がんの在宅医療に緩和ケアに長けた在宅薬剤師は必須です【医】#30
こんにちは、心療内科医で緩和ケア医のDr. Toshです。緩和ケアの本流へようこそ。
緩和ケアは患者さん、ご家族のすべての身体とこころの苦しみを癒すことを使命にしています。
今日のテーマは「こんな在宅薬剤師と仕事がしたい」です。今日は薬剤師の先生方にお話します。
動画はこちらになります。
在宅医療において、薬剤師の役割は今後ますます大きくなってくると思われます。
なぜなら、地域包括ケアを勧める動きが、国を中心として、医療界の中で広がってきているからです。
積極的抗がん治療が終わったがん患者さんは、これから病院ではなく、在宅に帰っていく人が増えていくでしょう。また、最期の時間を住み慣れた家で家族と過ごしたいという、患者さんやご家族のニーズもだんだん増えてきています。
そのため、在宅医で緩和ケアをあまり経験していない医師も、がんの終末期の患者さんを診る必要が増えてくると思われます。そんな時、専門的な薬の相談ができる在宅薬剤師が地域にいると、医師としては本当に心強いものです。
今日はこれから求められる在宅薬剤師についてお話します。
この記事の中で、私がとても頼りにしている2人のスーパー薬剤師も紹介します。ぜひ最後までご覧ください。今日もよろしくお願いします。
2人のスーパー薬剤師
私が仕事をしている地域には、2人のスーパー在宅薬剤師がいます。彼らが頑張ってくれている地域の緩和ケアの質は、とても向上してきています。
以前の私は、在宅薬剤師という存在を知りませんでした。私がホスピスから大学病院に勤務先を変えた頃、近隣の病院で働く、ある薬剤師と知り合いました。
彼は薬剤師という立場で、緩和ケアを病院内で広げていこうとしていました。彼の取り組みが素晴らしいので、何度か、講演や研修会で話をしてもらいました。
しかしある時、彼は「僕は開業するので、病院を辞めます。」と言ってきたのです。私は、正直「もったいないなぁ」と思いました。あれだけ病院で緩和ケアを頑張ってきたのに、緩和ケアをやめてしまうのかと思ったのです。しかし、それは私の全くの誤解でした。彼は、在宅薬剤師になったのです。
ある在宅医の先生が私に教えてくれました。
「終末期で家に帰った肺がん患者さんが、最期まで家で過ごしたいと言われました。患者さんは呼吸困難の症状緩和のため、モルヒネを飲んでいたのですが、飲めなくなったらどうしようと思っていたら、訪問看護師が、ある在宅薬剤師を紹介してくれました。彼は、モルヒネの皮下注射を教えてくれて、薬を患者さんの家まで届けてくれました。
皮下注射の経験は初めてでしたが、薬を機械につめてくれたり、量の調節のアドバイスもしてくれました。経験の少ない私にはとても助けになりました。おかげで、患者さんは苦しまず、穏やかに、家で最期を迎えることができました。それ以来、私も皮下注射に苦手意識はなくなりました。あの在宅薬剤師さんには本当に感謝しています。」
実は、この在宅医の先生と仕事をしていた在宅薬剤師は、先ほどお話した彼だったのです。彼は、在宅で薬剤師として緩和ケアをしていたのです。しかも、在宅緩和ケアの経験が少ない医師へのアドバイスまでしてくれていたのです。
私は彼が緩和ケアをやめてしまったという誤解をしていたことを、申し訳ないと思うと同時に、薬剤師が在宅緩和ケアにおいて、とても重要な役割をしているということを理解しました。そして、もっと彼と連携したいと思いました。
それからしばらくして、もう1人のある薬剤師が奈良で開業しました。彼は、製薬会社で研究開発の仕事をしていましたが、思い切って、長年やりたかった在宅薬剤師の仕事を始めたそうです。50歳を過ぎてからの開業でした。彼も、在宅医にどんどん皮下注射を勧めてくれています。
皮下注射は、医療用麻薬などの内服ができなくなった患者さんに投与する方法です。私はホスピスで働いている頃は、8~9割の終末期の患者さんに、注射による症状緩和のコントロールをしていました。その結果、ほとんどの患者さんは、穏やかに最期を迎えることができていました。
注射による症状緩和のコントロールは緩和ケアには必須であり、それが導入できると、在宅でも患者さんは苦痛なく最期まで家で過ごすことができるのです。病院ではシリンジポンプを使って静脈注射でコントロールすることが多いのですが、在宅では皮下注射によるコントロールの方が、安全で確実です。しかし、まだまだ皮下注射を在宅医療に取り入れている在宅医は少ないのが現状です。
在宅医から彼らに問い合わせがあって、皮下注射が導入でき、在宅看取りができたケースが増えています。最新の皮下注射の装置であるエイミーPCAの普及にも、2人は頑張ってくれています。
皮下注射についての詳しい話は、以前の動画にも詳しく解説していますので、ぜひ参考になさってください。
この2人の在宅薬剤師のおかげで、私の地域では在宅緩和ケアが広がり、質も向上してきました。
大学病院の緩和ケアチームでも、一緒に働いてくれている薬剤師には、私はいつも助けられています。薬剤師がいなければ、緩和ケアチームは立ちいかなくなると思います。
病院薬剤師という仕事はとても重要な仕事であることは確かです。それと同様に、在宅薬剤師という仕事も地域医療、とりわけ緩和ケアという側面においては、とても重要な職種です。これから、在宅医療が増えてくることからも、在宅薬剤師のニーズは高まっていくでしょう。
在宅薬剤師は、患者さんが最期まで家で過ごしたい、という希望を叶えるための、キーパーソンと言ってもいいくらいかもしれません。緩和ケアの知識とスキルに長けた在宅薬剤師がいれば、たとえ在宅緩和ケアの経験が少ない在宅医であっても、最期まで穏やかに過ごしたいという患者さんの希望を叶えることができるでしょう。
ところが、まだまだ在宅薬剤師の数は少ないのです。とりわけ彼らのようなスーパー薬剤師は全国でもまれかもしれません。全国に彼らのような在宅薬剤師が増えれば、在宅に戻っていく多くの幸せな患者さんが増えると思っています。
できる在宅薬剤師の条件
私から見た、彼ら2人の素晴らしいと思える仕事の特徴をお話します。
1. 対応が早い
まず彼らの仕事ぶりを見て感心する点は、対応が早くとてもスムーズな点です。
在宅薬剤師とは、文字通り、在宅ケアを受けている患者さんの家に実際に訪問して、薬剤管理をする薬剤師のことです。
彼らは、薬が必要になると、すぐに対応してくれます。内服薬だけでなく、注射薬もすぐに患者さんの自宅に持っていってくれます。「24時間、365日対応します」と彼らは言います。
そのことだけでも、患者さん・ご家族はとても安心できます。在宅医も訪問看護師もとても助かります。彼らの熱意が感じられます。
2. 緩和ケアに精通している
彼らと話していて、特に感心することは、緩和ケアについてとてもよく知っているな、と思う点です。緩和ケアでよく使う薬剤についても熟知していて、私が詳しく説明しなくても、すぐに理解してくれます。
先ほど述べた新しい皮下注射の装置についても、彼らはいち早く取り入れていました。いかにすれば患者さんが安心して自宅で過ごせるのかを、いつも考えているのだと思います。そのために勉強し、日々向上を目指しているのだと思います。
3. 医師と対等である
私が彼らと話していて感じることは、彼らが医師に対しても、何でも遠慮なく
アドバイスをしている点です。薬剤師は、医師の指示のもと服薬管理をおこなうことが前提とされています。したがって、医師の指示がないと何もできないと思っている方もいるかもしれません。
しかし薬剤師は、薬学的な面での医師への助言も、積極的に行うことができるのです。終末期においては、輸液や栄養管理はとても重要で、こまめに行う必要があります。また、内服できなくなった時の薬剤投与ルートの変更も重要です。
先ほど述べた、皮下注射へのルート変更もそのひとつです。これらについても、彼らは在宅医に対等に意見が言えています。自分の薬剤師としての誇りを感じます。自分の仕事の専門性と役割に対して、明確な自信があるのだと感じさせられます。
4. チームとして協同する
とはいえ、もちろん彼ら一人で仕事をしているわけではありません。
在宅緩和ケアには、大勢の職種が関わります。医師、看護師、理学療法士、栄養士といった医療面のスタッフだけでなく、ケアマネージャー、ヘルパーといった職種も関わります。在宅薬剤師も、こうした在宅ケアを行うチームの一員としての側面があります。
先程からお話している彼らはその意識も明確に持っています。「退院前カンファレンスには必ず出席するようにしています」と言っていました。在宅を担う多くのスタッフは、彼ら2人をとても信頼しているように見えます。
以上、私が思っている、彼らの仕事ぶりについて述べました。
彼ら2人の薬局のホームページのリンクを概要欄に張っておきますのでぜひご覧になってみてください。
さなえ薬局、天理さなえ薬局
志都美薬局
ぜひ、全国に彼ら2人のような在宅薬剤師が増え、多くの患者さんの在宅で最期まで穏やかに過ごしたいという希望が叶えられることを願っています。
あなたに伝えたいメッセージ
今日のあなたに伝えたいメッセージは
「在宅緩和ケアにおいて、在宅薬剤師の存在はとても重要です。緩和ケアの知識とスキルに長けた在宅薬剤師が地域にいるだけで、そこの緩和ケアのレベルは飛躍的に向上します。そんな薬剤師が全国に増えてほしいと思っています。」
最後まで読んでいただきありがとうございます。
私は、緩和ケアをすべての人に知って欲しいと思っています。
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