効果の証明された、現時点で最も推奨される治療法なのです。

では、標準治療についてもう少し詳しく話してまいります。

標準治療は、英語の「Standard Therapy」を日本語に訳したものです。このStandardの訳に「標準」という言葉を当てはめていますが、実は英語のStandardには、「権威がある」とか、「定評がある」などの意味でも使われます。

例えばStandard Nunnberとは、長年多くの人たちに愛され、演奏されてきた曲のことです。決して、並みとか、普通の曲という意味ではありません。

そのような意味合いが、Standard という言葉にはあります。ですので、Standard Therapyと言うと「みんなが知っている、間違いのない治療」というニュアンスとなり、最良の治療に近い意味になるのです。

国立がん研究センターが運営する「がん情報サービス」の記載では、標準治療は次のように定義されています。標準治療とは、「科学的根拠に基づいた観点で、現在利用できる最良の治療であることが示され、一般的な患者さんに行われることが推奨される治療」をいいます。

そして、現在の日本では、標準治療には医療保険の適応があります。科学的根拠に基づいて効果が証明されている治療なので、国が支援をしているという見方もできます。

効果が証明されていない治療を、国民すべてが負担する公的医療保険に適応することはできませんよね。これらのことから、標準治療は、効果の証明された、現時点で最も推奨される治療法なのです。

一方で、先進医療に興味を持っている方も増えています。がん保険にも、先進医療特約があり、その契約者も増えていると聞きます。「先進医療」は、「標準治療」よりも優れている、と思っている人もいるかもしれませんが、実はこれも間違いです。

「先進医療」とは、研究・開発中の試験的な治療です。その効果や副作用などを調べる臨床試験で評価され、それまでの標準治療より優れていることが証明され推奨されれば、その治療が新たな「標準治療」となります。評価されなければ、標準治療にはなりません。

「先進医療」は「標準治療」の効果が無くなった時に次の選択肢として出てくるものです。しかし、治療は全額自費になる場合がほとんどで、大変高額になるのでがん保険の特約が存在するのです。「先進医療」は、将来の人たちに役立つためだと思って受けていただくことが必要かもしれません。


ネットで情報を集める時の落とし穴とは

最後に、ネットでがん治療を検索するとき、誰もが陥りやすい落とし穴についてお話します。

1.検索の上位に出てくる記事に注意

検索した時、上位に出てくる記事をすぐに信用してはいけません。検索したときに上位に出るようにお金を払って広告しているものがあるからです。そういう場合、よく見ると広告と書いてあります。

その場合、科学的根拠が乏しく、高額な治療が多いので注意してください。検索の上位に出てくるから信頼できるわけではないことを知ってください。

2. ネット情報は玉石混淆

まだまだネット環境は整備されていません。良い情報もあれば、そうでない情報がランダムに出てきます。悲観的な記事も多いので、ネットを見ているとつらくなる、という患者さんが多いです。

個人的な発信も多く、信憑性に欠ける記事も多いと思います。ネット情報は玉石混淆であることを知ってください。

3. 体験談はケーススタディ

この治療で、末期がんが治りました、とか、この○○を飲んで、がんが完治しましたという、記事をよく見ることがあります。そのことで、高価な治療法や、健康食品を試してみたくなるかもしれません。

治った人がいたことは事実かもしれませんし、そのことを私は否定しません。しかしそれはひとりの人の個人的な体験であり、みんなに効果があるわけではないのです。こういった個人の体験談はケーススタディと言えるかもしれません。

私たちの間では、ケーススタディとは、学会に発表できるくらいの珍しい症例を言います。1例のケーススタディでも無意味なことではありません。

そういったケーススタディがもし何例も集まってきたらもう少し発展した研究になっていくでしょう。しかし、そういった研究発表もほとんどない場合、こうした個人の体験はめったにない非常に珍しいケーススタディなのです。

4. 極端な物言いに注意

例えば、「すべてのがんに効きます」とか、「服用した全員が効果を実感しました」といった、極端な表現には注意が必要です。

がんは手ごわい相手なので、どんなに良い治療であっても、すべての人に効果があるわけではないのが現実です。

5. 耳触りの良い言葉には要注意

「抗がん治療はつらかったでしょう。ここの治療は副作用はありませんからね。」「ここでは何でも言ってくださいね。がんは絶対に治します。

こんなことを言われました、と医療保険のきかない治療をしているクリニックに行った経験のある患者さんが私に教えてくれました。

「初めて行って話をした時には、本当に気持ちが揺れました。私は先生から聞いていたから、そこには二度と行きませんでしたが、知らない人ならコロッと騙されるかも。」とその患者さんは言いました。

がん治療には副作用はあります。治療の良い面だけを言う医療者には注意が必要です。きちんとメリット・デメリットを聞くようにしましょう。

今はどうかは知りませんが、私がホスピス医をしている頃は、保険適応外のがん治療をしているクリニックの医師は、緩和ケアのことを良く思っていない方が多かったように思います。

実際にそのような医師から「緩和ケアは敗北の医療です。自分は末期がんの患者さんには、最後まで高カロリーの輸液をして、生きることをあきらめさせません。」と言われたことがあります。

もし、本当に終末期の患者さんに高カロリー輸液をずっと行ったら、全身が浮腫になり、苦しみながら亡くなってしまうことでしょう。

このドクターは緩和ケアを全く理解していないと言わざるを得ません。

私は自分ががんになったら、標準治療を受けたいと思います。しかし、すべてのがん患者さんが標準治療を受けなければいけないとも思ってはいません。

はじめに申し上げたように、自分自身が納得して治療の選択をすることが一番大事なことだと思っています。しかし、緩和ケアを否定する医師のもとでは、がん治療は受けてほしくはありません。それだけは皆さんにお伝えしたいと思います。

ネットの情報は知識を得るための手段としては良い方法だと思いますが、私が一番してほしいのは主治医と信頼関係を作り、主治医から納得できるまで話を聞くことです。

正しい情報をもとに、納得した治療を選択してください。


あなたに伝えたいメッセージ

今日のあなたに伝えたいメッセージは

「「標準治療」は「並の治療」という意味ではありません。「標準治療」とは、大規模な臨床試験に基づいて効果の証明された、現時点で最も推奨される治療法です。正しい情報を知り、納得した治療選択をしましょう。」

最後まで読んでいただきありがとうございます。

私は、緩和ケアをすべての人に知って欲しいと思っています。

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Dr.Tosh /四宮敏章
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