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「余命を聞かれて困った」そんなあなたへの記事です【医】#50

こんにちは、心療内科医で緩和ケア医のDr. Toshです。緩和ケアの本流へようこそ。

緩和ケアは患者さん、ご家族のすべての身体とこころの苦しみを癒すことを使命にしています。

今日のテーマは「余命を聞かれたら」です。

動画はこちらになります。

先日、研修医から質問を受けました。その質問とは余命についてでした。

内容は、がん患者さんの余命は伝えるべきか。もし伝えるとしたら、どのタイミングが良いのか。どう伝えたらいいのか。そもそも余命は、どうしたらわかるのか?

というものでした。

たしかに、若い先生や学生の方は、余命の取り扱い方に迷っても無理はありません。今日はそんな余命についてのお話をします。

この記事の最後に「余命を具体的にどのように伝えたらいいのか」私がいつも行っているやり方もお話しますので、ぜひ最後までご覧ください。

今日もよろしくお願いします。


医師が余命を伝えるべき時とは?

患者さんに余命を伝えるべきかどうかについては、治療医の先生方にとって、とても悩ましい問題だと思います。私も長年とても迷ってきました。

実は、緩和ケア医になった頃は余命の告知をしていませんでしたが、今はできるだけした方が良いと思っています。その理由については別の記事で詳しくお話していますので、興味のある方は是非ご覧ください。

そうは言っても、余命を伝えた方が良い時期と伝えない方が良い時期があると思っています。

まず、余命をお伝えしたほうが良い時期は、がんが進行し抗がん治療が終了して、患者さんが人生の最終段階に差し掛かかってきた時です。なぜかというと、人生の最終段階において、患者さんが残された時間を大切に使うためには余命を告げることは、必要なことだからです。

残された期間を知ることで、自分がどれくらい元気でいられるのか、自分にとって1番大切な優先すべきことは何なのか、あるいはつらい症状が出た時どのようなケアが受けられるのか、最期をどこで過ごすのかなど、患者さんにとって本当に大切なことを考えることが可能となるからです。

死をあいまいにするのではなく、残された時間を知りこれからどう生きるかを考えることで、「限りある命を精一杯自分らしく生きる」ことができると私は思います。

一方で、治療中の患者さんの余命は、正確には言い当てられないことが多いです。なぜなら治療の結果によって、余命は変わりますし、個人差が大変大きいからです。

余命とは「残された正確な時間」ではありません。余命とは、あくまで「これくらいの期間は生存しているだろう」という推測でしかありません。余命1年と言われて、それ以上生きている人もいます。一方で、1年より短くしか生きられない人もいます。

その理由は医療者は余命を生存期間の中央値で予測しているからです。つまり、治療中の患者さんの余命はほとんど当たりません。

「治療しなかったら余命3カ月、治療したら1年以上は見込めます」などと患者さんに話す医師がいます。おそらく治療を頑張って欲しいからだとは思いますが、実際には効果的ではありません。

そもそもが、余命そのものが正確ではありませんし、このような言い方では、患者さんは脅されたような気持になってしまいます。主治医に対し、安心感を持つことができなくなるからです。治療中の患者さんには、余命をこちらからは伝えないようにしてください。

また、余命を患者さんから聞かれて、どう答えていいかわからなくて困った、ということを若い先生からよく聞きます。けれども、怖がる必要はありません。ACPのチャンスだと思い、逆にこちらからなぜ余命を知りたいのかを聞いてみましょう。

すると患者さんは、余命を知りたいと思っている理由を言ってくれるでしょう。その後、しっかりとコミュニケーションを取ることで患者さんの大切にしているものが見えてきてサポートがしやすくなるのです。

もう一度まとめます。医師から患者さんに余命を伝えるタイミングは終末期のみです。治療期の患者さんの余命は伝えるべきではありません。


終末期の余命を正確に知るために

さて、患者さんが、人生の最終段階に差し掛かかってきた時には余命を伝えてくださいと言いましたが、それでは、余命はどうやって見積もれば良いのでしょうか。

PPI(Palliative Prognositic Index)という予後予測ツールがあります。全身状態・食事・呼吸状態・むくみ・意識がPPIの予後予測の指標です。詳しくは別の記事で解説していますので、参考にしてください。

我々緩和ケア医は、月単位・週単位・日単位・時間単位で余命を考えます。その方法が余命を判断するのに一番実践的なのです。

例えば、患者さんの状態がひと月前と違うときは、月単位の変化と考えます。具体的には、先月に比べて痩せてきた、食欲が減った、活動量が減った時に、そう判断します。そして、週ごとに変化すると週単位、毎日変わってきたら日単位という感じに患者さんの状態を判断しています。

私は月単位の変化だと思った時点で、患者さんに余命を伝えてほしいと思っています。週単位、日単位の時期になると、患者さんの活動量は急速に低下し、寝ていることが多くなり、患者さんがやりたいことはほとんどできなくなっていきます。月単位の変化になった時が患者さんが本当に大切なことを考え、実行する最期のチャンスだからです。

それでは、具体的な内容に入っていきたいと思います。


終末期の余命の具体的な伝え方

具体的な伝え方を話す前に、そもそも人生の最終段階に差し掛かかってきた患者さんは、余命を知りたいと思っているのでしょうか。

国立がん研究センターの研究では、7割以上の人が、人生の最終段階には余命を知りたい、または、先々の見通しを知りたいと思っていると報告されています。終末期になると、多くの患者さんが残された自分の命の長さを知りたいと思っているのです。

では具体的に、いつどのように伝えれば良いのでしょうかいつ伝えるかについては、抗がん剤治療が中止となり、がんが進行していることが明らかになった時期が良いと思います。この頃が、先ほど言った月単位の時期であることが多いです。

それではどのように伝えたらいいのでしょうか、まず私がいつも行っているように、ここでお話してみます。

「先日抗がん剤の治療をやめるというお話をしました。その後に多くの方が私にしてくる質問で最も多いのが、自分に残された余命はどのくらいか、というものです。

もちろん余命には個人差があります。人の命の長さは誰にも分りません。しかし私の経験で、今の時期の患者さんのおおよその命の長さが推測できます。したがって、私は聞きたいと希望される方には、私の予想をお伝えしています。

私の予想が当たらずに、はるかに長く生きられる人もいるので、もし聞きたいとしても、あくまで私の意見として聞いていただきたいと思っています。私が余命をあなたに知ってほしいと思っている理由は、これからの人生をできるだけ有意義に生きてほしいと思っているからです。

今後急に体調が悪くなったり、横にならないとしんどくなったりするようになるかもしれません。でも今なら、あなたのやりたいことや、やり残したこと、ご家族と一緒にしたいことなどができるのです。今の体調の時に、様々な準備をあなたにしてほしいと思っているのです。」と話します。

そして「聞きたいですか」と率直に患者さんにお聞きします。「聞きたい」と答えた患者さんには、余命の算定をして正確にわかるならそのままお伝えし、患者さんと一緒に残された時間の使い方を考えます。

伝え方で大事なことは、単に数字を言うのではなく、幅を持たせて言うことです。「今後は月単位で身体の変化が起きます」とか「桜を見るのを目標にしましょう」といった幅を持った伝え方をしています。

さらに、今後どのような症状が出現するか、身体がどのように変化するか、元気でいられる期間はどのくらいか、そしてその後急速に悪化する可能性が高い、ということも伝えます。もちろんつらい症状はしっかり緩和できることは忘れないでお伝えします。

「迷っている」「分からない」と答えた患者さんには「今すぐ決めなくていいいので、考えておいてください」と言って、無理強いはしません。そして「後から聞きたいと思ったら、いつでもおっしゃってください」と言います。

「知りたくない」という患者さんにも、当然無理には伝えません。「知りたくない」と答えた患者さんにとって、余命を言われるということが死を宣告されるような脅威だと感じた可能性もあります。

もう一度、何の意図で伝えようとしたかについて繰り返します。そのうえで、「もしつらい思いをさせたとしたらすみません」と謝ります。この場合も、また後から余命を聞きたいと思ったら話すことも伝えます。

いかがだったでしょうか。先程の内容には3つのポイントがあります。

1.余命を伝える時期は月単位になった時
2.余命を伝える前にその意義を伝える
3.伝えてほしいと言った人のみ伝える

話す順番も大事ですのでぜひ覚えておいてください。


余命を伝える際に注意すべき点

最後に、余命を伝える際に注意すべき点についてお話します。

余命を患者さん・ご家族の一方に伝えている医師がいます。しかし、患者さん・ご家族のどちらか一方に伝えてはいけません。特にご家族だけに伝えることはやめてください。

確かに、ご家族だけに話す医師の気持ちは理解できます。例えば、患者さんがかわいそうだと思う方も多いでしょう。先にご家族に話しておいて、サポーターになってほしいと思う人もいるかもしれません。

また、ご家族からクレームを言われたくないと思っていたり、患者さんは自分の身体がしんどくなると自分でわかるから伝えなくてもよい、と思う場合もあります。私も昔はそう思っていました。

しかし、どちらか一方にだけに伝えると、そんなつらい話を自分から共有しなくてはいけなくなります。さらにもっと言うと、ご家族だけに伝えた時は、患者さんに伝わらない場合もあるのです。そうなってしまうと、患者さんは最期のいい時間を自分で有意義に使えなくなってしまいます。

私はそんな患者さんを多数見てきました。ご家族は本当のことを言えず、つらい思いをしたり、後々後悔を長い間することも多くあります。

患者さんが最期のいい時間を使うために余命の話をするのは、医者の仕事です。絶対に家族にさせてはいけません。必ず患者さん・ご家族同時に伝えてください。

患者さんのつらさは、ご家族も共有したいと思っています。そして、患者さんに残された時間はご家族のものでもあるのです。一緒に伝えてあげると、ご家族も一緒にACPを考えて実行することができます。

さらにスタッフも一緒の方が良いです。患者さんやご家族のサポートをしやすくなるからです。その後のACPも一緒にしてくれるでしょう。また、患者さんやご家族からの医師への不満があった場合にも、聞いてくれたり、サポートしてくれることもあります。

したがって、余命を伝える時は、患者さん・ご家族・スタッフ同席のもとで行うことをおすすめします。

大切にしてほしいことは、残された時間で何をしたいのかを一緒に考えるという態度です。そうした医師の優しさ、思いやりが、患者さん・ご家族の気持ちを癒すことに繋がるのです。

この記事を通じて、人生の最終段階に差し掛かった患者さんに、余命を伝えられ、患者さん・ご家族と一緒に残された時間をどう使うかを考えられる医師が増えれば幸いです。


あなたに伝えたいメッセージ

今日のあなたに伝えたいメッセージは

「医師の方から患者さんに余命を伝えるタイミングは終末期のみです。患者さんに余命をしっかり伝え、限りある命を精一杯自分らしく最期まで生きるための話し合いを、患者さんと一緒にしましょう。」

最後まで読んでいただきありがとうございます。

私は、緩和ケアをすべての人に知って欲しいと思っています。

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Dr.Tosh /四宮敏章
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